埼玉県農協健康保険組合・坂本昌之常務理事に聞く!
いよいよ4月から消費税8%が実施された。この消費税が今後どのように膨大に増え続ける社会保障費をカバーしてくれるのか注視する必要がある。大切な命を守る医療、その医療を持続するための制度が立ち行かなくなってきているのである。ここで1度、私たち日本国民は基本的なことに立ち返る必要がある。
この度、『医療保険制度の理解促進に向けて』という本を出版された経緯と動機等についてもお聞きしました。
スペシャルインタビュー「保険者に聞く!」
埼玉県農協健康保険組合 常務理事 坂本 昌之 氏
―はじめに貴健康保険組合の設立の経緯と理念についてお聞かせ願います。
当健康保険組合は1974年、埼玉県内の農業協同組合に働く人を中心に169の事業所(農協)の参加で、被保険者数7,700人、家族加入者数8,000人の農協健保組合が設立されました。丁度この3月で40周年です。現在は、62事業所、被保険者数8,700人、家族加入者数7,500人です。
当健保組合の理念として私達の目指す事業は、加入者様の健康を第一に考え、加入者様が「健康で心豊かな生活」を送れるよう、加入者様に対する健康維持増進を支援し、農業団体と地域社会の発展に貢献していきたいと思っています。そのために、加入者様にとって信頼・安心できる存在意義のある健保をめざして保険者機能を十分に発揮し、快適な暮らしをサポートします。特に医療費の支払いは当然ですが、加入者様の健康づくりを推進すべく「病気にならない」「病気にさせない」ための健康増進に導くサービスを事業主の協力のもと提供します。
―坂本常務は、健保連埼玉連合会医療費対策委員会の委員長を務められているそうですが、どういった取り組みをされているのでしょうか?
私は今の仕事に就いてから3年目なので、解る範囲でお応えさせていただくという条件で、今回のインタビューをお引受けした次第です。
2年前になりますが、健保連埼玉連合会に医療費対策委員会が設置されており、以前からその委員会に参加していた関係で副委員長をお引受けしました。ところが、その時の委員長が1年で辞められてしまい私が委員長になった次第です。その時課題がいくつかありましたが、その1つが、照会をかけるための基準を連合会が作って担当者に示してあげなければということでした。そこで、埼玉連合会の理事会で承認を得て、委員会で照会基準の検討を始めました。現状をみると殆どの担当者は受領委任制度の中身を詳しく知りませんし、日本の医療制度の中身を熟知していない中で仕事をしているように思いました。しかし、一番の問題は患者さんが何も知らないということで、署名の問題にしても何故署名するのかが全く分っていません。私も何度か接骨院にかかった経験がありますが、一度も署名を求められたことはありません。今の仕事に就く前でしたから、署名する理由も勿論知りませんでした。ということから、私をはじめ多くの人(患者さん)は受領委任払い制度について何も知らないし、何も知らされていないんだと思いました。
24年3月に厚労省から出された通知や、その後の通知には施術療養費の適正化に向けた取組みについてが書かれております。しかし、厚労省の言われる適正化と我々健保組合がいう適正化と柔整師の方々が言われる適正化や或いは患者さんが望む適正化というのは夫々言い分が少しずつ異なると思います。原則という意味にしても非常に分り難い。先ほどの署名について、厚労省は施術を受けて月の最後に署名をもらって請求しなさいと、会計検査院の指摘もあってこれが原則だと言っている訳です。健保連でも署名するのは原則一番最後であると。しかし、そんなことをやっている人がいるんですか?という話です。柔整師の方々が主張している施術の最後では署名が貰えないというのが本当だとしたら、それは原則としてできないということです。本来、当たり前にできるのが原則だと思うのですが、あのやり方では無理ですよというのが柔整の先生方の言い分です。私も実際はその通りだと思います。だとすると、署名の時期を確認してもあまり意味がないということになります。
それよりも重要なのは、本人が委任しなければ法律上、委任行為は成立しないということです。勝手に他人が書いたものを本人が知らなければ受領委任払いは成立していない訳ですから健保組合は療養費を支払うことができないことになります。照会の基準を整理するにあたって、自筆で書いてあり領収証があるならば、原則として時期は問わなくて良いのかなと。それは、22年の9月から領収証は必ず発行しなければならないとなっていますし、基準に基づいて照会する時に〝領収証のコピーを見せてください〟と言えばその領収証と突き合わせることも可能です。従って、原則として時期は問わないとしても問題ないと思ったわけです。初検の時に怪我を診て、保険が適用され仮に一か月かかると判断された時に、〝この治療は保険を適用できる治療なので、代理受領委任という制度で保険から支払って貰うために署名が必要なんです。領収証を毎回発行しますので、保管しておいてください。〟と説明をした後に署名をいただく形でもよいのではないかと考えたわけです。署名の時期については、あくまで私見であり、国の原則を否定するものではありませんが、1カ月の金額が高額なもの、治療部位の多いもの、治療日数の多いもの、長期にわたる治療のもの、その他健保組合が必要と認めたものについて、照会した時に自署による署名と領収証の提出が確認できれば良いということで、あえて署名の時期については触れませんでした。しかし、ここでいう照会の基準はあくまで埼玉連合会の基準であって、強制力をもつものではありません。最終的には、各保険者の判断が優先されますことはいうまでもありません。
―照会の基準が明確化され統一されることはとても良いことと思います。坂本常務の適正化についての考え方をお聞かせ下さい。
話が前後しますが、先ほどの医療費対策委員会の中にレセプト部会があり、各健保組合の担当者が集まってレセプトの勉強会を行っています。医科歯科のレセプトの勉強が主ではありますが、その勉強会の中で、何をもって柔整の支給申請書に関して照会するのかということが議題になり、話をきくと実は基準があるようで明確な基準がありませんでした。繰り返しになりますが、厚労省から24年3月12日に出された適正化の文書がありますが、患者さんからみると施術を受けて楽になったのであれば、良い施術をしてもらったことに対して(高い安いというよりは)それに見合った対価を納得して支払うのが適正な料金だと思います。一方、柔整師の先生方は自分の持っている技術で施術を行って患者さんが良くなったとすれば、それに見合う施術費をいただくのが適正料金だと思います。最初から保険適用になるかならないかではなく、たまたまその施術が保険適用になるということだと思います。保険適用かどうかではなく、自分の施術に基づいた適正料金です。
しかし、健保組合の場合、保険適用が前提ですから厚労省から、原則としてこういう場合は調査するようにと通知が出されています。健保組合というのは皆さんから預かった保険料を元にそれを適正に公正に分配するのが役目だからです。ですから、その人が保険の適用になる施術を受ける場合は、できる限り安い料金で適切な施術が受けられることが、健保組合にとって適正な料金となります。しかし、もしそれが本当に保険適用に該当しない場合には支払ってはいけないのです。つまり「適正化とは何か」というのが夫々異なる訳です。そのためお互いの立場を理解し、みんなが合意できる原則を作る必要があると思います。例外的な事例については細則として整理し、どんどん蓄積していけばよいと思いますし、そうすることで分り難い事例についてはその細則に基づいて判断していくことができることになります。
先述の埼玉連合会が16年に出した基準では、一件2万円以上、多部位(4部位以上)、初検から3か月目の施術が20日以上の場合等について被保険者に対して照会をするようにとされています。その後出された24年3月12日付の厚労省の文書は、照会等を行う場合はこの文書を参考に具体的な基準を設け適切に実施するよう求めており、両方の整合性を考慮し1つに纏める必要が出てきた訳です。最終的に厚労省の書類を参考資料として基準に添付しました。2万円については、今までのものを根拠もなく外す訳にはいかないので、当健保組合の実情を調べたところ、去年2万円以上の支給申請が219件あり金額で574万円でした。219件の内訳を調べてみると実質89人で、何人もの方が一年に何回も2万円以上の施術を受けていました。従ってこういう場合は、調査しますよということであり、他の健保組合でも最低この基準に基づいてやって下さいということです。柔整師会の皆さんには、健保連埼玉連合会では照会の基準で被保険者の調査はこの様に決めましたと説明して理解をいただこうと思っています。これを実施するにあたっては、各健保組合が被保険者に周知徹底を図る経過期間が必要であると思います。
調査票についても厚労省が示した調査票様式1を参考にして各組織で作ってくださいと。調査の時期も適切な時期(なるべく早い時期)としました。厚労省の文書には適切な時期となっています。しかし、適切な時期というのは適切な医療費と同じで非常に分り難く誤解を生む素です。適正化について私が言いたいのは国が決めたルールを柔整師の皆さんも保険者も患者さんも再確認して守るということが前提になります。そして、発行された領収証の枚数と日数があっていればとりあえず良いのではないかということです。ただし、何かおかしいと思ったらしっかり調査して警察に届けるという法的手段をとるという必要があると思います。勿論その前に厚生労働省に相談して、ジャッジしていただきます。健保組合が勝手に決めるべきものではないと思っています。
―この度、本を出版された動機というのは?
私達健保組合の担当者は、病院にかかってからの医療費の流れや支払基金の役割等について知っているのは当たり前ですが、一般の人は国民皆保険制度の仕組みについて知っている人は殆どおりません。知らない人たちに医療費の財源不足や、病院のかかり方とか、薬はジェネリックにして下さいと広報しても、何のことか分りません。であれば、その仕組みから知ってもらおう、そこを知らないで医療費の抑制や削減は無理だと考えました。
当健保の医療費は年間総額約20億円です。その医療費を抑えるためには、加入者本人が意識するための仕組みを知ってもらうしかないだろうということです。健保組合の仕事というのは、各事業所の担当職員が一緒にやってくれていますが、その仕組みを知らないで仕事をするというのもおかしいと思いました。また、赤字の健康保険組合が多く、毎年いくつかの健保組合が解散しています。解散しないためには、保険料を上げるしかありません。自分のかかった医療費を誰が払っているのかみんなが考えるしかありません。消費税は、今は無理ですがあとになれば効果が出てくると思います。本当の仕組みを知った上で、自分たちで判断すべきだというのがこの本を作る切っ掛けでした。理事長に話したところ、理解促進資料をつくるのだったらマンガがいいよとアドバイスをいただきました。結果的に農業団体の20健保組合と埼玉県にある30健保組合に声をかけて、13万5千部発行することになりました。
この本の中に、高齢者医療費にかかわる納付金についても漫画で紹介しました。また、接骨院にかかる場合の受領委任についても触れさせていただきました。加入者の皆さんが負担する保険料というのは、皆さんの医療費50%、そのほかに高齢者の方々の医療費の納付金46%が平均的な健保組合です。本当のことを知ってみんなで考えなければ〝消費税を上げます、イヤだ〟〝自己負担が高くなる、イヤだ〟〝保険料の値上げ、イヤだ〟では、今世界一とされている日本の医療制度のサービスを下げてもいいんですねという話になってしまいます。この制度を持続ためには、どうやったらいいかをみんなで考えようというのが動機です。
―坂本常務は、柔整療養費において何が問題であるとお考えでしょうか?
先程の話と重複しますが、みんなの考えていることが一致していないように思います。何十年も継続されてきたものであるはずなのに、まさにお互いの言い分の世界です。例えば、よく総論賛成、各論反対みたいな話がありますけれども、ここではその総論自体がまだ出来ていないのではないかという印象を持っています。本当は確たるものがある筈なのに、夫々の人の解釈の仕方が異なる。理解の仕方、受け止め方がバラバラです。原理原則である総論は誤解のないよう協定書のルールに基づいて行われるべきです。所謂グレーゾーンって何なのか、グレーゾーンと言いつつ放置していることは問題です。私はこの仕事に就いて初めて、受領委任の仕組みを知りました。制度上、委任をするためには自署でなくてはいけないとなっています。そこのところを患者さんも保険者も柔整師のみなさんも、そして国も、核はこうだよということを確認しなくてはいけないと思います。見解の相違というのは必ずあると思います。
しかし、不正請求というのは、見解の相違という問題とは全然違うものです。見解の相違については、その違いの部分についてはどんどん議論すべきと思います。ところが不正請求は犯罪ですからこれは許されないことです。国家試験に合格した人がなれる柔整師の資格ですから、そんなことがあってはいけないし、あるはずがないと思うのですが、あれだけ報道されて、健保組合は厚労省から調査しなさいという文書が出ておりますから調査しない訳にはいきません。自分たちの保険料の使い方をしっかり責任を持ってやるためにも必要な調査は行うべきです。この調査についても柔整師さん達の言い分では〝やり過ぎだよ〟〝受診妨害じゃないか〟等いろいろ聞いておりますが、私の考え方は、調査はまさに健保組合のやるべき仕事であり、法律に基づいて加入者の皆さんから預かった保険料です。必要があるものについてはしっかり調査した上で支払ってこそ、初めて健保組合の責任が果たせるのだと思います。
繰り返しになりますが、じゃ〝何を持って調査なんだ〟〝何でもかんでも調査する必要はないでしょう〟ということについては、柔整師の皆さんは厚労省との協定を守って適切な施術をしますという確約書も交わされている訳です。従って調査をする場合はある程度ルールを作って、こういう形のもので調査しますよと、お互い周知徹底をはかるべきではないかと思っています。厚労省の指導は、先ず患者さんに聞きなさいということです。それはルールとして徹底していかなければならないと思います。難しいルールでなく「領収証は必ず貰ってください。調査の時はそのコピーの提出をお願いしますよ」でよいのではないかと思います。署名の時期はともかく、回数が多いものは領収証さえ揃っていれば、払ったから領収証を貰った訳で、それまで疑ったらどうにもなりません。その代わり、領収証はしっかり貰って下さいと、または貰っていなかったら貰って提出してくださいということになります。
24年度、当健保組合では柔整療養費として年間5,950件、2,700万円を支払っています。一件あたり4,550円が支払われている中で、返戻したのは44件でした。ただ金額的に50万円で一件当たりにすると高いので〝これどうしたんですか?〟と理由を聞きます。主に負傷原因が書いてなかったり長期施術の理由が書かれていないものに対しての返戻ですが、回答の無いものには支払えませんという話になります。しかし、それは所謂不支給ではないと考えています。理由を確かめてから払いなさいと厚労省から言われていますので「不支給」という言葉には当てはまらない。支払う対象であるのに「不支給」とするのであれば、それは問題ですが、疑義について質問をしたのに返答がないのであれば、それは払わなくてもいいんじゃないですかという話です。本当のところの中身の問題で払ってもらえないのであれば、これは問題視すべきですし、そうじゃないのであれば自分たちのことも正す必要があるのではないでしょうか。
先ず、私達は不正なんてしていないという姿勢が大事です。そうすれば調査しなくても済むのです。「不支給」・「照会」の問題というのは、お互いが信頼できる組織になってくれば、減ると思います。ある意味お互いに良い関係だから今まで残ってきている訳で、何十年と続いているものを誰も悪いと思っている筈がないと思います。しかしながら今言われているように仮に質の悪い柔整師の方がどんどん増えていくとなった時には、逆にそのような方は淘汰されていくことになると思います。このような状況の中で、何が求められているかというと、やはりしっかりした施術としっかりした審査支払組織だと思います。病院と違った治療技術ですが気安くかかれますし、元々地域性が強い中で互いにルールを守って有効に利用していただくことが得策であると思います。
―受領委任払いを償還払いに戻すといった声がよく聞かれますが、それについて坂本常務はどのようなお考えをお持ちですか?
この仕事に就いてから代理受領委任というのは、何なんだろうと思って最初にみた資料が22年5月24日付の文書でした。それは「柔道整復師の施術に係る療養費について」という〝受領委任の取り扱いの療養費についてはこれで行います〟として厚労省が出したものです。受領委任を行う場合、日本柔道整復師会(以下、日整)の会員の人たちは別添1、会員でない人たちは別添2によって行いますというもので、別添1は協定書で、別添2については、中味は一緒ですが、ただ協定ではないため個々の契約でそれを扱わせるものです。こういった資料は読み解くにはかなりの時間がかかります。日整は会員の支給申請書を審査し健保組合に送って、健保組合はそれを県審査会に審査を依頼し、金額を確定した上でお金を支払うシステムになっています。
別添2の所謂個人契約者は、日整のかわりに任意団体が入っている訳ですが、その任意団体については一切触れられていません。ここのところが何故そうなのか?個人契約の方にも受領委任取り扱いの道を認めたのであれば、任意団体も認知して〝何かあったら行政が指導します〟としなくてはならない筈なのに、それがなされていません。国の医療そのものを取り締まるのは厚労省なのだから、そこを見逃していいのかと思います。私としては、受領委任払いというのは、70年以上も続いている制度であり、それほど長く続いているので、戻せといっても戻せないだろうし、あえて戻す必要があるのかとも思います。これが認められた背景にはそれなりの経過があると思いますし、患者さんもそうですが支払う側もなるべく手間が省けたほうが良い訳で、そのために償還払いから受領委任払いになったのであるなら、お互いのためにこの制度は残しても良いのではないでしょうか。お互いにルールを守っていただければ私はそれで良いと思っています。
―一部の柔道整復師の方からは、治療のガイドラインが必要であり、保険者や患者さんも参加される中で、作ることが望まれるとして、作り始めているとも聞きますが、そうしたことに関してもし参加の依頼がありましたなら、参加してみたいというお考えはありますか。
私が思うには、柔整の療養費というのは受け渡し方法だけが特例なんですね。償還払いというのは元々あった訳ですから。であれば、患者さんが保険が効く施術を受けたなら当然支払われるべきです。しかし、グレーゾーンが幅広く存在するために、見解の相違が多くあるのだと思います。それをなくすための努力としては、ガイドラインが一番良いという気がします。そういう意味でガイドラインは必要だと思います。ただ、参加の依頼が来ても私は経験不足です。もっと経験のある方にお願いしたいと思います。なお、ガイドラインは一目瞭然に近いものにしていただき、患者さんも含めて殆どの人が理解できる世界にすることが大切です。そういう意味では是非とも国も一緒になって作ってもらうような取組みが大事だと思います。
―JBさんが出されている案については、どんな風に思われておりますか?治療計画書等も添付するようにしていくと言われています。また、昨年の11月からJB接骨院の申請書には傷病名を書かないで提出されているとお聞きしましたが、そのようなことは可能なものでしょうか。
雛型は拝見しました。JBさんが、自分たちで審査をして支払を決める、その時にしっかりチェックできる内容にしたということでしょう。大変良いことだと思います。ちょっと分からないのは傷病名を書かなくてもいいという部分です。ただ専門用語での病名では分かりづらいので、分かりやすい病名(表現)に統一してほしいと思います。しかし、結果的には傷病名と原因はセットだと思います。患者さんは保険が効かなくてもマッサージを受けたいと思えばマッサージを受けます。何故ならその人はつらいからマッサージを受けるのです。保険が効くか効かないかは先程も話した通り別の話だと思います。其処をどう判断すればいいのかと言った時に勝手に解釈を拡げられても困りますので、国が基準を示してほしいと思っています。その中で認めるというのであれば良いのではないでしょうか。これは医療保険制度のルールとしての解釈ですから、「これなら支払って良い」という概念を整理してもらえるのであれば、全部の健保、全部の国民に該当する話ですから、是非国にしっかりやってほしいと私は思います。
―今後どのような方策をとれば、全ての国民にとって健康に役立つ方向に向かうことが出来ると思われますか?それについてどんなお考えでもよろしいのでお聞かせください。
医療費の高騰、保険料の上昇という状況を変えるためには、国が定めた特定健診や特定保健指導等、今健保組合がやるべき事業としてとても大事です。それに加え、正い情報を送ってみんなで医療費を抑えようという形にしなければ難しいと考えます。人間ドックだとか定期健康診断に対する助成等にしても〝それより保険料を下げてよ〟という話も中には出てきます。健保組合がみんなの健康を意識して取り組みをしていますというメッセージを如何にして伝えられるか。要するに、いくらこんなことをやりますよと言っても相手が話に乗ってこないのであれば意味がない訳で、そうなるとやはり皆さんから集めている保険料というのは、こんな風に使われていますとしっかり理解してもらう必要があります。もし自分が病院や接骨院に余計にかかれば、それは保険料に跳ね返ってくることなのだと十分意識してもらい、〝安いからいいや、時間があるからいいや〟ではなく、必要のないものまで行ってはいけないと思ってもらう必要があります。
つまり、意識の問題で、例えば交通事故での施術でも最初は毎日かもしれませんが、次第に間隔はあくと思うのです。そして、どこが治療の終わりなのかということです。これは柔整に限った問題ではなく、もう1回しっかり診てもらって〝ここまでしか治りません〟というエンドポイントを示してもらわないとダメだと思います。そういうことに対して、どのような意識づけをするのかが今後の大きな鍵です。今までは、保険料をいただいているのでなんでも支払えればいいという世界でしたが、「上げられない、支払えない」となってきた時に、みんなでそれを抑えようとする努力をしなければなりません。それには「健康」が大事であり、みんなが健康にならなかったら〝どうにもなりません〟という話です。
当健保組合では、そのためには先ずあなたの体が健康であること、体が健康であれば働くことができ暮らしが(経済的)健康になり、体と暮らしが健康になったら精神的にも楽でしょう。自分に余裕ができれば家族の健康面に気をかけられるので、家族も健康になるでしょう。家族も健康になれば地域も健康になりますよというように、体、暮らし、精神(こころ)、家庭、地域社会の5つの健康づくり運動を展開しています。全てがそんなにうまくいくとは思いませんが、仮にみんなが何も意識しないで、一人一円、百円、千円を無駄に使ったらすぐに百万二百万になってしまいます。福岡大学の先生の講演をお聞きした時に〝日本は世界一の医療を提供されながら受けている人は誰も世界一と思っていない〟そこが問題であると。
もう1つ〝自分たちの最期をどうするのかということも決められていない〟というのも問題であると話されました。みんなに「最期は延命治療をしないこと」などとは言えませんが、徐々に食べられなくなった時に、口から食べられないのであれば栄養補給をやめるかどうかを本人と意識のある内に話し合っておくことも必要だと言われました。要するに食べられなくなって弱っていったら、それが人間の最期だということだと思うんです。スウェーデンには、一般診療に「0・7・90・90」という数字があって、0は、〝ちょっと調子が悪いんです〟と診療所に電話した時に、〝どういう症状ですか〟〝こういう症状です〟〝はい、わかりました〟と受けて1週間以内に一般医の診察を手配さえすれば良いそうで、それが0と7です。7日以内に受けた診療所は、診察をして治せればそこで治してしまいますが、治せない場合〝次の大きい病院を紹介します〟と、また紹介します。紹介された病院はその時から90日以内に診察すればよく、もっと大変な治療を受けなくてはいけないと判断した時には更に上に繋げます。それがまた90日です。その理由は何故なのか?その答えは〝人間はいつか死ぬんだ〟と、90日間さえ生きられなかったのであれば、治療を受けられなくても仕方がないという考え方が国民に浸透しているのだそうです。それがスウェーデンの国民性であると在スウェーデン大使であった方に勉強会で聴きました。要するにスウェーデンは福祉国家だと言われていますが、そうやって医療費を抑えているんだと。
いろいろなお話を聞くと、やはり元々の財源が足りないのですから、みんなが何所かで我慢と納得をしているわけで、わが国にはそのための情報が足りないのかなと思っています。モラルハザードの観点からみると、「医者が患者さんに〝薬をどんどん飲んでください〟と投与して治療費を貰うということは、ある意味でそこにモラルハザードが存在します。また、患者は〝自分は保険に入っているんだからいくら病院にかかってもいいんだ〟ということにもモラルハザードが存在する」とインターネットに書かれてありましたが、確かにその通りだと思います。倫理の欠如についてみんなが意識するようになれば少しは違ってくるのではないでしょうか。
―最後に、日本もTPPに参加することになり、その後の交渉内容はあまり報道されていないように思います。日本の農業はTPPに参加することで相当な打撃を受けるという声は強いものの一方で国際競争に打ち勝つだけの戦略は準備されているともお聞きします。坂本常務のお考えを教えてください。
わが国の人はTPPのことをあまり知りません。TPPは、その国が法律で保護しているものを壊すものです。医療保険も同様です。FTAを受け入れてしまった韓国の弁護士の説明では、事業展開にあたって邪魔になる法律は全部ストップさせ、それを実行しなかったら約束を守らなかったとして、ISD条項に基づき政府が訴えられ、結果として賠償金を払わされてしまうそうです。日本の農業も何人かは生き残る人もいるかも知れませんが、農業で食べていけない農家はやめてしまうことになり、最終的に日本の農業も潰れざるをえないと思います。そして、今は世界一とされている皆保険制度も根幹から崩壊していくことになると強い危機感を持っています。
坂本昌之氏プロフィール
1976年、JA埼玉中央会入社。企画管理課長、地域振興部長、総務部長を経て2011年埼玉県農協健康保険組合常務理事に就任、現在に至る。また、健保連埼玉連合会理事、同医療費対策委員長。
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