スペシャルインタビュー:甲府市長・樋口雄一 氏
甲府市の人口は、約19万3千人(平成27年5月1日現在)。山梨県の県庁所在地である甲府市は、武田信玄公ゆかりの地であり、風光明媚な地方都市として知られている。また東京都心まで特急で約1時間半ということもあり、子育てがしやすい豊かな自然環境に魅了され、移住する若い家族が増加している。子どもにも高齢者にも優しく、高齢者の役割分担がゆき届いている地域住民には願ってもない希有なまちづくりを推進している。
戦国武将の面影を彷彿とさせる甲府市の樋口市長に施策や取組みについて率直に話していただいた。
地域住民が真に求める甲府市らしい住民主体の「地域包括ケアシステム」の構築を目指します!
甲府市長
樋口 雄一 氏
―日本の社会保障制度について樋口市長のお考えをお聞かせください。
日本の社会保障は、世界の中でも非常に行き届いているものと思っています。医療・介護・年金・労働災害・雇用保険など、幅広い分野がカバーされており、まさにオギャーと生まれてからお亡くなりになるまでを保障するものであると誇りに思っています。国民皆保険や国民皆年金制度の趣旨をこれからも継続していくべきですし、地方は地方でしっかりと役目を果していきたいと思っています。一方、国民年金に入らない無年金者が顕在化している状況もあり、非正規雇用の増加も懸念されます。加えて、人口減少や少子高齢化など、これまで全体で支えてきた構造が大きく変化していく中、社会保障の危機が叫ばれるようになっていると思います。
今後も人口減少や少子高齢化の流れを止めることは簡単ではないと思いますので、創意工夫をしながら社会保障にかかる給付や、負担をめぐる世代間での不公平感の解消といった課題に、国を挙げて取り組んでいかなければならないと考えています。また、現役世代への給付といいますか、特に、子ども達への社会保障をもう少し厚くしたいと思っています。子ども達の貧困や憲法でうたわれている教育、生きることへの権利がかつてよりも若干ないがしろにされていると感じていますので、次世代を担う子ども達、社会の宝である子ども達への社会保障の充実を図っていきたいと考えています。
―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展と少子化に対する甲府市の取組みを教えてください。
日本創生会議の衝撃的な発表があり、慌てている自治体が多いかと思います。このような中、やはり今後は定住人口の確保が、最重要課題だと考えています。
本市では、少子化対策の一つとして、12年前の前市長就任時に、小学校6年生までの医療費を無料化にしました。この取組みは当時、全国でも先進的な取組みで、あっという間に他の自治体に広まり、今では本市よりも手厚い制度を設けている自治体が多くあります。本市においても、今年度中には中学校まで子どもの医療費を無料化するよう考えています。
また、「子ども・子育て支援新制度」が施行されたことから、本市では、新たに策定した「甲府市子ども・子育て支援計画」のもと、乳幼児期の教育・保育・地域における子育て支援の量の拡充や、質の向上を図ってまいります。子育て家庭の「個別ニーズ」を把握したうえで、特に利用ニーズの高い放課後児童クラブは、その受け入れ対象を段階的に拡大することにより、働く親を支援し、児童の健全な育成を図るための環境を整備してまいります。更に、出産前後の母親の精神的なケアや子育て不安の軽減を図るため、山梨県が主体となり整備を進めている「産前産後ケアセンター」の利用料金の一部を助成しています。
行政が中期的・長期的に人口減少問題や少子化問題にしっかり取り組むということは、まさしく子育て、そして高齢者福祉のサービスの充実を図ることにほかなりません。そのうえで、甲府市に引っ越してきていただくことが重要ですので、本市にある空き家を首都圏の方々が希望されているという情報が入れば、しっかりと受け皿を作ってそれをお知らせするという体制の確立が必要です。
現在、それを東京から発信していただいていますので、夏頃にはマッチングするようにしていきたいと考えています。都会に住んでいる方で、「田舎が良い」、「そうかといってあまりにも田舎だと教育や医療が心配である」という方もいます。また、「ほど良く便利な田舎」は甲府市だと言っていただいている若いご夫婦もいらっしゃいます。既にかなりの方々が移住をされていますので、今後は、山梨県内の市町村同士で競争したり、あるいは相互に紹介したりして取り組んでいきたいと思います。
―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。甲府市では今後どのような地域包括型ケアシステムの整備を行おうとされているのでしょうか?
本市は、自主性・自立性の高い自治体を目指しており、「第3次健やかいきいき甲府プラン」を推進するとともに、「自助」、「共助」、「公助」のバランスのとれた地域福祉社会の実現に向けて取り組んでいます。本市の強みは、地域の中での連携、連帯感が非常に強いところです。社会福祉協議会をはじめ、自治会や老人クラブなど、各団体がしっかりと役割を担ってくれています。それに加えて、行政、介護事業所、医師会、医療機関など、それぞれの専門性を発揮しながら仕組みづくりをしっかりと行い、切れ目のない連携、ネットワークが形成されています。その中に、認知症予防や認知症対策などを組み込んでいきたいと思っています。
本市の高齢化率は、平成27年4月現在で27.6%となっており、現段階で、特別養護老人ホームは10施設あります。本市で策定した「第6次甲府市介護保険事業計画」では、平成27年から29年にかけて、5カ所増設する計画です。その先は、介護保険の要介護認定者が去年の10月時点で1万70人、平成32年には1万2,000人位、約1,900人増えると予想されていますので、その推移を見ながら施設整備をしていきたいと考えています。
また、介護予防事業等が市に移管されたことについては、平成28年度から段階的に実施する予定であり、市の地域支援事業に移ってもそのまま切れ目なく移行できると思います。要支援者の皆様に従前どおりのサービスが提供できるよう、準備を進めているところです。
―また首都圏においては地域力が弱くなっているとも言われており、現在、「互助」「共助」「公助」が機能するかどうか心配されております。甲府市の地域力とはどのようなものでしょうか。
先ほども申し上げましたように、本市は非常に「地域力」が強みです。引っ越されてきた若いお父さんお母さんがびっくりされます。甲府では、近所の大人達が子ども達に積極的に挨拶をします。「知らない人に声をかけられたら要注意!」ではなく、「しっかりと挨拶をしましょう」という教育をしてくれているのです。しかも、登下校時には、地域の方々がチームを作って身守りをしてくれたり、準行政組織のようなボランティアの集まりがいくつもあります。もしかしたら、そういったことが介護予防や認知症予防にも繋がっているのかもしれませんので、こういった組織を大事にしていきたいと考えています。
また、本市では、平成21年度からこれまでの自治会活動や老人クラブ活動に加えて、地域住民グループの主体的な活動として、高齢者が住み慣れた地域で、社会から孤立せずに、健康でいきいきと安心して生活ができるよう「いきいきサロン活動」の推進を図っていまして、今年で7年目になります。
さらに、地域で高齢者を支える仕組みづくりのための地域福祉の担い手の養成や、高齢者のボランティア精神のもと、介護や傾聴などのサポーター活動を支援する事業など、住民参加による支え合い活動についても積極的に進めているところです。
―古来から地域医療を支えてきた医療職種である柔道整復師は、骨接ぎ・接骨院の先生として地域住民の方々に親しまれてきました。また柔道整復師はスポーツ現場でもスポーツトレーナーとしてアスリートの怪我やパフォーマンスの向上に役立つ指導を行ってきました。今後の超高齢化社会においては、運動能力の維持管理が重要なテーマの一つと感じます。運動能力を維持していくには、単に痛みを取り除くという考えではなく、能力そのものへの取り組みとしてトレーナー的な業務は必要と感じます。介護分野では柔道整復師は機能訓練指導員として機能訓練を行える職種であります。地域包括型ケアシステムの中に柔道整復師の参入は可能でしょうか。樋口市長のお考えをお聞かせ下さい。
私自身もそういう方々と親しくさせていただいています。また、山梨県柔道連盟の顧問も務めており、その方々が柔道整復師というお仕事をされ、接骨院を開かれて身体のケアをされていることを目の当たりにしています。高齢者の方々が身体の機能を維持していくには、柔道整復師がされている機能訓練は大切だと思いますので、関係者との意見交換や、全国的な流れや事業の先進事例を研究する中で、地域包括型ケアシステムへの柔道整復師の参入を考えていきたいと思います。
―やはり、医療のいきづまりといいますか、今後は治す医療ではなく、生活支援型の医療を目指すといわれているお医者様も多くいらっしゃいます。生活支援、QOLの向上をはかっていくことは今後重要になっていくと思います。甲府市でも健康教室、転倒予防教室、市民ウオーキング等、予防医療の取り組み並びに様々な取り組みをされていると思いますが、どんな取り組みが行われているのでしょうか?
本市では、概ね65歳以上の市内の居住者の方で、実施会場へ来ていただけることが可能な方を対象に「甲府市ふれあいくらぶ」で転倒予防教室や健康教室を開催しています。 また、本市は、グラウンド・ゴルフの全国大会で、個人・団体戦で優勝しており、ウォーキングも非常に盛んなところで、スポーツが好きな高齢者の方が多く、そういった元気な高齢者の方々が核となって、ライフスポーツの参加者を増やしてくれています。定年退職をされた方々も地域で活動しようという意識が非常に高く、スポーツ愛好家の方が非常に多くいます。更に、山梨では柔道場も数多くありまして、JRさんなど企業のバックアップもあり、小中学校・大学生・社会人など各層で充実しています。
私自身もスポーツや運動は大好きで、介護予防等に大きく貢献していると思っていますので、積極的にスポーツ振興の環境整備に取り組んでいきたいと考えています。甲府市は自然も豊かですし、特にウォーキングはお金がかかりませんからね(笑)。
―昨今、地球規模で大災害が多発しています。甲府市の防災計画について教えてください。防災計画を立てる時に極めて重要なことは、何を前例として何を想定するかと言われておりますが、その辺についても教えてください。また東日本大震災では甲府市はどのような支援をされましたか?
阪神淡路大震災の際、本市では、水道水の給水支援などの支援をさせていただきました。以来、中越地震などの大規模災害時には援助活動を行ってきています。また、東日本大震災の際にも、医療救護班、給水支援、保健師の派遣や専門職員の長期派遣を行い、避難所の運営支援や家屋被害の調査派遣など、できる限りの支援をさせていただきました。
本市は昨年、大雪災害にみまわれまして、観測史上最大の1日で1メートル14センチの積雪がありました。人命に及ぶ被害はありませんでしたが、フルーツ王国である本市は、農業施設の多くに甚大な被害がありました。
大雪の際には、職員はもちろん、自治会の皆さんや協定する業者の皆さんが昼夜を徹して除雪作業にご協力をいただきました。また、上越市、水戸市、長野市、茅ヶ崎市などから有難いご支援、お手伝いをいただきました。本市は専用の除雪車を持っていませんので、協定市から除雪車を何台も運んで来ていただき、本当に救われました。
そういった予想できない大雨大雪による災害、日本各地で発生が心配されている大規模地震、また火山の噴火に伴う災害など、そういったものを一つひとつ防災計画に加えていって、万全な対策を講じるようにしたいと考えています。また、既に災害に弱い方々の名簿は作成しており、現在、新たな名簿の作成作業を行っています。
―今後、病院で死ぬことが出来ない時代がやってくる中で、どのような地域社会を構築できるか。地域における健康づくりを従来型の健康政策のみではなく、機能の集約化、住居環境及び交通網の整備などまちづくりの視点も加えた総合的な施策の構築等についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
国では、重度の要介護状態になっても、できるだけ住み慣れたところで暮らし続けることを目指した地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みを進めており、本市におきましても、地域全体のネットワークを更に強化し、災害弱者の方々への細かな目配りや、温かい配慮ができるようにしていきたいと考えております。 また、社会福祉協議会をはじめ、地域の各種団体が連携する体制をしっかりと作っていきたいと思っています。既にシステムを構築している柏市や千葉市、武蔵野市などの先進的な自治体を参考にさせていただきながら、できるだけ早くに甲府スタイルを作りあげていきたいと思っております。
樋口雄一氏プロフィール
昭和34年12月30日、甲府市生まれ。
昭和53年3月、甲府第一高等学校卒業。昭和58年3月、専修大学卒業。平成11年4月、山梨県議会議員初当選。平成15年4月、山梨県議会議員再選。平成19年4月、山梨県議会議員3選。平成19年5月、第104代山梨県議会副議長。平成23年4月、山梨県議会議員4選。平成27年2月、第39代甲府市長。
座右の銘:一雨千山を潤す(いちうせんざんをうるおす)
政治信条:論卑くして行い易し(ろんひくくしておこないやすし)
尊敬する人:坂本龍馬、石橋湛山 好きなスポーツ:サッカー、ゴルフ、剣道
趣味:読書(とりわけ歴史)
血液型:O型
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