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スペシャルインタビュー:柏市長・秋山 浩保 氏

インタビュー 特集

柏市の人口は、406,835人。内、高齢者人口は96,931人で、高齢化率は約23.8%である(平成27年4月1日現在)。

柏市は、1960年代より東京のベッドタウンとして人口が急増。1970年代以降は、多くの商業施設が進出、商業地として栄えてきた。その後、柏の葉地域で東京大学・千葉大学・産学連携施設を中心とした文教地域が形成され、柏の葉キャンパス駅前サテライトは、公・民・学の共同研究と社会実験の全学的拠点になっている。

そんな柏市にふさわしい秋山市長に、『柏プロジェクト』を中心に卓越した見解をお聞きした。

地域包括ケアシステムのモデル地域として計画的に推進、市民が共に助け合い支え合うまちづくりを目指しています!

柏市長
秋山 浩保 氏

―日本の社会保障制度について秋山市長のお考えをお聞かせください。

私自身、とても良い制度だと思っております。特に国民皆保険制度は本当に素晴らしいと思います。中にはいろいろな批判が出てきていますけれども、今の介護保険制度に関しましても、診療報酬に関しましても制度がキッチリ回るように上手く設計が出来ていると思っております。ただ医療も介護も、カルテのデータを単に収集して点数だけを計算するのではなく、過去のデータを集めてこういう疾病が起こる人は過去にどういう病歴があったのか等、健診に活かすまでには、まだまだ一元化されておりません。大企業の健康保険組合さんでは既にやっておられますけれども、長期間のデータの蓄積が必要だと思いますし、データをもっと活用して良い意味の前向きな予防、或いは加重診療、過剰投薬を避けるといった活用の仕方は余地がもっとあると思っています。また、確かに良い制度ですが、人口構成によっては財政負担が大きくなりますので、それを国民の皆さんにしっかり認識していただいて、維持していかなければ、良いとこどりだけでは非常に難しいですし、とかく全てにおいて良いとこどりになりがちですので、もう少しその辺は我々がしっかり正しく伝えていかなければという思いを持っています。

―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展に対する柏市の取組みを教えてください。

一般的に役所等では高齢化というのは65歳以上となっておりますが、現実的には75歳位まで殆どの方がお元気なので、社会設計という意味では75歳以上の方に注目をすることになります。従って柏市の場合、絶対値が約2倍になりますので、そういう意味ではその方々に対して、民間の方達と一緒になって対応が出来る医療及び介護事業の量を確保できるのかというのは、とても大きな課題です。とにかく量的な確保をしなければならないのですが、人数が増えれば病院を増やさなければという話になります。柏市の場合、厚労省の方針で一部療養病床のベッド数を少し増やしても良いということにはなっております。しかしながら、例えば今の人数が2倍になったとするとベッドも2倍に増やすということはもうあり得ません。おそらく自宅や介護系施設で療養しなければならないということになりますので、在宅で病院や介護施設並のケアが出来るような体制を作るべきであるとして様々に取り組んでおります。勿論、全てが在宅というのではなく、施設ケアと在宅ケアが二本柱になります。施設は民間事業者に作っていただいて、さらに生産性をあげるように、今までのいろいろな知見を学んで活用していくことになります。在宅ケアを面で推進していくにはそんなに数多く事例はないため新しいチャレンジです。実際には民間の事業者さんが取り組まれる訳ですが、その民間の事業者さんが個々バラバラにやるのではなく、意識と情報を共有化しながら仕組みとしての在宅ケアを構築しましょうというチャレンジを現在行なっております。そういう意味で市役所の象徴的な対策として、在宅ケアの体制を作るべく部門を意図的に設けました。通常であれば高齢者福祉の部署が担当しますけれども、それとは別に「地域医療推進室」という専門の部署を作りまして、推進しております。それが柏市の特徴といえます。

―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。現在地域包括ケアのモデルとして進められている「柏プロジェクト」についてお聞かせください。

日本全国いろいろな自治体がありますが、中でも首都圏は団塊の世代のボリュームが他の自治体よりも非常に大きいんです。そういった首都圏の高齢化の問題、要は絶対的に数が増えるということですが、僅か10年15年でやってきます。

その間、高齢者の方達が介護のお世話になる、或いは医療のお世話になる時の体制が整備できるのかということが大きな問題で、先に話しましたように、そのために〝病院をいっぱい作ります〟や〝特別養護老人施設を作ります〟というのは、国の方針でおそらく出来ないだろうと。であれば、今ある病院、今いらっしゃる開業医の先生、介護の皆さんと協力をし合って、患者さんは家や施設に居て生活しているけれども、病院と同じような形で健康状態を管理するような仕組み、これが在宅ケアですが、それを面で展開する地域包括ケアのチャレンジをしています。

それだけを言うと簡単なように思われます。もう10年も前から言われていることです。しかしながら、言われていても何故それが拡がらないのかというと、一番の理由は在宅医療を行う医師の数が圧倒的に少ないからです。(中略)まずは〝在宅の先生を増やしましょう〟というのが一番最初の目標でした。24時間365日の負担を減らすために〝チームで取り組んでください〟ということで開業医の先生がチームを組めるように医師会と我々が間に入って、チーム制で出来るような仕組みを作っています。例えば1週間休む時には、替わりの先生を患者さんや家族の方にちゃんと紹介をしながら、主治医・副主治医というかたちで、少しでも負担感を減らすようにしています。また先生自身が負担感を減らすテクニックをマスターされます。結局家族は心配だから何でも電話をしたくなってしまうんですが〝こういうことがあるかもしれないけれど、心配しなくても良いよ〟と前もって言っておけば、家族の方も大丈夫なんだと様子を見て、朝になってから電話しようとなるんですね。つまり先生のテクニックでその負担を減らすことも可能です。それを今先生も一生懸命やられていて、訪問看護師さんと上手くチームを組んでおられます。訪問看護ステーションは数人の看護師さんがいらっしゃいますので、24時間365日稼働できます。そういうことで、訪看さんに対応してもらって負担感を減らす仕組みを我々としては設計しました。 また、東京大学・柏市医師会と一緒に在宅医療で必要な総合医になるためのプログラムを作成しまして、もう一度学生の時に戻っていただいて、最初はベテランの先生に同行し、訪問診療を知っていただくような内容も作りました。元々ベースがございますので、それを受けていただくことで不安感を解消していただくことになります。

もう1つは、介護の皆さんとのチームを本当に組めるのかという問題です。柏市では、「顔の見える会議」といって、自治体が中心になって地域包括ケアに関連する様々なお医者さん、歯医者さん、薬剤師さん、訪問介護をされる方、理学療法の方、作業療法の方々、殆どすべての関係職種の方々に案内を出しまして、いろいろな形でテーマ別に症例研究等を行い、平成24年から27年2月まで計12回開催しています。毎回100人以上集まり、参加者は延べ2223名を数えます。要は顔見知りになることで〝貴方はあの地域でそういう仕事をしているんだ〟って知ることで、何かあった時に〝こういう患者さんが出たので〟と、お互いが連絡し合えます。そういう会議を何度も何度も重ねて、まず人間関係を様々な専門家の間で作っていくことを意識的に行っています。お蔭さまで在宅ケアを行う先生が増えて、その先生達と一緒にチームの人たちも動きだしました。やはり「顔の見える会議」は良いということで、参加したいという人が沢山出てきまして、一昨年くらいから軌道にのった感がしています。それに伴って在宅で看取りをするケースも劇的に増えました。在宅ケアでは、在宅医療の先生を増やすこと、介護との連携を深めること、もう一つは市民の意識を変えていくことが大事です。

まだまだ多くの市民は、在宅ケアは心配だとして、病院に入院させたいという気持ちがあります。しかし、在宅でも殆どのことが出来ますし、落ち着けば病院から出されてしまいますから、在宅という選択肢をもっと知ってもらいたいです。また、死生観をもつことも大事です。患者さんにとって如何する事が一番幸せかというのを患者さんも家族の方も分った上で、どうやって安らかな最期を迎えさせてあげるか。やはり覚悟をもつことが大切です。そうは言いましても、初めて自分の親が亡くなるということは、確かに不安です。いま、辻先生たちと一緒に、看取りについて柏市の市民に伝える方法を模索しておりまして、多くの方の心に響くように、看取りを経験した患者さんの家族の人たちに話していただくビデオを撮って、節目節目で家族の方の心境の変化やどういう葛藤があった等、映像に残してそのビデオを観ていただきたいと考えております。親や配偶者がそういう状態になった時に備えて観て頂くことが大事なので、其処にも力を入れないと拡がらないと思います。我々が一生懸命在宅ケアといっても、患者さんのほうが〝在宅ケアは結構です〟というのでは話になりませんので。

―地域包括支援センターの力量差も言われており、地域力が弱くなっている現在、「互助」による支援体制が機能する可能性についてもお聞かせください。

地域包括支援センターを中心に地域の支援ネットワーク構築に努め、安全・安心な生活基盤を確保すべく努力しているところです。次年度の総合事業移行後における「ふるさと協議会・NPO・ボランティア団体」等と連携した支え合い活動を推進するため研究会を設置し、生活支援コーディネーターをコミュニティエリアに配置し、生活支援サービスの提供体制の整備をはかっていく計画です。 「互助」というのは、現実で期待出来るのは、健康な時から虚弱になるまでに何十年というご近所との付き合いをしてこられた方だけに限られると思いますし、そういう方はそれ程多くいらっしゃらない。家族が近くに居る方はいらっしゃいますが、居ない方も大勢いらっしゃいますので、そういった意味では社会制度で、補っていかざるを得ないと思います。互助の理念はあっても、実際は公助というか制度でやるしかないという気はしています。ただし、制度だときめ細かくするにはやはり税金を投与しなければなりません。つまり、社会で支えなければどうにもならなくなっている以上は、〝介護保険料が上がります〟といったことを言っていかなければならないと思います。それを言わなければ、市民の皆さんは負担は少な目でもっと手厚くとなってしまいます。それはとても無理ですし、もう限界にきているというか、財政が破綻してしまいます。やはり、其処はキチンと現実を伝えていかなければならないと思います。(中略)

―介護の人材不足、在宅系看護師不足等、人材が不足していると聞きます。柏市においては人材は足りているのでしょうか。

不足しています。実は、今年2つ特養がオープンしました。しかし、採用に相当苦労しています。直ぐには人が集まらないため、最初は一部稼動で始めています。若い人の賃金を比較してみると介護職の初任給は、他の会社とそんなに変わらないんです。変わらないけれども、その後が伸びないという不安や何かイメージがあるのでしょう。みんなでそのイメージを少しでも払拭してイメージアップをはかろう、意識的に情報を発信していこうということで、去年から「介護職人」さんという名称を作りまして、市のホームページにシリーズで様々な方々に登場していただいて、少しでもイメージを上げようという努力をしています。しかし、そういったことは間接的な話ですし、現実にすぐに結び付かないと思います。今は募集しても応募自体が殆ど無いという事態です。普通に求人誌で募集しても殆ど来られないため、いま働いている方の友人や知人の方に声をかけるなど一生懸命やっているところです。

―古来から地域医療を支えてきた医療職種である柔道整復師は、骨接ぎ・接骨院の先生として地域住民の方々に親しまれてきました。また柔道整復師はスポーツ現場でもスポーツトレーナーとしてアスリートの怪我やパフォーマンスの向上に役立つ指導を行ってきました。今後の超高齢化社会においては、運動能力の維持管理が重要なテーマの一つと感じます。運動能力を維持していくには、単に痛みを取るという考えではなく、能力そのものへの取り組みとしてトレーナー的な業務が必要と感じます。介護分野では柔道整復師は機能訓練指導員として機能訓練を行える職種であります。地域包括型ケアシステムの中に柔道整復師の参入は可能でしょうか。秋山市長のお考えをお聞かせ下さい。

柏市でも柔道整復師の皆さんにはいろいろやっていただいています。とにかく凄くまとまりの良い団体で、マラソン大会等大きなスポーツ大会の時には皆さんチームを組んで、救護活動にきてくれますし、1つお願いするとキッチリ仕事をしてくださいます。また東日本大震災以来、防災の役割を接骨師会の方が受け持ってくださることになりました。やはり災害時には捻挫や打撲等が非常に多い。トリアージで優先順位の低い方に対し接骨の方々がどんどん入って手当していただく。そういう体制を改めて大震災の後に作りました。そこにも柔道整復師の方は参加されております。孤立されているという噂を耳にしますけれども、柏市では医師会のほうから声をかけて〝入ってよ〟ということで、良い感じだと思います。しかも、地域包括ケアの会議にも顔を出されています。手挙げ方式ですが、手を挙げた先生はいらっしゃいますし、ウエルカムです。問題は在宅ケアの中で柔道整復師の先生がかかわった時にどうやってお金を得るかです。柔道整復師さんたちはどのような報酬が得られるのかの課題を解決しなければなりません。医師会が接骨師会さんを受け入れられていますし、実際に接骨師会の先生たちに何かの時にはいつもやっていただいていますからね。

―昨今、地球規模で大災害が多発しています。柏市の防災計画について教えてください。

平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、柏市においても多くの被害が発生するとともに、帰宅困難者対応、燃料の確保、停電対策、情報伝達、県外からの避難者の受け入れ、放射性物質への対応等、想定の枠組みを超えた課題が顕在化しました。柏市ではこうした教訓を今後の対策に生かすため「人命保護を優先した体制の構築」「自助・共助の育成による被害の軽減」「男女共同参画の視点に立った計画と障害者等の災害時要援護者への配慮」「広域的な応援や受援体制の構築」「想定外の事態にも対応可能な体制の構築」とした視点により、住民、地域住民組織、防災関係機関、行政が一体となって取り組むものとするという基本方針に基づき、平成25年3月に柏市地域防災計画(震災編・風水害編・大規模事故編・放射性物質事故編)を修正いたしました。行動マニュアルの整備とそれに伴う実践的な訓練を継続的に実施しあらゆる災害に対応できるよう危機事象を洗い出し、事前に対策を検討しました。つまり、実際に稼働するように仕切り直しをしました。役所ってどこもそうですが、防災の凄く分厚い白書があって、網羅はされておりますが、全然使えない部分がありました。柏市は海がないので、阪神大震災の神戸のような直下型の地震を想定し、大災害が発生して3時間後、3日後、2週間後等、要はその時々に誰が何を、どの部署が如何対応するかということをフローに添って計画書を作成し、例えば、職員が居ない夜、或いは土日であればどうするのかというのも作っております。それに則って訓練を行い、今どこにいるのか、連絡すると何処でどれだけ反応するのかといったこと等、様々な場面や状況を想定して、一応携帯電話は繋がっているという前提でやっています。一方でもし携帯がとまってしまうと如何なるのかということも想定しなければなりません。電気がとまってしまうのはある程度想定して行っています。地震が起きた時に病院に集合、そこに柔道整復師さんも集まる、トリアージの中で一つの役割を受け持っていただくことは決まっています。中々他ではそういう医療チームに入れないと聞いていますが、ここ柏市では、柏市医師会が軽症なものについては接骨師会の先生に診てもらったほうが早い、そのほうが機能するということで、そういう点でも柏市医師会の先生は合理的で凄いです。 とにかく、柏市医師会が非常に懐が大きいんです。常に試行錯誤している中で、ある程度上手くいったという部分の半分以上は柏市医師会の献身的な取り組みによるものが大きいです。通常はお医者さんって威張っている方のほうが多いように思われていますが、柏市医師会の場合は、自分たちが目線を合わせようという意識、先ほどの「顔の見える会議」でも、そのチームで司会を務める等、前向きな先生がとても多く意欲的です。勿論柏市医師会の先生全員ではありませんが。2割3割の先生達に引きずられて、組織全体で協力してもらっています。

―今後、病院で死ぬことが出来ない時代がやってくる中で、どのような地域社会を構築できるか。地域における健康づくりを従来型の健康政策のみではなく、機能の集約化、住居環境及び交通網の整備などまちづくりの視点も加えた総合的な施策の構築等についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。

治す医療は相変わらず必要ですけれども、支える医療が膨大になってくるんですね。 市民の方は、治療ばかりではなく、生活をしなければなりません。例えば単身の方が少し状態が悪くてゴミを出すのもしんどいとか、大きなものを動かすのもしんどいなど、困っている時に、そういうことというのは介護ではありませんし、訪問看護も対応しきれない、何所に相談したらいいんだろうと。本当に些細なことだけど「互助」みたいな支えが必要なんですね。しかしながら、互助は、結局その人がどういう人間関係を築いてきたか、どういう人生を送ってきたかによりますので、互助というのは制度を越えた善意の関係です。善意の関係はある日突然には生まれませんので、それをどうするかでしょうね。ゆっくりゆっくり時間をかけて出来上がっていくものです。その方が最初その町に来て、誰も知らない時に周りの人たちに挨拶しながら、最初はその程度だったけれども、地域の祭りでお手伝いをしたら、面白いとか相性がいいとかが分って、そういう活動を続けてきたり、子どもが切っ掛けで付き合いが始まった等、それを20年30年やってくると漸く善意の関係ができてくる訳で、それをやっていなかった人がある日突然というのは無理だろうと思うんですよ。従って我々は制度設計のところで知恵を出し合って、公助の部分を一生懸命取り組んでいきたいと思っております。

秋山 浩保(あきやま ひろやす)氏プロフィール

1968年9月6日、千葉県生まれ。
1992年3月、筑波大学第三学群国際関係学類卒業。
同年、外資系コンサルタント会社のベイン・アンド・カンパニー入社。
1994年、宅配ピザの株式会社フォーシーズ入社。社長室長、常務取締役を歴任。
1997年、大前アンドアソシエーツ設立に参画。
その後、経営コンサルタントとして、さまざまな会社の役員を歴任。
2009年11月、柏市長選で初当選し、市長就任。

趣味:スポーツ。地元のマラソン大会やトライアスロン大会にも参加。
座右の銘:「批判より提案を。思想から行動へ」

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