スペシャルインタビュー:杉並区長・田中良氏
杉並区の人口は、約55万7千人である(平成28年5月現在)。東京23区でも閑静な住宅街として人気の高い杉並区。日本全国に約400あるアニメ製作関連会社の70ほどが杉並区内にあり、世界有数のアニメ産業集積地となっており、機動戦士ガンダムなど多くの作品が杉並に所在するスタジオで製作されてきた。また杉並区は、毎年100万人を超える見物客が訪れる東京の代表的な夏祭りの一つである高円寺の阿波踊りや80万人もの見物客が訪れる阿佐谷の七夕まつりなどが開催される地でもある。そんな杉並区の田中区長は現実を厳しい目で直視し、困難と思われる問題に果敢に取り組むダイナミックな人物である。今後杉並区民が、安心して住むことが出来るまちづくりを共につくりあげ、託せる人である。
地域包括ケアシステムの構築はもとより、将来をみすえて一つ一つ現実に横たわる深刻な課題を解決していく必要があります!
杉並区長
田中 良 氏
―日本の社会保障制度について田中区長のお考えをお聞かせください。
日本の社会保障制度は、戦後の救貧対策から高度経済成長を経て、寝たきり老人問題、成人病対策など、その時代の要請に応じて改革を繰り返し、国民の安心・安全の暮らしを支えてきた素晴らしい制度だと考えています。しかしながら、世界でも類を見ないほど急速なスピードで迎える高齢化、少子化などの人口構造の変化などから次世代への負担が大きくなること、受益と負担の偏重感、核家族化や女性の就業状況及び就業形態の多様化など社会構造の変化などにより、国においても「税と社会保障の一体改革」を行っていますが、やはり制度の在り方を大きく見直す必要があると考えています。所謂日本の社会保障制度は、医療保険と年金、介護保険という3つの柱で成り立っていますが、このまま少子高齢化がどんどん進行していけば、医療にしても年金や介護にしてもサービスが持続不可能になっていくことが予想され、現状の負担と給付のバランスが崩れていくことになります。少子高齢化ということで人口構成が変わっていく中で、非常に危機感が募っているというのが今の日本の状況であり、世界に例をみないスピードで、高齢化が進行しているということはよく言われていることですが、高齢化と少子化が相俟って、日本の社会保障制度が今後100年を展望した時に危機的な状況にあるということは、最早共通認識であると考えております。
―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展と少子化に対する区長のお考えを聞かせてください。
少子化対策について、つい最近まで国家的な課題認識で取り組んだという記憶がありません。少子化対策が必要だという人はたくさんいますが、実際に少子化対策にこれだけの財源を注ぎ込んでいるとか、こういうことに取り組んでいくというのは、あまり聞いたことがありません。目の前に子どもが少なくなっている現実は分かっていても、危機意識として共有されていないのです。少子化のもたらす影響で将来こうなっていくだろうということは理屈や理論では理解できたとしても、子供が少なくなっていることを一般の方達が地域社会において危機意識として実感しているかというとそうではないと思います。〝寂しくなったね、野球チームも出来なくなるよね〟という程度のことで、それが将来地域社会にとってどれだけ深刻な問題になるのかという危機意識は共有されていないと思います。例えば家庭で子育てが一段落して、子供が独り立ちすれば〝もう私達今度はのんびり生きようよ、やりたいことやろうよ〟となるだけで、つまり少子化というのは高齢化に比べるとリアルに大変だという危機感が共有されにくいのです。
ところが高齢化は「家庭崩壊」、「介護地獄」と言われることが増えてきて、しかも昨今の問題でいえば車の運転の問題も後期高齢者が事故を起こすケーズが多発して巻きぞえになる方たちがいる。また認知症で大変なのは本人だけではなく、周りが大変だというような生活実感がどんどん広がっています。現に暮らしている人たちが大変になっている状況を何とかしなければということで、そういったことが多くの国民に理解されています。しかしながら少子化対策というのは誰も本気で困ったとは思っていないために、そんなことに税金を注ぎ込むのであれば、もっと困っている人がいるじゃないかという話になってしまうため、あまり政治の世界でも前面に出て来なかったと言えると思います。そういう状態が何十年も続いてきたことで、「少子化対策」をしっかりやらなければ、子供の時代、孫の時代になった時に大変な事態になり、社会保障制度が持続不可能になって崩壊してしまうということが少しずつ言われるようになりました。
しかし、まだまだ全体の理解としては弱いのではないかと思います。例えば、いま杉並区では保育園の待機児童解消緊急対策として、1年間で定員を2200人増やすという、かつてない取組みを進めています。保育園を作ることに反対する方がいらっしゃいますが、これだけ女性の社会進出や晩婚晩産化が進んでいる中で一刻も早く子育てと仕事が両立できる社会環境を都市部で作っていかなければ、更に出生率の低下を招くことになります。どんどん若い人たちが都市部に流入してきている中で、都市部の出生率を上げていく必要がありますし、その取り組みを進めなければ益々少子化問題は深刻になります。今後、子供たちや孫たちの時代に悪い意味で影響が出てくることが予測されますので、なんとか区民の方達に理解をして頂いて都市政策を進めていきたいと考えているところです。お互いに危機意識を共有した上で譲り合いの精神でやっていくしかないと思っています。
―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。杉並区で現在取り組まれている地域包括ケアシステムの構築状況ついてお聞かせください。
区の地域包括ケアは区内20カ所の地域包括支援センター(ケア24)を中心に、地域づくりや医療・介護連携の推進、認知症対策などを柱とした地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいます。また27年度には、区内20箇所の地域包括支援センター(ケア24)に「地域包括ケア推進員」を配置し、それぞれの特性に合った地域づくり(認知症対策、医療介護連携の推進、生活支援サービス体制の整備)を進めています。また、杉並区医師会の協力で7つの日常生活圏域ごとに「在宅医療地域ケア会議」を開催し、医療・介護の連携と在宅医療の推進をめざしています。そのほか、認知症の早期発見・早期診断・早期対応の体制づくりに向けて、認知症初期集中支援チームを立ち上げるなど、目下地域包括ケアシステムの構築を一生懸命進めています。
しかしながら、地域包括ケアが全ての課題を解決してくれるということを識者の中でも主張される方がいらっしゃいますが、それは幻想ではないでしょうか。認知症の人たちをケア出来るというのも一定程度までであり、どうしても施設介護は必要になってきますし、施設介護の受け皿が弱ければ、地域包括ケアにどんどん負荷がかかってきて、大変な状態で困っている人が滞留してしまうことになります。地域包括ケアというのはネットワークづくりでもあり、まちづくりでもあるというのは全く否定するものではありませんが、それだけで問題は解決しないということも直視しなければいけないでしょう。例えば昔は家で死ぬのが主流でした。昭和のはじめ頃、戦後間もない頃もそうだったように思います。しかし今は病院で死ぬ人が圧倒的に多い。つまり医療費を膨張させているから家で看取りが出来るようにしましょうとなって、確かにそれが出来る人は大いに夫々の家庭で看取って頂ければ良いと思います。ただ、これだけ核家族化して親と子供が離ればなれになっていて、病院や施設にでも入れなければ誰が看取りまでやってくれるのか。其処までの余力は地域包括ケアシステムには無いでしょう。従ってどうしても医療施設や介護福祉施設を急ピッチで用意していく必要があるのです。現実に今ある困った問題を解決していくことを考えた時に、施設介護の受け皿もしっかり整備していかなければなりません。つまり、偏った見方や希望的観測ではなく、問題をキチッと直視してやっていかなければいけないというのが私の持論です。区内では特別養護老人ホーム待機者が多く、施設がまだまだ不十分であるとして、特養を1000床増やそうと10年計画で取り組んでいるところです。
施設を作るにあたって、区内で整備をすると莫大な費用がかかります。しかも半分以上は土地代です。土地に税金をそんなに注ぎ込むようなことで本当にそれでいいのであろうかという疑念を抱いております。確かに〝住みなれた地域で安心して住み続けられる〟とした理想的なスローガンですが、ただ福祉というのは施設に入居する人のサービス向上、或いは其処で働く人の処遇改善に繋がっていくお金の使い方であるならばまだしもと思います。公費が土地の取得にどんどん注ぎ込まれていくことに対し、何で誰も矛盾を感じないのかと思っております。そういった考えに基づいて、杉並区は南伊豆に特養を造ろうとしている訳です。つまり区域外に介護施設を造って、土地にお金をかけるのではなく、もっと施設のサービスや施設そのもの、或いはそこで働く人たちの処遇を改善していくような形にしなければという意図であります。お金が土地の所有者だけに流れていくのは、おかしいことですし、福祉というのは人に使うものだろうというのが私の考えです。勿論、地域包括ケアもとても大事であり、住み慣れた地域に安心して住み続けられるというのは、全く否定するものではありません。みんなそれを目指している訳ですが、その発想に全てを押し込めて非効率なことを自治体に強いているのではないかと思う面もあります。
元々介護施設は多摩地域(あきる野市・八王子市・青梅市等)に沢山存在し、それら施設は介護保険制度や後期高齢者医療制度が出来る以前から、いっぱい造ってきているのです。ところがその施設に入っている利用者さんは、例えばあきる野市の施設において、あきる野市住民の入居は3割で、7割以上は外から受け入れています。八王子方面もみんなそうです。それは23区でお金を補助して、ベッドを確保するという形で今までやってきた訳です。しかし、そういう施設をこれからは増やしたくないと多摩の自治体も考えています。何故なら後期高齢者医療制度では、後期高齢者の数が増えればその分を一般財源から後期高齢者医療にお金を投入しなければならないことになっていますので、そのお金を投入するにしても自分の所の住民のために投入するのは良いけれども、他所から入居している人にその市が負担するのはご免だとして、これ以上施設を増やしたくないということです。従って、中々施設は増えません。あと10年か20年経つと地元の高齢化がもっと進みますので他所の高齢者を受け入れる枠がなくなります。そもそも23区の高齢者の行き場がなくなるということになっていきますので、どんどん深刻です。そういう理由で南伊豆に特養ホームを造ろうと取り組んでいるのですが「姥捨て山」ではないかと批判する人もいます。しかし多摩地域の介護施設についてもその一部は、例えば社会福祉法人が運営しており、様々な住民を受け入れています。その社会福祉法人は一生懸命やっているかもしれませんが、その施設の運営について、自治体が基本的に責任を負っているのかと問われれば、一義的責任は社会福祉法人にありますから、それで受け入れて最終的な責任はどこにも無いのです。杉並区の取り組みでは、自治体が施設を区域外に造らせて下さいと言っている訳です。静岡県知事の認可の下に造る施設ではありますが、杉並区のコンセプトが強く反映される施設で、そのことを前提に造っています。従って杉並区が良い施設にしようと思えば、梃入れが可能であり、また事業者は梃入れを受け入れなければいけない関係です。負担の押し付け合いではなく、杉並区民は杉並区が一義的に責任を負うという理念を明確にしております。その上で良い施設を区域外に造ろうとしているので、批判する人にはちゃんと理解して欲しいと思います。また、東京都にも、我々基礎自治体が取り組んでいる事業をもっと応援してほしいですね。
―介護の人材不足、在宅系看護師不足等、人材が不足していると聞きます。杉並区において、人材は足りているのでしょうか。
介護サービスは一部を除いて市区町村を超えた広域的な利用が可能であり、介護事業者も広域な展開をしている場合が多いため、人材の需給を市区町村レベルで計るのは困難です。国は一億総活躍社会の推進に向け、都道府県単位での人材確保策を検討しています。また、東京都では、団塊の世代が全て後期高齢者となる平成37年度(2025年)に都全体で約36,000人の介護従事者が不足すると推計しており、杉並区でも不足することが予想されます。
杉並区では、今年度から介護イノベーションに取り組み介護ロボットの導入等により介護従事者の負担軽減を図る事業を始めたほか、区内で介護サービスを始める事業所を対象として求人広告費を助成する事業を実施し、事業者の介護人材確保を支援しているところです。先程も申し上げたように、都市部で介護施設を整備する場合、土地に何億も何十億もの公費が投入されていることを直視しなければなりません。介護の現場で働いている人たちの処遇を改善させるためにお金が回っていくことをもっと真剣に考えたほうが良いと考えています。例えば、私の知人は、杉並区内の施設で働いている人ではありませんが、週に2日位夜勤をしても、給料は手取り20万円以下であり、しかもケアマネジャーです。そういった給料では、とても生活していけません。
またサービスの向上というのは、処遇改善とセットで良くなるものであり、精神論みたいな話だけでは、人が集まらないのは自明の話です。とは言っても〝財源は何所から出すんだ〟という話で、医療・介護・福祉の料金は、基本は公定価格です。医療保険・介護保険という制度設計の中で公定価格として運用されておりますので、自治体、或いは特別な事情に応じて緊急かつスポット的にお金が投入されるのはあり得ることですが、中々難しいところです。今の保育園の問題を見ると分り易いと思いますが、保育士の処遇を改善しなければいけないということを否定する人はいません。しかし北から南までみんなが同じように直ぐ給料を上げなくてはいけないという切迫度は同程度かというと、決してそうではありません。都市部、特に東京23区は突出した待機児問題を抱えていますから、其処に効くカンフル剤を打てば良い訳です。更に言えば、保育士の給料に官民格差があると言われながら誰も手をつけようとはしません。区長会で発言しているのは私ぐらいです。公務員の給料は、民間のサンプル調査をして、高くもなく安くもなく決めており、それは地方自治体も同じです。しかし、保育士は民間の保育士のサンプルで区の保育士の給料が決まっているのではありません。もしそうであれば官民格差は無い筈です。従って、高すぎる所は、止めなければいけませんし、低すぎる所は上げなければいけません。そういった改革を本気でやっていく必要があります。それを区長会として取り組むべき課題だと総会で発言しました。保育士不足と言われていますが、杉並区で保育士を募集すれば、試験も行っていますが高い倍率で応募がきます。何故なら給料が高く安定しているからです。官民格差を是正することも大事な課題です。
―古来から地域医療を支えてきた医療職種である柔道整復師は、骨接ぎ・接骨院の先生として地域住民の方々に親しまれてきました。また柔道整復師はスポーツ現場でもスポーツトレーナーとしてアスリートの怪我やパフォーマンスの向上に役立つ指導を行ってきました。今後の超高齢化社会においては、運動能力の維持管理が重要なテーマの一つと感じます。運動能力を維持していくには、単に痛みを取るという考えではなく、能力そのものへの取り組みとしてトレーナー的な業務は必要と感じます。介護分野では柔道整復師は機能訓練指導員として機能訓練を行える職種であります。地域包括型ケアシステムの中に柔道整復師の参入は可能でしょうか。田中区長のお考えをお聞かせ下さい。
柔道整復師の方々が長く地域で多くの方の治療にご尽力されてきたことに改めて敬意を表します。今日の高齢社会においては、フレイルやロコモシンドロームなどの筋力や骨格系に問題を抱える高齢者の方が多くなっているようです。そうした症状を改善し予防するためにも専門家による個別的な治療やご指導は引き続き必要と考えています。地域包括ケアシステムは、そうした地域の医療や介護の多様な関係機関の連携はもとより、高齢者自身が居場所や役割を感じ取ることができるよう総合的・包括的に取り組むことが必要と考えます。区では介護保険事業計画を策定し、地域包括ケアシステムの構築に向けた取組に力を入れており、特に区内20箇所ある地域包括支援センター(ケア24)による地域づくりを基本に着実に進めていきたいと考えており、柔道整復師の皆様には、高齢者が日常を健やかに過ごすことができるよう、日々地道にご活動いただいていることこそが、すでに地域包括ケアシステムの一翼を担っているものと期待しています。
柔道整復師さん、或いはマッサージ師さんは、高齢者の方のニーズが凄く高いと思います。転んだり、捻った等で軽度でも治りが遅いような疾患が、中高年にはよくあります。一回寝違えると中々元に戻らない、ちょっとしたことでギックリ腰になったなど、特に年をとると人によって違いはありますが、夫々の地域で自分に合った柔道整復師の先生方のサポートが役に立つと思います。地域包括ケアシステムの中で具体的な役割や中身については、関係職種の皆さんとよく話し合って、具体的な提案があれば積極的に出していただければと思います。
健康なうちは、健康をタダだと思っています。しかし、健康を維持・持続していく為には、お金がかかるということをハッキリ自覚し、そういう認識を持って頂いて、自分で一定の努力なり、取組みをして、コストがなるべくかからないようにするという知恵が求められていると思います。軽度な運動を日常生活の中に自分で上手く取り入れて、体力を維持していくということを考えなければいけないでしょう。繰り返しになりますが公のお金が潤沢にある訳ではありません。これから人口減少で子供が少なくなると使う人のほうが多くなりますから、そういうことを鑑みると自分で健康を持続するということが、生きていく上での務めだくらいにみんなが意識をして、無理のないように歩いたり、軽微な運動を心がけるなど個人差はありますが、年をとったら年をとったなりの健康維持の方法を身につけて、自身の生活スタイルを築いていくというのは心しておく必要があると思います。お金のある人も無い人も健康は自分で考えるという意識を広めていくことが大事です。そういう時代に専門家の方たちが家に帰ったら毎日こういう運動を無理なくやりましょうという指導をして頂ければ、効果的だと思います。
―今後は治す医療ではなく、生活支援型の医療を目指すといわれているお医者様も多くいらっしゃいます。生活支援、QOLの向上をはかっていくことは今後重要になっていくと思います。杉並区の取り組みを教えてください。
杉並区の介護予防は、昨年度までは要介護状態となることを水際で予防する事業(二次予防事業)として、運動プログラムと認知機能の向上を目的としたプログラムを実施してきました。介護保険法の改正に伴い、今年度より二次予防事業は終了し、要支援認定者を対象とした介護予防・生活支援サービス事業と、65歳以上の全ての高齢者を対象とした一般介護予防事業を開始しました。介護予防・生活支援サービス事業は身体能力と生活機能の改善に特化したプログラムを導入し、介護予防の充実に取り組んでいます。一般介護予防事業では介護予防のきっかけづくりを目的として、高齢者向けに身体能力を維持するための運動を指導する事業と認知症予防のための事業を実施しています。事業の運営は、リハビリテーションの専門職である理学療法士・作業療法士、介護予防の専門職である健康運動指導士を配置できる事業者や地域住民が主体となって運営するNPO法人へ委託しています。
―昨今、地球規模で大災害が多発しています。杉並区の防災計画についても教えてください。
防災計画作成の根拠ですが、災害対策基本法を根拠法令としており、国の中央防災会議(議長:内閣総理大臣)が「防災基本計画」をつくり、都道府県、区市町村がそれぞれ「地域防災計画」をつくることが義務付けられています。杉並区の地域防災計画策定にあたっては、東京都地域防災計画、災害対策基本法の改正、東日本大震災などの最近の大規模地震などから得た教訓、近年の社会経済情勢の変化などを可能な限り反映し策定しており、防災対策については、被災者の視点に立って対策を推進することが重要であると考えています。とりわけ、女性、障害者、高齢者及び外国人など災害時要配慮者に対しては、きめ細かい配慮が必要だと思います。また、東日本大震災において、自助、共助及び公助が相互に連携して初めて大規模広域災害後の災害対策がうまく働くことが強く認識されたこともあり、地域コミュニティを基盤とした共助の推進を図っていくことも重要であり、これらに重点をおき、本計画を策定しております。本計画策定の前提条件として、平成24年4月に東京都防災会議が発表した「首都直下地震等による東京の被害想定」のうち、杉並区での被害が最大となる東京都湾北部地震を想定しております。
この度の熊本地震に対しましては、発災後直ちに、区からのお見舞金や、食料品などの救援物資をお届けしています。また、被災した建物の応急危険度判定や罹災証明の発行事務に職員を派遣しています。その他、区の施設や区が主宰するイベント会場に日本赤十字社の募金箱を設置し、義捐金を募っているところです。
―柔道整復は阪神淡路の大震災、2011年の東日本大震災時においても活躍してきました。柔道整復は、高度診断機器、薬物を用いることなく救護にあたれる医療職種として、また近年盛んに言われ出したエコ医療であると言えます。田中区長から見て、柔道整復(伝統・民族医学)は今後どのような活用が望まれるでしょうか。
柔道整復は、接骨院・整骨院という名称で身近な地域に多く開業され、打撲や捻挫などの軽いケガをした時には、応急処置として受療する方も多くいらっしゃると思います。また、医師の診断に基づいてその後のリハビリ等でも利用されています。一方では、近年、接骨院の乱立が目立ち不正請求を起こした事件もあり、正しい保険適用の範囲で施術を行うことが求められています。災害時には、医療機関と連携した救護活動に力を発揮して頂き、身近に治療が受けられる接骨院として、患者に寄り添う施術を期待します。
―今後、病院で死ぬことが出来ない時代がやってくる中で、どのような地域社会を構築できるか。地域における健康づくりを従来型の健康政策のみではなく、機能の集約化、住居環境及び交通網の整備などまちづくりの視点も加えた総合的な施策の構築等についてはどのようなお考えをおもちでしょうか。
区は、これからの人口推計や都市部の課題、経済動向を見据え、24年3月に「杉並区基本構想(10年ビジョン)」を策定し、「支えあい共につくる安全で活力あるみどりの住宅都市 杉並」を区の将来像としました。その実現に向け、1.災害に強く安全・安心に暮らせるまち、2.暮らしやすく快適で魅力あるまち、3.みどり豊かな環境にやさしいまち、4.健康長寿と支えあいのまち、5.人を育み共につながる心豊かなまちの5つの目標を掲げ、10年プランの実行計画を策定し、推進しているところです。
ご指摘のように、地域で暮らすということは健康づくり施策だけではなく総合的に取り組むことは大変重要なことです。上記の目標別の施策や事業の中には、利便性の高い快適な都市基盤の整備や良好な住環境の整備、多心型まちづくりなどの施策や事業もあり、目標別の施策や事業を体系化して総合的に推進しているところです。また、将来像を実現するために参加と協働による地域社会づくりや持続可能な行財政運営の推進に積極的に取り組んでいるところです。今後も、計画の取組を加速化させ、施策や事業の進行管理に務めながら着実に計画を推進していきます。
田中良氏プロフィール
昭和35年11月4日、東京都杉並区生まれ。
杉並ひまわり幼稚園、杉並区立桃井第五小学校、私立獨協中学校・獨協高校、明治大学政治経済学部卒業。 昭和59年、株式会社テレビ東京。 平成3年4月~平成5年6月、杉並区議会議員。平成5年6月~平成22年6月、東京都議会議員(連続5期)。平成21年8月~平成22年6月、東京都議会議長。平成22年7月~杉並区長、現在に至る。
趣味:将棋
座右の銘:澄心得妙観(ちょうしんみょうかんをえる)澄んだ心であれば、良い考えが得られる。
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