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スペシャルインタビュー:厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長・遠藤征也氏

インタビュー 特集

2000年に介護保険制度が創設されてから15年が経過した。社会状況の変化とともに推移、また改正を重ね、遂に日本の将来を決定するともいわれる『地域包括ケアシステム』の構築を目指し、各自治体が本気で取り組むこととなっている。

この度、厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長・遠藤征也氏に介護保険制度の理念や目的、今後の住民参加型の社会保障制度の在り方に至るまで、幅広く話していただいた。

総ての国民が幸せになれる国の根幹である社会保障制度を模索し続ける中で、介護保険の理念や在り方とは…

厚生労働省 老健局
総務課 介護保険指導室長
遠藤 征也 氏

2015年12月12日に武蔵野市で開催された「ケアリンピック武蔵野2015」で、「介護保険制度の15年間と今後の展望~明るい未来社会の構築に向けて介護・看護職へエールを込めて~」と題して、遠藤氏が話された基調講演”千思万考”の内容から主に質問させて頂きました。

―〝介護保険法第1条と第2条には、介護保険の哲学が書かれています。このことを確認しながら皆さん仕事に就いていただきたい〟と仰られましたが、介護保険の哲学についてお聞かせください。

どの法律も総則にはその法律の目的並びに基本的な考え方が書かれていますから総則は非常に重要です。介護保険に関しては特に総則の第1条と第2条をご覧頂きたいと思います。法律ですから文言を読めば概ねその主旨はわかるとは思います。例えば第1条には〝介護保険の対象者は疾病等により要介護状態になった者である〟と対象者を特定し、制度のねらいとしてこれらの方が日常生活を営むことができるよう給付を行い保健医療の向上を図る等々が書かれています。ただ、私が「哲学」と言ったのは大げさかも知れませんが、少なくとも介護に従事する者であるなら、単に条文上の文言ではなく条文上の一語一語の本当の意味を読み解く責務があるいう事です。

例えば第1条には「尊厳の保持」という文言があります。これは平成17年の改正で新たに入れた文言で、何故「尊厳の保持」という文言が入ったのかを知らなければ、やはり根本的なところは分らないと思います。尊厳とは何か、人によって様々な解釈があるかも知れませんが、端的に言えば「人間が人間らしくあること」、まさに尊重される生活を営むことだと思います。尊厳を保持しとなっていますから、そういう意味では、例えば介護の状態になって〝もう死にたい、早くお迎えが来ないか〟と嘆いていれば、それ事態が、人間が人間らしくあるという本来の人間のあり方とはかけ離れています。ですから今一度、その方に本来の人間らしさを保持して頂くことが目的になるわけです。そう考えると尊厳というのはある意味自分を尊いと思う気持ち、すなわち自尊心であり尊厳を保持するとは、自分が生きている事を肯定できる事ですから、自尊心を回復する、そうなれば希死願望なんて生じないと思います。従って利用者自身の存在感を高めるような支援、利用者がそう感じられるような支援を行う必要があります。

「尊厳の保持」という文言がスルーすることなく、それらを意識し踏まえた上でサービスを提供する、支援をするということが分らなければ、本来のあるべき支援を私は出来ないと思います。単にサービスを提供すれば事足りるシステムではないという事です。サービスを提供するのは勿論重要だけれども、その前に今一度、死にたいと言った人が〝もう一度生きてみようか〟という人間らしさを取り戻す、そして自尊心を高める。要介護になって、何もできない、生きる意欲を失った方に〝そんなことはないですよ、まだまだやれることは多々あるじゃないですか〟といった肯定感をもたらす。そういう心を持ってサービスを提供しなければいけない。それが本当の意味での介護保険法の目的だと思いますし、そこが1つ目の哲学だと思います。

もう1つ第1条関係では「国民の共同連帯」という文言があります。表面的に見れば、単に皆で支え合う事と思ってしまいがちですが、介護保険というのは医療保険と違って、子供の被扶養者になったり世帯主が保険料を負担するシステムではなく、高齢者本人が保険料を支払っています。介護保険において、高齢者は支えられる側でもあるが、実は支える側でもあるんだという両方の役割を持っています。つまり、この介護保険の主役は誰かと考えれば、国でもないし、保険者でもない、高齢者、利用者本人になるわけです。そういうことを踏まえて主役は誰で誰の為の制度かという事を考える必要があります。

更に、第2条において「保険給付は要介護状態の軽減又は悪化の防止に資する」とあるように、ご利用者が出来ないことをやってもらう、単なるサービスを提供するシステムではないということです。軽減または悪化の防止に資するようなサービスとなる必要があります。この保険はまさに尊厳を取り戻して、そのためには今の状態を軽減または悪化を防止しましょう、それによって更に自尊心を復活させるんだ!まさに支援の本質がここに書かれているのです。そして第2条「被保険者の選択にもとづき」とかかれています。介護保険が出来る前は、措置という制度でした。措置というのは行政処分であり、恩恵的かつ画一的な制度です。利用者がサービスを決めるのでなく行政が決めていたわけです。〝それっておかしいよね、誰の為のサービス?〟行政がサービスを決めるのではなく利用者が選択すべきてはないかという疑念が生じたたわけです。では、利用者が選択するってどういうことなのか?つまり利用者が選択するということは自己決定できるということです。同時に、自立という言葉が多々使用されており、様々な考えがあると思いますが、私は本当の意味での自立というのは「自己決定」があって初めて成り立つものだと思います。まさに「利用者の本位」ということです。

ですから他人の意向に左右されるのでなく自分でこうしたい、ああしたいということを決定できて初めて自立と言えるのではないかと思います。そういう意味で介護保険関係者は「尊厳の保持」「利用者本位」を踏まえた上で自立支援を志向しなければ、本当の意味での支援はできないと思います。

―〝介護保険制度の主役はまさにその人自身「利用者本人」、サービス提供の本当の目的は「自立支援」であるが、サービス行為に着目し、それが目的になってしまえば、いかに効率的にサービスを提供するかとなって様々な問題が生じる〟とも仰られておりますが、具体的にはどういうことがなされる必要があるということでしょうか?

効率的なサービスを否定するものではありません。いま特に介護業界は深刻な人材不足ですから介護ロボットの活用やICTの活用によってサービスの効率化は当然推進すべきものです。ただし、今回のように報酬が下がれば経営に影響が出ますから、経営サイドとしてはより効率的なサービス提供を望むでしょう。重ねて言いますが、介護保険は単なるサービス供給システムではありません。まさに様々な専門職がチームとなって関与しサービスという手段を用いてご利用者の生活や心身の状態の変化を勘案し自立した生活が営なまれるようにすることです。

ですから単に食事介助をするとか、掃除を行うのではなく、掃除をするにしても1週間前と様子が違うとか、受け答えが悪いとか、この間とは全然家の状況が違うなど、その掃除という行為を通じて心身の変化をみるわけで、その為には専門職の視点が必要不可欠です。サービスという手段を通じながら、ご利用者の生活全体をふまえて常に時系列で見るわけです。サービスが目的になってしまえば、その行為が中心になり、行為の対象となる部分しか見ません。行為だけ行うのであるならば必ずしも専門職である必要もなく、行為が目的になれば利用者より優先されるため利用者不在のサービス提供にも通じます。やはり「何故自分たちは専門職としてサービスを提供しているのか、専門職が提供するサービスとは何なのか」ということをしっかり考えるとともに、日頃から自らのスキル、専門職の倫理を再確認する必要があります。同時に今一度介護保険の主旨、目的を確認すべきです。

また経営者に対しての研修も必要だと思います。現在、自治体において管理者等に対する研修は実施していますが、加えて経営者に対しても行うべきだと思います。コンプライアンスにも繋がるかと思いますが、介護保険は民間参入が認められ措置時代より介護業界への参入障壁が下がりました。それを私は否定する気は全くありませんし良質の支援が提供できるなら主体は問題ではないと思います。しかしながら民間から入ってきた方は、市場経済なのだから、自分たちで経営効率を高め利益を求める事は問題ないじゃないかと考えるかもしれませんが、通常の市場経済と最も違うのは、支払われる報酬の財源は保険料と税ということです。全く自由に何の制約を受けず自分たちの判断だけで運営できるわけではなく、当然制度の主旨・目的、社会規範、倫理等、いわゆるコンプライアンスを踏まえなくてはなりません。従って報酬が下がった、利益を確保する為にひたすら回転率を上げる事を目的としたサービス行為だけに着目をする。そうすると結果として本来あるべき自立支援のサービス提供とはかけ離れたサービスになってきますから、それが出来ないとなれば介護保険じゃなくても良いという不要論になっていくのです。それは結果として自分たちで自分の首を締めることになります。介護保険というシステムの中で運営するということは、サービスという行為が目的ではなくあくまで手段であり、本当の目的は自立支援であるということを意識しなければなりません。これは制度の維持存続にも関わる大きな問題になっていくのではないかという気がします。

―制度をどう考えるか、どう評価をするのか。制度の妥当性について、効果と副作用の2つのバランスを見ながら考える必要があり、介護保険制度も医療保険制度も両刃の剣等、話されています。わかり易くご説明ください。

制度を論じるにあたって、最も重要なのは制度の目的が本来の目的を堅持している事が大前提になります。たとえば介護保険は何回か改正されていますが、しっかり制度発足時の目的というのが堅持されているのかどうかが重要になります。ですから改正の度に其処はしっかり確認する必要があります。ただ最近少し残念なのは、介護保険は崇高な理念のもとに出来たけれども、ややすれば給付費が非常に増えていますから、その削減が一番の目的になってきているのではないかという気も若干はします。制度の妥当性を判断するには、当然その手法が公正かつ公平であるか等の視点など多々あるとは思いますが、所謂効果や実績ばかりだけを見て判断をするのでなく、その「効果」に伴う「副作用」も勘案して総合的に判断する必要があると思います。例えば、在宅生活の限界点を高める為に、またサービスを十分に受けられる為に支給限度額を撤廃する、利用料を下げる、確かにそれによって負担が軽くなりますし、サービスもさらに受けられる可能性があります。

しかし一方で、それを行ったことで確実に給付費は増加をしますから、それらは保険料に反映され、保険料が高騰する可能性があります。それが効果に対する「副作用」ということです。介護保険というのは、保険者・事業者・利用者、保険料を納めている方々、それぞれ立場が異なり、受ける効果も副作用も異なり、わずか改定率1%アップしただけで1000億円の給付費増となるわけです。今回マイナス改定だったので、実は2300億円程度が給付の削減となり、事業者からみれば収入が下がる可能性が高いですからとんでもない改定でしょうが、被保険者から見れば、削減分により約250円、年間3000円程度保険料が安くなるわけです。しかも介護保険の場合は、8割近くの方は保険料のみ支払っているだけですから、保険料を払う側から見れば、今回の改定はウエルカムでしょう。但し実際は高齢者が増加し利用者が増え介護度の重度化により保険料は上がっていますが本来上昇する額より抑えられたということです。そういうことを考えると、夫々立場によって利益が相反しますので、マイナス改定であってもプラス改定であっても立場によって違いますから諸刃の剣になります。従って、自らの立場にとどまらず様々な視点から考え判断していく事が重要になります。

―〝介護保険制度の改正について、一番大きな改正が平成18年施行の改正で、予防という概念を重視し、施設給付を見直すなど給付の適正化に大きく舵を切った。一方で、地域包括支援センターを創設し、地域の重要性を認識し始めた。今回の改正は、介護保険当初の考え方が大きく転換する一つの改正で、ある意味、制度が出来た当初とは社会状況の変化で考え方が変わってきて…〟と述べられておりますが、その背景の変化について教えてください。

社会状況が大きく変わったというのは、まず急激な少子高齢化の進展です。これは想定されていたことですが、想定された以上に急激に進んだということです。しかも単に人口減少し稼働層(支え手)が減るという事だけではなく、世帯構造も大きく変化し、単身世帯や老々世帯が急増したことによって、様々な問題が生じてきています。同時に生涯未婚率の上昇により親と未婚の子のみ世帯の増加も顕著です。これは介護と仕事の両立やこういう言い方が良いかどうか分りませんが、年金パラサイトなどの問題も内在化されております。これらの状況は、全国一律に進展するのではなく、都市部と地方では全然状況が異なり高齢者の増加率やそのピークも地域によって異なり40%を超える人口減少の地域も珍しくありません。また人口移動にともない社会資源なども減少するなど地域の脆弱化、地域間格差がかなり顕著になっていきます。さらに非正規雇用者の割合も4割を超え、支え手である稼働層内においても格差が生じ格差社会が進行しているのが現状です。

どちらかというと今まで支え手の方というのは1億総中流ではありませんが、支え手総員で支えていましたが、実は支え手の中で非正規雇用が4割というのは、支えての中でさえ支援を必要とする人が出てきてしまっています。このように高齢者を取り巻く環境が大きく変化、複雑化してきておりますから当然高齢者自身のニーズも変化、重層化してきますので、それに対応できるシステムが必要になります。同時に地域の多様化が進展しているということは、そこにお住まいの方々のニーズに対応するシステムを作る必要があります。介護保険は地方分権の試金石と言われて創設されましたが、まだまだ画一的なシステムです。今回の改正では、勿論全国画一的な部分で担保しなければならないところはありますが、地域のニーズを的確に把握をして対応できるようなシステムに変えなければいけないとして「新総合事業」というのを創設し市町村の創意工夫で事業が実施できることになりました。その結果、支援する側(サービス事業所)は今までは専門職一辺倒だったのが、地域の社会資源、住民力をも活用し地域全体で制度を支えていくという方向に舵が切られているのです。専門職だけではなく地域の社会資源も活用して地域全体で取り組んでいくんだということです。

この「新総合事業」は名称のとおり事業ですから、地域のニーズに応じた地域の創意工夫をこらした独自の施策展開が可能となります。但し、事業である以上給付とは異なり、事業実施にあたってあまり制限は受けませんが、予算の制約は受けるので効果的・効率的な実施が必要不可欠です。例えば武蔵野市さんでは創意工夫でいろんなことを実施していますが、予算の制約は受けるので何でもかんでも無制限に実施できるわけではありません。今回の改正で勿論給付の部分も残っていますが、これから社会状況の変化に応じて、専門職だけではなく、地域住民の力も踏まえて総力戦でやっていこうという方向に変わってきていると思います。

―地域包括ケアシステムの構築が言われ出してから3年経過したと思います。地域が主役になっていく必要があり、住民が自治体に参加する。まさに参加型の社会保障とは、どういったことでしょうか。また国民はどのようにあるべきでしょうか?

もともと介護保険というのは、地方分権の試金石と言われスタートしました。地方分権とは、住民一人一人に生活と未来を決定する権限を移譲していくことです。ですから今までであれば、国民から最も遠い中央政府が当事者の参加なき生活保障などを決めていたわけです。しかしこれからは国民に身近な地方自治体における住民参加による当事者参加型の保障に切り替えていくことで、まさに住民による住民の為の施策を構築し展開していくことが必要です。近年のグローバル化によって、国は所謂他国の状況を勘案しながら施策を展開していかなければならないため、国の施策が国民のニーズに必ずしもマッチした施策になっているかというと齟齬が生じている部分があります。更に地域が多様化していますから、国の行っている施策がAという地域ではマッチしているかもしれないが、Bという地域ではマッチしていない可能性があるわけです。しかも1500超もの保険者がありますので、国がいくら苦心し施策を講じたとしても、全ての自治体が満足するような施策は困難です。従って、最も住民に近い地域の自治体が施策を実施できるようにしましょうということで地方分権が提唱され、その一つの方法として地域包括ケアシステムがあるということです。また住民が参加をするということは、停滞している今の現状を活性化させるチャンスでもあります。

そこでの最も大きな課題は地域住民にどのように参加して頂くかになります。住民自身が自分の住む町を今後どのようにしていくのか常日頃から地域の状況を気にかけ、他人の問題としてではなく自分の問題として認識する事が重要です。ただし日々生活が忙しい中でなかなか認識するのは困難ですから、やはり市町村の支援が不可欠になります。少なくとも市町村から自らの地域の人口構成や将来予測など地域診断を行い、それらを「見える化」する。そして住民に情報提供などを行うことにより現状認識して頂くと同時に、このまま何もしなかった場合のリスクなどを示して共有することが大事です。住民も行政も一緒になって考えていく、住民一人一人が地域で生じている課題を自分のこととして捉える、その自覚をもたないと本当の意味での参加型の社会保障にはなりません。地域住民が自分たちの町を今後どうしていくのかという意識を持って行政と一緒にいち早く取りかかるべきだと思います。おそらくこれからそういう取り組みが出来ている自治体と出来ていない自治体で、かなり格差が広がってくるのではないかと思います。ある意味、これまで国に任せていた部分がありますが、これからは自分たちの責任というか、自分たちで変えられるということを自覚する。そして其処をしっかりやれば、今よりもはるかに暮らしやすい生活環境を整備できる可能性がありますし、自分たちに決定権があるというのは大きいと思います。その為には住民と市町村が車の両輪となって施策を構築することだと思います。住民一人一人が地域を改めて振り返りみる事、何が起こっているのか他人事でなく自分の事としてとらえる、その自覚を持つ必要があります。

―〝地域包括ケアシステムの目的は、①ケア付きコミュニティの構築②在宅生活限界点の向上であり、この実現のためには、如何にネットワークを構築できるか。ここが肝になる〟とも話されており、地域のネットワークづくりがスタートラインとお話されました。この点について各自治体の足並みはどのようでしょうか?

地域包括ケアシステムの構築にむけて「新総合事業」がスタートしましたが今年度中の実施予定も含め約3割程度にすぎません。この数字だけで判断すればまだまだ厳しいという感じがしますけれども、地域には趣味のクラブ、或いはお祭りのネットワーク等の既存の小さなネットワークが沢山あります。ゼロから作るのは確かに大変な労力を要しますが、まずは既存のネットワ-クを結びつけリンケージ化して、それが繋がっていけば大きなネットワークになります。そういう意味で元々地域のポテンシャルは高いと思っていますし、ネットワークがゼロという地域はまずありません。この小さなネットワークを把握し繋げていくことがやがて大きなネットワークの構築に繋がっていく事を理解して頂ければ、今はバラツキがあるものの2年後3年後に足並みも揃ってくるのではないかと期待しています。ただ、声がけしリンケージしていくには保険者の協力が必要なため、保険者と地域包括支援センターがしっかり自分の地域にどんなネットワークがあって、どのような機能を有しているのか把握する事が大切ですし、ただ単に繋げばいいわけではありません。お互いがそれぞれの役割を認識し繋がる事によってどのような効果があるのか等を理解してもらう事が大切になります。そこがうまく機能すれば自然に発展していくと思います。また少子高齢化が進んで稼働層が減るといっても、実は65歳の高齢者が増えますし元気な方が大半です。彼等をどうやって担い手に回すか、その方達の知識や知恵をも活用できれば在宅生活の継続性は、十分可能であるように思います。たとえ要介護5でもご本人が在宅で過ごしたいという希望があれば、24時間365日介護サービスを入れることは難しいにしても、ここは専門職が、こちらは地域の方が中心となって支援する、必要に応じて協働するなど棲み分けができれば可能と思っています。

―高齢者の医療は、治す医療からQOLの向上に視点が大きく変わってきており、まさにここで医療と介護の目的が一致した訳で、当然一緒にやっていく必要がある。団塊の世代が後期高齢者になる2025年が大変だと言われてきたが、もっと大変なのは団塊ジュニアが高齢者になる2040年を念頭において考えていくことが重要等、述べられています。分り易く教えてください。

団塊ジュニアの方々は現在まさに稼働層の中心として日本経済や社会保障制度を支える中核的な層として頑張って頂いています。日本の将来象を予測すればこれから更なる少子高齢化が進展し稼働層が激減する一方で、高齢者は2042年まで増加し続けますし後期高齢者の第2のピークは2053年になります。そうすると2040年が一つのメルクマールになって、実は2040年以降、高齢者とその他の世代の割合は1対1を割り込み稼働層の割合が低下していきます。実は2025年というのは、団塊の世代が後期高齢者になり、介護需要の急増に向けた入口に過ぎず、サービス提供体制の維持において様々なリスクが発生するのは、2040年を超えてから長期間にわたり継続します。少なくとも2040年になった時点で、その時点での高齢者、まさに団塊ジュニア世代になりますが彼らを支えるシステムが構築されている必要があります。社会保障を含めて高齢者の問題を議論する時に今の高齢者を支援するだけであれば課題は限られていますが、同時に未来の高齢者も支援するための施策を考えなければいけないのです。もし仮に財政状況が良くなったとしても、稼働層の割合はよほどの事が無い限り今の推計値から大きく変わることはないと思います。急激に子どもが増えたりするわけではないので、おそらく稼働層は減少し介護人材の確保も難しくなりますから、当然システムを構築するのに様々な課題をクリアーする必要があります。しかしながら、今からそれに向かっていかないと、その時になってからでは間に合いませんから、今以上に効果的かつ効率的なサービス提供システムの構築が求められるわけです。

―また遠藤室長は、〝高齢者問題は重要だけれども、実は全世代に対して社会保障を行っていかないと難しい時代になっている〟とも言われております。そのことについて教えてください。2060年くらいまでにどのように社会構造の変換を行っていく必要があるのでしょうか。

社会保障を考える中でやはりリスクを負う者、社会的な弱者を支援するというのが基本的な考え方だと思います。従前はやはり高齢期になった時がある意味一番リスクを負うことから高齢者問題を中心に議論してきました。しかし今日社会状況が変化することによって単身世帯の増加、共働き化により家族機能が著しく低下しました。また都市部に人口が流入することによって都市部も地方も地域に親しい方がいないなど地域力が脆弱化しました。その結果、所謂「血縁、地縁」が消滅したわけです。同時に雇用形態、経済状況の変化により終身雇用制度が崩壊し非正規雇用者が急増することによって最後に残された「社縁」がなくなったわけです。つまり何かあった場合に、血縁・地縁がなくても会社の人が助けてくれる「社縁」という最後の砦があったのですが、もう頼る縁がないということです。実はこれは高齢者だけでなく稼働層や若者も同じ状況です。高齢者だけがリスクを背負っている訳ではなく、30代、40代の方も〝もし明日仕事がなくなったらどうしよう〟全世代がリスクを抱えているのが現状です。

そう考えた時に、まず何をすべきなのか、様々意見はあるかと思いますが、私はまずは「格差社会」をどうやって解消するかがポイントだと考えています。高齢者だけ支援しても社会的なリスクはなくなりませんし、現在日本は所謂「格差社会」が進展しています。すなわち所得のある親のお子さんは高学歴という図式が出来上がっています。生活に余裕があれば、余裕分を子供の教育費用に充当できます。職業格差が教育格差を生み教育格差が学歴格差を生む。日本はまだまだ学歴社会ですから学歴格差が職業格差を生むわけです。生活保護世帯の4分の1は生活保護世帯になると言われています。彼等が悪いわけではなく、そういう環境に恵まれなかったのです。ですからそのような環境におかれている方々への支援も必要になってきます。いま安倍政権で1億総活躍社会を推進していますが誰もが平等に同じような恩恵をうけられるよう税の配分問題など含め、教育に恵まれないお子さん等に対しては何らかの補助を検討して環境を整えてあげる必要があると思います。それらの取り組みを通じてみんなが平等となる社会を構築していくということが2060年に向けて重要になってくると思います。

―平成30年に向けて地域包括ケアシステムを進めていく中で、今後どのようなことを重点にされていくのでしょうか。また介護職の人の身分の向上についても何か対策をお考えでしたら教えてください。

平成26年の改正で地域支援事業など見直しを行い、新たに在宅医療・介護連携推進事業などが様々な事業が創設されました。これらの事業が保険者を中心とし専門職、地域住民等とどのような方向性で推進していくのかを共有・合意し展開していくことが大事だと思います。また介護に従事する方々が将来の自分に期待できるようなイメージを持って頂けるよう少なくとも全産業の平均賃金まで上げる施策が必要ですし、もう1つは、努力されている方がきちんと評価されるシステムの構築が必要不可欠です。そのためには1億総活躍プランの中で賃金改善の話が出ていますが、処遇改善加算含めさらなる国の財政出動があってもいいかと思います。それらの取り組みを推進することにより、介護職の身分の向上、介護という業務に対する評価やイメージもかわる可能性も出てきて、結果として人材不足の解消に繋がっていく事を期待しています。

―今後の超高齢化社会において運動能力の維持管理が重要なテーマの一つと感じます。運動能力の維持とはいいますが、現実に高齢者は運動器の一部に退行性の疾患を抱えながら運動能力を維持あるいは改善しなければなりません。単に痛みを取るという考えや、単に言葉で指導するということではなく、退行性変性を起こした多少の疾患を抱える中でのQOLを維持する、あるいは運動能力を改善するという手法は、柔道整復師がこれまで現実に行って来た業務内容そのものとも言えます。そうした中で介護分野では柔道整復師は機能訓練指導員として機能訓練を行える職種以上にその能力を生かせるのではないかと思います。地域包括型ケアシステムの中に柔道整復師の参入は可能かどうか、遠藤室長のお考えをお聞かせください。

柔道整復術というのは、身体に傷や負担を極力与えない優しい治療技術として人間の持つ治癒能力を最大限に引き出すというか、発揮させる治療を行い今まで様々な分野で活躍されてきたと思います。なんと言ってもその歴史も古く長年の地域での活動により多くの方々から信頼されていると思います。依然、医師に対する敷居が高く感じられる方も多いかと思いますし、施術は身体に直接触れながらコミュニケーションを通して行うので患者さんとの関わりも強くなります。高齢者の場合は単なる痛みを軽減するという治療だけではなく、生活全般の中でどのような事に注意したら良いのか等のアドバイスを求めている方も多いと思います。特に医師の治療とは違ってそういう意味で今後高齢者が急増する中、地域において住民が生活を営む中での身近な「身体のアドバイザー」となって頂きたいと思います。

介護分野では柔道整復師は機能訓練指導員として活躍されてきましたが、今後、「新総合事業」が展開される中で地域において住民の方々が主体となった様々な活動が展開されると思います。例えば今でも各地で住民主体の体操教室や住民主体のサロンなどが開催されており、まさに柔道整復師の方がそういう場に出向きQOLを維持する為にはどのような事に注意すればいいのか、あるいは運動能力を改善する為に家でできる事はどのような事なのかなど専門的な見地から助言や支援をして頂きたいと思います。特に地域には多くの柔道整復師の方々がおり地域の現状なども十分ご存じですから皆さんで協働してこの地域で運動能力の低下防止、改善の為にどのような取り組みができるのかなど、是非考え活動して頂きたいですし、行政等に対して提案して頂きたいと思います。これだけのマンパワーが地域に密着して活動しているということは、大きいと思います。

柔道整復師の方は非常に高い専門技術を持っているので、予防を含めいろいろな場面で指導できると思います。一人では難しくても地域の先生何人かでお仲間を作ってみんなで一緒に回ることは出来るのではないかと思います。とにかく稼働層を含めて地域の人口が減って全員が担い手となる時代に突入しつつあります。このような状況の中で地域に密着して活動している専門職の方はまだまだ多くおられません。そういう意味で地域の専門職として地域に貢献してもらう意義は非常に大きいと思いますし、今後益々期待しております。

遠藤征也(えんどうゆきや)氏プロフィール

<現職>
厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長。

<略歴>
昭和60年厚生労働省入省(旧厚生省) 社会援護局、大臣官房、総務省を歴任。
介護保険制度創設に従事後、平成14年から平成21年、平成24年から老健局において制度改正に従事。
平成27年4月より現職。

<活動>
地域福祉ケアマネジメント推進研究会主催
東久留米市社会福祉審議会、行財政調査会等歴任。

<著書>
「医療と介護の連携のための疾患別ケアマネジメント基礎講座VO1」
「ケアプラン点検支援マニュアル活用の手引き」等

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