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スペシャルインタビュー:つくば市長・市原健一 氏

インタビュー 特集

つくば市の人口は、220,166人。内、高齢者人口は40,159人で、高齢化率は18.24%である(平成27年4月1日現在)。1985年、つくば科学万博が開催され世界に研究学園都市「TSUKUBA」の名が知れわたり、つくばエクスプレスが開通したことで一層の活況を呈している。しかもつくば市は、「科学のまち」として、国内外の科学者をはじめ、留学生など多くの外国人が居住する国際都市となっている。未来型都市として今後も日本の夢を大きく育む町である。

そんな未来都市つくばにふさわしい市原市長に、みんなで支え合う豊かなで健康なまちづくりの基本的な理念について話していただいた。

未来型の都市を推進するとともに、地域住民の気持ちに寄り添い幸せが実感できるまちづくりを目指しています!

つくば市長
市原 健一 氏

―日本の社会保障制度について市原市長のお考えをお聞かせください。

日本国憲法は、第25条で〝すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない〟と定めています。日本の社会保障制度で中核となっているのが「社会保険」で、病気・負傷・身体障害・死亡・老齢・失業などが発生した場合に、保険給付を行うことにより、制度加入者やその家族の生活を保障していこうというもので、個人では対処できない場合の「セイフティネット」としての役割を持ち、公的な仕組みによって給付やサービスを保障することが目的とされており、日本の社会保障は世界的にも高い評価を得ておりますように、日本の国民は、こういった制度に守られ平和が続いてきたと思います。しかしながら高齢者人口の増加、疾病構造の変化、医療技術の高度化などにより、医療費は年々増加傾向にあり、医療費を大切にするためにも、日頃から健康に留意し、元気に生活することが益々大事になってきました。

―人口減少社会に突入しました。つくば市の高齢者への取組みやお考えを教えてください。

市の中心部は若い世代が多く、高齢化率は比較的低く推移しています。高齢者が住み慣れた地域でいつまでも健康で、できる限り自立した生活を送ることができるよう、様々な施策を行っております。

高齢者人口の増加に伴い、ひとり暮らしや高齢者夫婦のみの世帯の増加が予想されます。近年では、高齢者の孤独死も大きな社会問題となっていますが、こうした高齢者世帯では、突然の発病や怪我、災害等の発生に対して脆弱である場合が多く、定期的な見守りやサポートが不可欠であることから、日常生活に必要なサービスの充実と安否確認サービスの強化を図っています。高齢化の進展とともに増加が予想される認知症高齢者への対応として、認知症本人と家族が地域で安心して暮らせる社会を目指し、認知症サポーターやキャラバンメイト(ボランティア)の養成、権利擁護についての講習会の開催、徘徊高齢者支援事業などの対策を実施しております。

介護サービスの事業所の整備については、認知度や自立度など要介護者のニーズに合った居宅・施設・地域密着型サービス事業所を高齢者福祉計画に基づいて進めているところであります。平成25年4月1日から、茨城県より介護保険法等の事業認可等に関する権限が当市に移譲されたため、市内の介護サービス事業所に対し、「介護給付等対象サービス」の質の確保及び保険給付の適正化を図ることを目的に指導及び監査を実施しています。

毎年つくば市では百歳を迎える方が平均して30人位いらっしゃいます。その内の7・8割の方は皆さん施設入所、或いは寝たきりの方です。介護を必要な時期が長いか短いかは別にして、医療が進歩すればする程、そういう傾向が強くなってきます。多少の介助はあったとしても自宅で自分で食事をして、自分で生活ができてという自立している方は、多分その内の2割位じゃないでしょうか。昔は人間の自然の摂理として、そういう時期を必ず迎えるということでみんな受け入れていましたけれども。福祉制度が充実してきたことで、ターミナルな時期においても普通の生活を送るようにしなければいけないという制度づくりなのですね。ということで、当市では、今後の超高齢化社会を支えるための取組を充実させるため、高齢者福祉施策に要する経費及び地域支援事業費を含めた介護保険事業に要する経費を合わせて、約135億円を見込んでいます。

―少子化対策についても教えてください。

少子化対策への予算規模は約105億円です。つくば市では、子育て中の全ての親子を応援し、誰もが子どもを〝生み育てやすい〟環境づくりを進めるため、平成27年度から5年間を計画期間とする「子ども・子育て支援プラン」を策定し、様々な施策を推進しております。市内には、7箇所の地域子育て支援拠点があり、特に「子育て支援センター」は子育て支援サービスの中核を担う施設として、子育てに関する講座や相談、情報提供、一時預かり、子育て仲間との交流および子育て支援者の育成など様々な事業に取り組んでおりまして、子育てに関する情報を積極的にお知らせしています。また、あかちゃんの駅事業というのは、市内各所にオムツ替えや授乳ができる「あかちゃんの駅」を整備しています。他にも、つくば市独自の取組みとして、6歳未満の子どもを2人以上養育している方を対象に、幼児2人同乗用自転車購入費補助制度等、様々な支援サービスに努めています。

また当市では、継続的に待機児童対策に取り組んでおり、過去10年間で約2,600人分の保育定員の拡充を図っております。平成27年度は、4月時点で認可保育園や幼保連携型認定こども園の創設により315人分の定員拡充を実施しており、さらに、今年度も認可保育園2箇所、幼保連携型認定こども園1カ所の整備を予定しています。平成30年度までに、沿線開発エリアを中心に、認可保育所や認定こども園の整備、地域型保育事業の導入により1,365人分の教育・保育定員の拡充を図っていく予定です。さらに筑波大学との連携による院内助産システム(つくば市バースセンター)を引き続き支援するとともに、マタニティサロンや赤ちゃん訪問、乳幼児健診・育児相談などの充実、放課後児童対策事業等のほか、女性の社会参加や社会復帰などの支援施策の充実に取り組んでおり、当市は他市町村と比較しても手厚いサービスを行っているのではないかと自負しております。

―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。つくば市では今後どのような地域包括型ケアシステムの整備を行おうとされているのでしょうか?

地域包括ケアシステムの構築への取組みとして、つくば市では、「団塊の世代」が後期高齢者となる2025年以降を見据え、医師会、看護・介護の関係団体や社会福祉協議会などと連携を図りながら、「介護予防・生活支援サービスの充実」、「認知症施策の推進」、「医療と介護の連携」など、超高齢社会に備えた諸施策を新たに強化し、地域包括ケアシステムの推進に努めているところです。

現在、直営の地域包括支援センターと市内10ヶ所の在宅介護支援センターにおいて、高齢者等への相談支援、虐待や成年後見など権利擁護に関する業務、要支援認定者ケアプランの作成・サービスの提供、介護の状態にならないように予防対象者の把握、介護予防教室を開催する等の介護予防マネジメント業務、また介護を必要とする高齢者等に医療・介護など様々な職種の方が一体となって切れ目なくサービスを提供する包括的継続的ケアマネジメント業務などに携わっています。しかも市内には数多くの介護保険事業者が介護施設等を設置しており、何らかの介護を必要とする高齢者にとって、利用したいサービスが用意されており、他自治体と比較して恵まれているのではないかと感じています。

生活支援サービスの充実・強化に取り組むため、今年度から「生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)」を配置して、既存の介護事業所が行うサービスに加え、新たな介護予防・生活支援サービス開発とその担い手の発掘、その検討を行う「協議体」の設立準備などを進めています。また、高齢者支援のための困難事例検討を通した地域課題の共有や医者・病院ソーシャルワーカー・介護事業者・民生委員の方々などの地域のネットワーク構築を目的とした「地域ケア会議」を開催し、そこで培ったネットワークを地域の高齢者支援に繋げています。さらに、今後増加が見込まれる認知症高齢者対策として、認知症サポーターの養成や養成したサポーターのスキルアップ研修、それらに講師役として携わるキャラバンメイトの養成、地域での徘徊高齢者模擬訓練や徘徊高齢者みんなで守るネットワークづくり等にも取り組んでおります。医療と介護の連携については、医師会事務局を中心に、医師・看護師・薬剤師・病院ソーシャルワーカー・介護支援専門員等介護の現場で働く方々など、多職種と呼ばれる方々に対して、在宅医療と介護の連携の必要性や課題について共通認識を持っていただくことはもちろん、各種研修会や事例検討会、リーダー研修会等を通して、顔の見える関係づくり、在宅医療に従事する地域リーダー育成等を中心に取り組んでいただいています。来年度からつくば市に事業が移行されるので、このような事業を引き継ぐと共に、多職種による在宅医療提供を実現するために必要な様々な体制整備の検討も進めていく予定です。

既に当市では、こういった取組みを開始しておりますが、そうはいってもあまり制度にこだわらずに、身近なところで切れ目のないサービスを提供することが大切であり、それが地域包括ケアシステムの考え方だと思います。高齢者の方は、自分の体が弱ったり何か障害が出た時に、自分の生まれ育った所で様々な支援サービスを受けることは、そういう方達の望みでもありますし、精神衛生上自分たちの生まれ育った場所で、サービスをずっと受けていくのが好ましいかたちだろうとして生まれてきた制度だと思います。ただし、介護、福祉、医療等の全体の流れが大事なので、地方の現場を預かる者からいうと、あまり地域包括ケアに拘りすぎる必要はないと思っています。やはり首都圏と地方は全然違いますし、高齢になって介護が必要な人を首都圏でみるということは、地価の問題や人手の確保といった問題がありますので非常に難しい。従って地方創生の中で〝高齢者を首都圏から地方に移住〟というと言葉が適切ではないかもしれませんが、その対応を含めて、地域の活性化をはかることは、ちょっと如何だろうという気はしております。

―介護の人材不足、在宅系看護師の不足等、人材が不足していると聞きます。つくば市においては、人材は足りているのでしょうか。

介護の人材不足については、不足していて困るといった情報は入ってきていませんが、離職率は高いとは聞いています。厚生労働省の見解では、現状の施策を継続した場合、2025年には約30万人の介護人材が不足するとの見通しが示されており、地域包括ケアシステム構築に、不可欠かつ重要な基盤の一つである介護人材を量・質ともに安定的に確保するための対策を早急に図っていく必要があると考えています。また当市は、茨城県内の他の医療圏に比べて医師数や病院数が多く、医療資源に比較的恵まれているといわれておりますが、在宅医療の面では他の医療圏同様に立ち遅れており、特に在宅医療に従事する医師や看護師等の人材不足が懸念されています。従って、在宅での生活を支えていくために推進している地域包括ケアシステムは「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」という5つの要素から構成されており、これらは個別に提供されるのではなく、それぞれの役割に基づいて互いに関係しながら、また連携しながら在宅の生活を支えていくものですので、これらを支える人材を安定的に育成していくために、報酬や労働環境の課題解決に取り組み、介護に従事する方、在宅医療に従事する医師や看護師等の確保に、国を挙げて、全力で取り組んでいただきたいと考えています。

―今後は治す医療ではなく、生活支援型の医療を目指すといわれているお医者様も多くいらっしゃいます。生活支援、QOLの向上をはかっていくことは今後重要になっていくと思います。つくば市でも健康教室、転倒予防教室、市民ウオーキング等、予防医療の取り組み並びに様々な取り組みをされていると思いますが、具体的な内容について教えてください。

当市では、中高齢者の健康増進、体力改善や健康寿命の延伸、生活習慣病を予防するため、いきいき運動教室、出前健康教室の開催、健康増進を目的に毎月第1日曜日を「つくばウオークの日」と定め、健康ウオーキングを実施し、平成26年度は14回実施、延べ2,089人の参加がありました。

当市の介護予防事業としまして、健康増進施設「いきいきプラザ」において高齢者を対象に、毎週1回楽しみながら運動習慣を身につけていただける運動教室を行っています。主に有酸素運動、筋力アップ運動・ストレッチング等、体力測定も行い運動効果を数値化して、参加者の意識向上に繋がるように実施しています。また運動教室の他に、地域の公民館や集会所など身近な場所を利用して出前体操教室も実施しており、後期高齢者の参加が多い状況です。内容は、インストラクター編と茨城県立健康プラザ管理者である大田仁史先生が考案したシルバーリハビリ体操があり、インストラクター編では、ストレッチ体操やリズム体操、ボール運動、筋力トレーニング等を行っており、シルバーリハビリ体操では、筋力強化や体力向上のための体操等を実施しています。以上の事業すべてに転倒予防のための運動を取り入れており、指導者は健康運動指導士または健康運動実践指導士の資格を持っているインストラクター及びシルバーリハビリ体操指導士です。そのシルバーリハビリ体操指導士の養成講座は、市が実施しております。

―柔道整復は、高度診断機器、薬物を用いることなく救護にあたれる医療職種として、また近年盛んに言われ出したエコ医療であると言えます。市原市長から見て、柔道整復(伝統・民族医学)は今後どのような活用が望まれるでしょうか。

私は整形外科医ですから、当然今までも柔道整復師の皆さんとの連携をはかってきた積もりです。やはり医者が出来ることと出来ないことってどうしてもありますね。柔道整復師の方は、身近なところで時間をかけながらコミュニケーションをとって施術をされ、これまで非常に長い間やってこられました。一方、医者は短時間にいろんな診療機器を使って診察して簡潔な治療も含めて治療を行ってきた訳ですので、柔道整復師の方の診療行為と医者が出来る診療行為とでは自ずと違います。これはもう私共医療側も柔道整復師の皆さんが患者さんに対する接し方等、見習わなければならないところが沢山あります。お互いの特性を生かしながら、お互いが連携をして協力することは重要であると思います。

また、地域包括ケアシステムへの柔道整復師の方々の参入というのは、私はあり得ると思います。寧ろみんなで見守っていく必要がありますから、柔道整復師の方々が今までやって来られた経験やノウハウを活かしながら一緒に参加していただくのが良いのではないかと思っています。

―『未来都市つくば』と呼ばれて久しいと思います。近年つくば市は、つくば国際戦略総合特区、ロボットの街つくばの推進をされているそうですが、その辺についても教えてください。

当市に集積する世界最先端の科学技術を生かして、次世代型の新産業・新事業を次々と生み出していくことを目指しています。つくば国際戦略総合特区として認定の研究開発プロジェクトの推進を行うほか、研究機関や大学、企業、行政、金融機関等が力を合わせ新たな産業・事業を生み出していくための「産学官金連携」の仕組みの構築を図っております。

特区認定の研究開発プロジェクトには、

  1. 次世代がん治療(BNCT)の開発実用化
  2. 生活支援ロボットの実用化 
  3. 藻類バイオマスエネルギーの実用化
  4. TIA-nano世界的ナノテク拠点の形成 
  5. つくば生物医学資源を基盤とする革新的医薬 品・医療技術の開発 
  6. 核医学検査薬(テクネチウム製剤)の国際化
  7. 革新的ロボット医療機器、医療技術の実用化と世界的拠点形成
  8. 戦略的都市鉱山サイクルシステムの開発実用 化プロジェクト

となっております。

また「ロボットの街つくば~人とロボットが共生する社会を目指して~」をテーマに、少子高齢化などの社会情勢に対応するため、さまざまな分野でのロボットの活用が期待されているところであり、ロボットの最先端研究を行う大学・研究機関が多く存在するつくばの特徴を生かし、つくば市は研究機関と連携してロボット産業の創出・育成に力を入れ取り組んでおります。

ひと口にロボットといっても、人型のロボットとロボット技術は違います。ロボット技術も、介護や医療を提供する側のロボット技術とサービスを受ける側のロボット技術とは異なり、例えば介護で患者さんをケアする時に腰に負担がかかりますので腰をサポートしたり、介助をするために今までリフトで持ち上げていたものをロボット技術を駆使して移動するなど、或いは「ハル」のように動かない足を動かすようなロボット技術、その両方があると思います。今後ロボット技術が医療や介護の現場にどんどん入っていくと思いますし、人手不足やケアする側のサポートも可能になってきます。また障害を持った方の障害を軽減するためにロボット技術を使うようになるでしょう。さらには環境づくり、例えば部屋全体をロボット化して、人がいなくても見守りをするような環境にロボット技術を応用するなど、いろんな場面にロボット技術がますます入っていくことになるでしょう。

5年前に『ロボット安全検証センター』という世界でも数少ない施設を国が誘致して創りました。今、多くのメーカーが自社製品をセンターに持って来て、生活支援ロボットの国際規格であるISO13482の取得に向けて、ロボット技術の安全検証を行っています。つくばは、いろんな研究機関が集っていますので、様々な機関が連携をとり合って、地域における実証実験のフィールドとして活用していただくよう発信していきたいと考えております。

市原健一氏プロフィール

昭和26年8月19日生まれ。

学歴:北里大学医学部卒業。
経歴:平成5年9月~平成16年11月、茨城県議会議員(連続4期)。平成7年2月~現在、医療法人 健佑会 理事長。平成15年4月~平成16年3月、茨城県監査委員。平成15年4月~平成25年5月、茨城県病院協会 会長。平成16年11月~平成20年11月、つくば市長(1期目)。平成20年11月~平成24年11月、つくば市長(2期目)。平成24年11月~つくば市長(3期目)、現在に至る。
趣味:ゴルフ、音楽鑑賞
座右の銘:人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。ひとたび生を得て滅せぬもののあるべきか。

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