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スペシャルインタビュー:日野市長・大坪 冬彦 氏

インタビュー 特集

日野市の人口は182,787人である(平成28年3月現在)。日野市は知る人ぞ知る新選組の副長として活躍した土方歳三の出身地である。また国内トラック・バス業界最大手日野自動車の本社所在地でもある。市内には、179ヶ所の湧水が確認され、これらの特徴を生かした緑豊かなゆとりとうるおいのあるまちづくりを推進する等、望ましい環境を次世代へ継承できるよう市民・民間団体・事業者の各主体が一緒になって地球環境に優しいまちづくりに取り組んでいる。

そんなまちづくりのトップリーダーとして恵まれた才能と市民目線で人望あふれる日野市の大坪市長に日野市のグランドデザインを話していただいた。

市民自らが繋がり合う支援体制と「地域包括ケアシステムの構築」を一体化し、心身ともに健康長寿のまちづくりを目指しています!

日野市長
大坪 冬彦 氏

―日本の社会保障制度について大坪市長のお考えをお聞かせください。

これからどの国も経験したことがない超高齢化社会に向かっていきますので、それに伴って年金・医療・介護等の社会保障費が右肩上がりに膨張していくことになります。一方、少子化のためにこの社会保障の財源を捻出する生産年齢層が減っていくという意味で今後社会保障制度の存続が危うくなっていくという危機感を抱いております。また、少子化の原因となっている若者雇用の劣化や最近話題になっている子どもの貧困率が史上最悪ということで、日本は子育て支援等の政策についてはかなり貧弱で、OECD諸国と比較すると教育も含めて子どもや若い世代への支出が少ないというのが日本の特徴であると思っております。但し、先ほど申し上げましたように年金・医療・介護の支出が膨らみ高齢者にシフトしておりますが、一方で高齢者の中にも「下流老人」という言葉が昨年流行りましたように、そういう意味で格差が生じていると思っています。日本の社会保障の特徴は、最近は「地域包括ケアシステムの構築」が言われている中で、近年少しずつ解消されてはおりますが、やはりまだまだ施設入所中心或いは病院中心の社会保障制度であるというのが特徴と思っております。

―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展と少子化に対する日野市の取組みを教えてください。

増田寛也さんの「896の自治体が消滅する」という衝撃的な宣言の前から私ども日野市では、団塊の世代が75歳以上になる2025年、団塊ジュニアが65歳以上になる2040年を見据えて、明らかにもっと高齢化が進めば、当然医療・介護の費用がパンクするぐらい大きくなり、しかも人口減少で生産年齢人口が減ってきますから、担い手が少なくなってくる。其処を見据えて具体的にどうして行くかということで、基本的に3つの戦略を組み立てました。

1つは、人口のバランスと定住化を図っていく。2つ目は、産業立地を強化して雇用を確保していく。3つ目は、ヘルスケアウェルネスということで「健康長寿のまちづくり」です。つまり、医療や介護費用の右肩上がりを出来るだけ減らすには、様々な世代が健康づくりに励み、医療・介護費用を少しでも減らしたいという考えです。そうした3つのテーマでの戦略のフレームを決めて、いろんな企画を進めていこうと取組み始めたところです。

そうこうしている内に増田さんの発言があり、政府が動いて「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を打ち出した訳ですが、基本的には今お話した3つの戦略がほぼ地方創生の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にそのままシフトしたという感があります。ただ若干「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は人口減少問題、特に希望出生率を1.8以上にするところにシフトしていますけれども、課題認識は同じですから、それに沿って進めていくということです。少子化対策といっても、人口をいきなり増やすことは難しいですし、人口が減少しても、要はバランスなんですね。極端に高齢者にシフトしていないように、いろいろな世代が活力ある地域社会を目指そうということで取り組んでおります。しかも今のシニア層は非常に元気ですし、70歳を超えても高度な技能や知識を持っている方が大勢いらっしゃいますので、そういう方々も経済活動の主体として働けるように地域サービスの支え手になって頂くような環境を作っていきたいと考えております。また長期的には出生率の改善もはからなければなりませんから、当然保育園の整備とか待期児童の解消等、子育て支援もしていかなければなりません。しかも第2子、第3子の子どもの出産を思いとどまる方が多いので、そのためにはどうしたら良いのかということで、行政だけではなく地域の企業、大学等、産学官が連携して課題解決に向かっていきたいという考えです。

総合的にみて、我々が出しているのは「ポストベッドタウン構想」という計画です。日野市もそうですが、東京の近郊である三多摩はほぼ同じで、都心・都区内で働く方が「寝に帰るまち」ということで、それが高齢化してしまいますと市全体が沈んでしまいますので、やはり働き方というのは「職」と「住」が分かれているのをなるべく近密にして、それをベースに多様な働き方をして頂けるような、また女性の働き方も含めて、いま女性が進出していますけれども更に活躍するためにも「ポストベッドタウン構想」を打ち出していきたいと考えています。そのためには当然雇用も含めて働き方を見直さなければなりませんし、いま日野市の大手の工場が撤退の動きもありますので、その跡地に新しい産業を誘致することで、新しい職住近接の雇用を生み出していきたい。しかも女性の働き方を支援し、子育て支援もしていきたいと考えております。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、私どもは生活価値を共に創り上げるという「共創の都市」ということでポストベッドタウンを掲げておりまして、これらが日野市の人口減少社会に対する基本政策であり、取組みを開始したところです。

―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。日野市で現在取り組まれている地域包括ケアシステムの構築状況についてお聞かせください。

今後一番大きな中心となるテーマだと思います。しかしながら、中々簡単ではありません。それについては、国も私どもも言っておりますけれども、地域包括ケアシステムの中心的な考え方として、一番取り組まなければならないのは、「医療と介護の連携の構築」だと思います。

社会資源として、例えば介護保険系の訪問看護ステーションなどいろいろ出来ていますし、様々な訪問事業所も出来ておりますので、在宅サービスを支える事業者は沢山いらっしゃいます。一方、お医者さんも沢山いらっしゃって、夫々が一緒に歩んで連携していく仕組みが重要です。それを如何に構築するかというのが、地域包括ケアシステムを作りあげていく上で一番のポイントであると思います。そういうことで当市は、医療と介護の関係者団体で構成される「在宅高齢者の療養推進協議会」を設置して、その中で多くの部会をもちながら介護と医療の連携をはかることを目的に「多職種連携ガイド」を作っており、「介護と医療の連携シート」とツールの作成も行っております。それらを活用して、一人一人の患者さんや在宅医療・介護を受ける方に対して一つの共通の認識を持って臨んでいくための仕組みづくりを今始めております。そういった専門の多職種間の連携基盤を如何に構築するかというのが、地域包括ケアシステムを進める上で大きなポイントになりますので、勉強会を行うなど色々顔の見える関係づくりを進めてきました。

やはり以前に比べると医師会、そして介護の業界、行政も含めていろんな方々との関係がよくなって顔の見える関係を築けてきておりますので、かなり垣根は低くなったように感じております。しかしながらまだまだ夫々がバラバラに動いていることもありますし、連携が上手くいっていないところもありますから、その辺を如何に、点と点を組み合わせて面にしていくのかというのは、これからの大きな課題と思います。それが上手くいかないと地域包括ケアといっても掛け声だおれになってしまいます。在宅医療については医師会との関係で在宅療養・介護連携支援センターを作る予定です。丁度、医師会が医師会館を新しく移設しまして、そこにセンターを作って、連携の仕組みづくりの拠点としていきたいという構想を進めており、それらが現時点での到達点であります。

―介護の人材不足、在宅系看護師不足等、人材が不足していると聞きます。日野市において、人材は足りているのでしょうか。

八王子にハローワークがありますが、そこの有効求人倍率を見ますと、27年12月の常用的パートタイムでは、介護職が2.2です。東京全体では10を超えていますから、それに比べると少しましであるとは思います。ただし、常用的なフルタイムで見ますと1を下回って0.95です。介護事業所はいろいろな人材を求めており、スポットの勤務形態を求めている一方で、逆に働きたい方は安定的な収入を求めて常勤職での採用を望んでいますから、ミスマッチの部分があるのかなというところはあります。従って、全国的にみれば勿論人材不足でしょうけれども、多摩地域の日野市では未だそれ程ではないということが言えるように思います。いずれにしても何所の介護事業所も経営が厳しいため、これから更に2025年に向かって深刻な人材不足が予想されます。

平成25年に当市では「介護保険事業計画」策定のための調査を行っており、その時に介護事業所に対して実施した調査では、保健師、看護師、介護福祉士の採用が困難であるという結果が出ております。また、当市では市立病院をもっておりまして、全国に案内をして看護師さんに来てもらうことをやっておりますが、所謂奪い合いで中々厳しいと実感しております。当市の場合は、市内の介護業界の団体とお会いして、ハローワークとの連携等も行っておりますし、その上で介護職の求人説明会もやっておりますが、中々決め手がなくて厳しい。今回、介護報酬が少し下がりました。ただ加算が少し増えましたから、加算を頑張ってとっている所は何とかやれておりますが、やはり経営体力がありますから中小、小さい所は非常に厳しい。という訳で人が集まらないという状況が続いておりまして、これから市としてもどう対処すべきか悩ましい問題であります。

当市では一時、ヘルパーさんの資格を取るための講座を受講する方にお金を一部助成をすることを行っていましたが、自治体単独で人材育成を目指すのは、どうしても厳しいところがありますから、今後行うとすれば複数の自治体で取り組む、或いは東京都を動かすなど、そういうアクションを起こしていかなければ、この問題は中々解決しないと思います。

―古来から地域医療を支えてきた医療職種である柔道整復師は、骨接ぎ・接骨院の先生として地域住民の方々に親しまれてきました。また柔道整復師はスポーツ現場でもスポーツトレーナーとしてアスリートの怪我やパフォーマンスの向上に役立つ指導を行ってきました。今後の超高齢化社会においては、運動能力の維持管理が重要なテーマの一つと感じます。運動能力を維持していくには、単に痛みを取るという考えではなく、能力そのものへの取り組みとしてトレーナー的な業務は必要と感じます。介護分野では柔道整復師は機能訓練指導員として機能訓練を行える職種であります。地域包括型ケアシステムの中に柔道整復師の参入は可能でしょうか。大坪市長のお考えをお聞かせ下さい。

今年度から「介護予防・日常生活支援総合事業」という、昨年まで行っていた所謂介護予防ですが、要支援者を対象に新しいサービスとして機能訓練等のサービスを通所施設で行う第1号の通所事業が出来ました。それについては接骨院等でも可能ではないかと考えておりまして、既に市内の接骨院の方から参入する意向を頂いております。

私ども「介護予防・日常生活支援総合事業」を組み立てる上で既存の介護事業所だけではなく、様々な力をお借りしたいということで多様な主体の中の多様なサービスの展開が特徴ですから、柔道整復師の方の参入も頂いて、新たな機能訓練の手段という位置づけでこれから始めていきたいと思っております。所謂西洋医学的なアプローチではない形でのアプローチの能力とノウハウをお持ちですから、やはり当市としては、健康長寿を目標に市民の皆様に運動して頂きたいといった方向でありますし、既存の介護事業所の中の介護予防という点で活躍の場所はますます大きいと思っています。西洋医学的に治すというよりも生活の中で如何に使えるようにするかが一番大事です。私自身、町の接骨院にも随分行きましたけれども、単純に治すだけではない、QOL向上のためのより良い処方をして頂きましたから、その辺は分っておりますので、是非そういう面で期待しています。

―やはり、医療のいきづまりといいますか、今後は治す医療ではなく、生活支援型の医療を目指すといわれているお医者様も多くいらっしゃいます。生活支援、QOLの向上をはかっていくことは今後重要になっていくと思います。日野市でも健康教室、転倒予防教室、市民ウオーキング等、予防医療の取り組み並びに様々な取り組みをされていることが分ります。たとえば転倒予防教室などはどのような方を対象に行われ、その指導者はどうやって選ばれているのでしょうか?よろしければ教えてください。

介護予防事業としては、先ほど申し上げました介護保険の流れの中で地域の方々が自発的に取り組む事業へと今転換をはかっているところです。 現時点で、地域包括支援センターの保健師さんが、中心となって予防知識の普及・啓蒙活動を行っております。その中でいろいろな方に参加して頂きたいというのが今の1つの方向です。

日野市が行っている代表的な運動事業としては「さわやか健康体操」と「悠々元気体操」があります。「さわやか健康体操」というのは、65歳以上の方で運動習慣がない市民を対象に、これまで市内26会場で約2200人が参加しており、かなりの歴史があります。軽度のストレッチ、足腰の筋力トレーニング、リズム体操等を行っています。これについては、健康運動指導士等の専門の運動指導員に担当していただいております。

しかし、高齢化が進む中、資格を有する専門の運動指導員がすべて指導するには限界があります。そこで、当市は市民の力を健康行政に生かしていくため、健康体操サポーターという市民ボランティアの体操指導者の養成も行っております。1年間の養成講座受講後、市民への体操指導を行っていただいており、年間330回派遣をしております。

もう1つの「悠々元気体操」の方も、健康運動指導士等の専門の運動指導員に担当していただいております。対象を70歳以上とし、「さわやか健康体操」よりも運動強度を低くして、より転倒予防、寝たきり防止の側面が強いものとなっています。 もうちょっと緩やかなところでは、平成15年度から「健康づくり推進員」という方を募って、もう10年以上の歴史をもっていますが、現在44名の方が参加され、ウォーキングであったり、ゲームを行ったり、運動も兼ねて緩やかな形で市民自らが主導し参加者の募集も行って、現在44名の方夫々が地域で活躍しています。

―今後、病院で死ぬことが出来ない時代がやってくる中で、どのような地域社会を構築できるか。地域における健康づくりを従来型の健康政策のみではなく、機能の集約化、住居環境及び交通網の整備などまちづくりの視点も加えた総合的な施策の構築等についてはどのようなお考えをおもちでしょうか。

日野市の面積は、27.1平方キロで狭いんですね。ですから既にコンパクトシティであります(笑)。面積が非常に大きい自治体は都市部の部分と過疎の部分をどうするかということで、ギュッと圧縮してコンパクトにするという話がありますが、それは当市では全く考えておりません。

日野市の課題は、先ほど高齢化と申し上げましたが、特に市内中央を横断す河川の南側、京王線沿線の丘陵地を中心に高齢化のピッチが急速で、まさに其の地域は高度成長期にいろんなデベロッパーさんが開発して、一斉にドーンと居住して、その後子供たちは出て行ってしまって、一斉に高齢化が進みました。しかも、そういう方々が外出困難者であり、買物難民でもありますので、市としては面積が狭いので、そういう方々を高台から下ろすのではなく、ミニバスやワゴンタクシーをかなり以前から市内を走らせています。そうすることによって、そういう方々の外出機会を増やして、それを通じてQOLを上げていきたいと考えています。

又、先ほど申し上げたヘルスケアウェルネス、「健康長寿のまちづくり」の一貫として「歩きたくなるまちづくり」を今進めています。ハード面で、例えば川沿いの遊歩道のコースにウォーキングサインを付けたり、ベンチやトイレを設置したり、公園に健康運動器具を設置する等、其処にお誘いをして楽しくなって歩きだしたくなるような、そんなまちづくりを考えて、やり始めているところです。あと、もう1つは、空き家条例を今年度作成する予定です。空き家を如何に活用するか、高齢者のサロンなど福祉目的に活用するようなこともやって行きたいと思っておりまして、そういうまちづくりの動きと「地域包括ケア」をセットにした総合的な動きをこれからつくろうとしているのが日野市の現状です。

大坪冬彦氏プロフィール

昭和32年12月8日、東京都大田区生まれ。同51年3月、桐朋高校卒業。同56年3月、一橋大学経済学部卒業。同56年4月、日野市役所入所。平成17年2月、資産税課長に就任。同18年4月、高齢福祉課長に就任。同20年2月、健康福祉部長に就任。同23年2月、まちづくり部長に就任。同25年2月、日野市役所退職。同25年4月、日野市長就任、現在に至る。
趣味:読書。体を動かすこと。
座右の銘:「人への感謝を忘れずに」

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