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スペシャルインタビュー:練馬区長・前川燿男氏

インタビュー 特集

東京都23区で2番目に人口の多い練馬区は、区民一人ひとりに対して、温かな手厚い支援とサービス、健康対策をきめ細かく、切れ目なく実施し続けている。
練馬区ほどコンビニや薬局と連携した介護予防、地域の見守りを充実させているまちはあるだろうか。
区政と区民参加・区民協働が見事に実現し、相乗効果をあげているなんとも素敵なまちである。
卓越した区長・前川燿男氏と素晴らしい人間性と高い目標を併せもった職員の方々との並々ならぬ連携が功を奏した形である。 そんな練馬区の前川区長にまちづくりのこと、コロナ対策のことをお聞きした。

みどりの風吹くまち練馬区は、区民と行政が一緒になって、素晴らしい未来を目指し構築しています!

練馬区長・前川燿男氏

練馬区長
前川 燿男   氏

―日本の社会保障制度について前川区長のお考えをお聞かせください。

制度としては、日本の社会保障制度は世界で最もよく出来ていると思います。年金があり、医療制度も皆保険ですし、その他についても厚生労働省が中心になって地域包括ケアシステムをはじめ様々なことを行っていますから、それ自体は良いと思います。

しかしながら問題は、年金も医療も含めて財政力です。日本はバブルの崩壊以来、明らかに経済政策は失敗してきました。その中で膨大な国債を発行して将来に負担を転嫁してきました。つまりそこが根本的な問題ですから、そこに手を打たない限り難しいと思います。今はまだ良いけれども、人口減少がこれほど決定的な影響を与えるとは誰も思っていなかったのです。例えば技術力でカバーできるとか、いろいろ不可能なことを言い続けてきましたが、出来なかったのです。

やはりアメリカの利点は、人口自体も多いけれども、人口が増えています。中国は凄まじい勢いで少子高齢化が進んでいますので、長い目で見ると難しいと思いますが、とにかく規模はケタ違いですから、未だ発展します。日本は資源もなければ何も無い中で、こんなに経済力が落ちてきてしまいました。加えて、出生率の低下が予想をはるかに超える形で深刻化しています。これを巻き返すことは容易なことではありません。国債の残高だけで一千兆円近くに達し、これは本当に恐ろしいことです。つまり、そこを解決しない限りは、社会保障を良くするということはあり得ないと思っています。

実際は沈下するばかりで、基盤がなくなってきているのです。日本の将来は、このまま行くと労働力人口世帯一人で1.3人を支えることになり、無茶苦茶です。そういう時代になったら社会保障も何も言っていられないのです。それが根本的な問題なんですが、歴代の政府は先延ばしにしてきました。例えば、今度のコロナでは全国民に10万円を給付しましたが、その財源は何所にあるのでしょうか?財政力に問題を抱えている状況で、とんでもない話だと思います。

―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展に対する練馬区の取組を教えてください。

国立社会保障・人口問題研究所の人口推計(平成30年)では、練馬区は令和22年(2040年)においても人口増が見込まれる数少ない自治体の一つです。一方、高齢者人口の割合は、令和2年には約16万人で21.7%ですが、令和22年には、約20万人と25.5%にまで増加する見込みとなっています。練馬区の取組としては、施設サービスの中核となる特別養護老人ホームの整備を推進しており、施設数は都内最多です。これを団塊世代の全ての方が後期高齢者となる令和7年に向けて、さらに促進します。また、交流・相談・介護予防の拠点で、気軽に集い、お茶を飲みながら、介護予防について学べる「街かどケアカフェ」を平成28年度から開始したところ、年間で7万人を超える方たちに利用されており、地域の団体や介護事業所と新たに協定を締結し、合計30か所に拡充しました。コンビニ・薬局と連携した出張型「街かどケアカフェ」は、昨年新たに4か所開始し、合計9か所で実施しています。地域包括ケアシステムの中核を担う地域包括支援センターは、区立施設等への移転・増設を進め、全体で27か所体制とし、より身近で利用しやすくしています。他には成年後見制度の利用促進を強化しており、専門職を含めた関係者による検討支援会議を導入し、一人ひとりに合わせた後見人候補者のマッチング機能を強化します。

新たな取組としては、練馬区が保有する医療・健診・介護等データを横断的に活用して、一人ひとりに応じた総合的な支援を行う「高齢者みんな健康プロジェクト」を全国に先駆けて開始します。新たに「高齢者保健指導専門員」を配置、専門員と地域包括支援センターが連携して、糖尿病の重症化予防、フレイル予防訪問相談、ひとり暮らしの高齢者等訪問支援などを行います。他にも、身体機能の低下など自立した生活に不安のある低所得の高齢者向け住まいである「都市型軽費老人ホーム」を今年の5月に開設し、また5年度の開設に向けて1施設の整備にも取り組みます。医療ニーズの高い要介護高齢者を対象に通所、宿泊、訪問介護・看護を組み合わせて在宅生活を支える「看護小規模多機能型居宅介護施設」は、区内に4施設ありますが、新たに2施設を開設します。このように高齢社会への取組は私の公約でもあり、格段に力を入れてきました。

―練馬区で現在取り組まれている地域包括ケアシステムの構築状況についてお聞かせください。

地域包括ケアシステムには、いろいろな条件がありますし、それを支えるためには、例えば施設にしても特別養護老人ホームがちゃんとあって、そこに一つの拠点を置きながら、ケアを行うということです。そして地域の医師会、クリニックとの連携は不可欠で、練馬区は両方とも揃っています。そういう意味で、私は少なくとも都市部における地域包括ケアシステムでは、練馬区は先行している自治体だと思っております。先述の「高齢者みんな健康プロジェクト」を開始しますが、これは高齢者一人ひとりに寄り添おうということですから、まさに地域包括ケアシステムそのものです。

地域包括ケアシステム構築の経緯を申し上げると、地域包括ケアシステムの中核を担う地域包括支援センターをより身近で利用しやすい窓口とするために区立施設への移転、センターの増設、担当職員の見直し等を行ってきました。また、高齢者実態調査の内容等を充実し、地域包括支援センターによる一人暮らし高齢者等への訪問支援体制の強化に活用しています。

医療提供体制の整備としては、これまでの7年間で、区内4つの病院で病床の確保に努めてきました。現在、都への申請中のものを含めると、令和7年4月には2,805床となり、平成26年4月と比べて約1,000床の増床が実現します。また、地域包括ケアシステムの一翼を担う拠点として、在宅医療の担い手となる医師や医療機関を支援する「医療連携・在宅医療サポートセンター」を、練馬区医師会に開設します。地域包括支援センターと密接に連携して、医療と介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らし続けることのできる仕組みづくりを進めてきました。

更に医療と介護が連携した在宅療養ネットワークを構築するため、地域包括支援センターが中心となって、多職種協働による地域ケア会議等を実施するほか、地域の医療・介護事業者等による自主的な事例検討会の立ち上げを支援してきました。また主任ケアマネジャーによる地域同行型研修を実施するなど、ケアマネジャーの育成・支援にも取り組んできました。認知症の方が増えておりますので、認知症高齢者が地域で安心して暮らせるよう、区内に多数の店舗があるコンビニとの連携を進め、コンビニの従業員等を対象に、「N-impro※(ニンプロ)」を活用した認知症対応研修を実施し、地域の見守り体制を強化しています。

N-impro:区の協働プロジェクトで開発された、コンビニ従業員の立場で認知症の方と接するときの対応について考える研修プログラム。

―区民との協働の在り方についてお聞かせください。

平成30年6月に策定した「グランドデザイン構想」において、区民参加と協働のグランドデザインを提示しました。コロナ禍においても、これまで進めてきた協働の取組が成果をあげ、区政最大のパートナーである町会・自治会をはじめ、様々な団体が工夫を凝らして地域の課題に立ち向かってくれております。前述の「街かどケアカフェ」のように、多くの方々を支える実績も備わってきています。ケアラーズカフェ(地域に暮らすケアラー(自宅で家族を介護している人)の居場所づくりや悩み相談、情報共有するためのカフェ)など、区民による交流、互助・共助の関係づくりも広がっています。協働活動の拠点である区民協働交流センターに、区民と団体が情報交換・交流できる場「つながる窓口」を設置し、区民や団体同士の協働を促進してきました。また、つながるカレッジ受講生(地域活動を始めたいと思う人が集い、学びやスキルアップする講座)が「つながる窓口」を通じて、地域の防災活動に参加するなど、町会・自治会をはじめ担い手を求める団体とのマッチングが進んでいます。また、区内では集合住宅の居住者が増加していることから、新たに「集合住宅における加入促進ハンドブック」を町会・自治会と協働で作成し、加入促進を図ります。目下、コロナ禍にありますので、各地域の取組を「コロナ禍における町会・自治会の活動事例集」として取りまとめ、情報を共有します。コロナ禍において情報伝達手段として有効に活用されている協力掲示板については、町会等が建て替える際の補助を充実させています。

―介護の人材不足、在宅看護師不足等、人材が不足していると聞きます。練馬区において、人材は足りているのでしょうか。

福祉分野の労働力不足が叫ばれる中、元気高齢者を地域の担い手として期待する声も上がっています。

区内の高齢者の約8割は要介護認定を受けておりません。前期高齢者に限れば約95%が、いわゆる「元気高齢者」です。区では、地域の元気高齢者が、特別養護老人ホーム等の施設で清掃や洗濯などの軽作業を担う「元気高齢者による介護施設業務補助事業」を実施し、高齢者の地域での活躍を支援しています。また、介護サービスを支える人材の確保、育成を行う「練馬福祉人材育成・研修センター」を4月に設置します。次年度には障害者福祉分野の人材育成を担う他のセンターとの事業統合により、研修カリキュラムの充実を図り、高齢者等の複合化・複雑化した支援ニーズへの対応力を強化します。

―待機児童対策と子育て支援について前川区長のお考えを教えてください。

増加し続ける保育ニーズに対応するため、待機児童ゼロ作戦を展開し、全国トップレベルの保育所定員増を実現してきました。この5年間で5,000人以上拡大し、すでに供給が需要を1,000人以上上回っています。しかしながら、地域における需要と供給のミスマッチなどにより、待機児童は僅かながら発生しています。区では、独自の幼保一元化施設として、11時間の預かり保育を実施している私立幼稚園を「練馬こども園」として認定しています。保護者の就労形態やニーズの多様化に応えるため、「練馬こども園」に3歳未満の子どもの保育や預かり時間を短縮した新たな仕組みを設けます。将来的には、区立幼稚園や保育所についても「練馬こども園」として認定し、練馬区ならではの幼保一元化を目指しております。

更に、練馬区ならではの新しい児童相談体制の強化に取り組んでいます。昨年の7月、都児童相談所と区子ども家庭支援センターの専門職員が協働で児童虐待などに対応する練馬区虐待対応拠点をセンター内に設置しました。また、迅速かつ一貫した児童虐待への対応を更に強化するため、今年度中に新たな取組を開始します。

―練馬区でも健康教室、転倒予防教室等、予防医療の取組をされていると思いますが、どのような取組をされていらっしゃいますか?

それはいろいろ行っております。今回「高齢者みんな健康プロジェクト」を立ち上げたことにより、所謂医療や健康保険等のデータが使えるようになります。高齢者一人ひとりがどういう状況にあるのかが分かるようになり、そこに地域包括ケア支援センターの職員が高齢者一人ひとり、その人にあったサービスを提供していこうと、一人ひとりに着目してやっていこうということです。まさに地域包括ケアシステムと一体です。健康教室で体を動かしたり、食事の話など孤食の方も多いので、地域の中でその方が本当に生き生きと元気で過ごせるようにということで、3年度の目玉事業の一つです。

―昨今、地球規模で大災害が多発しています。練馬区の防災計画について教えてください。

個人的なことを申し上げて大変申し訳ないんですが、私は何故練馬区に住んだかというと23区の中で一番安全な所だったからというのが理由の一つです。地勢的には、武蔵野台地の上にあり大規模河川もなく、23区の中でも災害に強い地域ですが、地震の時の火災が一番気になります。昔と違って、建物が軒並み崩れるというようなことは殆どありませんし、耐震性もかなり上がってきて、防火性も昔より上がってきています。残念なことに木造住宅の密集地域というのは未だあります。

防災についての対策をしっかり練って、計画通り着実に行っています。つい先日も東日本大震災10年を前にして東北で地震が起きましたが、近年は熊本地震や大阪府北部地震、西日本を襲った「平成30年7月豪雨」も発生、首都直下地震や集中豪雨に対する懸念や不安が増大しています。

区では、災害リスクに応じた防災の取組「攻めの防災」を推進しています。密集住宅市街地整備促進事業や建造物の耐震化、河川沿い区域での雨水貯留浸透施設の増設に取り組むなど、災害に強いまちづくりを進めてきました。大阪府北部地震発生後には、直ちに学校施設の危険が判明したブロック塀等の撤去・改修をはじめとする緊急対策にも取り組んでいます。相次ぐ災害の発生を受け、防災への意識が高まっている今、徹底した予防対策に取り組む必要があります。

地震災害への備えとして、避難拠点(避難所機能に加えて災害時の活動拠点)を各小中学校98か所に設置、区民と区の要員が共に訓練を行っています。また避難拠点のうち10か所を「医療救護所」として定めています。軽症者の処置とトリアージを担っており、医師、歯科医師、薬剤師、柔道整復師、看護師が各団体から派遣されます。そういった中で夫々役割を担っていくんだということで、実際に医師会であったり、そのチームの中で〝こういう形でトリアージをしたら良い〟や〝こういう時はどうしましょうか〟等、勉強会も予防のための連携でやり始めたりしています。ご無理のない範囲で訓練も含めてご協力いただいております。

―練馬区の将来ビジョンなどについてもお願いします。

練馬区では、都心に近い利便性を享受しながら、農地や樹林・公園など、多彩なみどりに包まれた暮らしを楽しむことができます。みどりを更に増やし、教育・福祉・医療サービスを充実し、道路や公共交通など都市インフラを整備することで、『ここに練馬区あり』と胸を張れる豊かで美しいまちを、次の世代に引き継ぎたいというのが、私の夢でもあります。区内では、町会・自治会のお祭り、商店会のイベントやまちゼミ(商店街の店主が講師となり、プロならではの専門知識や技術などを伝える講座)、ねりマルシェ(練馬産農産物およびそれを使用した加工品・飲食物などを生産者が販売する即売会)など地域に根差した区民の自発的な活動が行われています。更には、コンビニを認知症高齢者の見守り拠点とする仕組み、みどりの区民会議を通じたみどりの保全・創出の新たな手法、街かどケアカフェなど新たな取組も生まれています。こうした取組を、あらゆる分野に拡げていくことが、練馬区を発展させていくと確信しており、区政を「参加と協働」から「参加から協働へ」と深化させ、練馬ならではの自治の創造へ向けて更に前進したいと考え、グランドデザイン構想を策定し、区民の皆様と共有しています。

―この度の新型コロナウイルス感染拡大に伴い練馬区の対応策等及び「ワクチン接種練馬区モデル」についてもお聞かせください。

全国に先駆けて昨年7月から開始した診療所でのPCR検査や、検体採取センターの運営、在宅医療サポートセンターの設置など、普段から強い信頼関係がある医師会と、一体となってコロナ対策に取り組んできました。更にコロナワクチン接種においては、医師会の協力を得て、個別接種をメインとして、集団接種でカバーする、ベストミックスなワクチン接種体制「練馬区モデル」を先行事例として作り上げるまでに至りました。

「練馬区モデル」とは、〝早くて(接種まで1か月も待たせない、速やかに摂取できる体制を確保)、近くて(近くの診療所で接種可、電車やバスに乗る必要がない、平日忙しければ土日に)、安心です(通いなれた「かかりつけ医」が接種するので安心)〟のコンセプトです。

いま練馬区の人口は約74万人、そのうち高齢者は約16万人で、約65%の接種を見込んでいます。接種期間は、高齢者の方は最初の6週間(3週間×2回)、ファイザー社製のワクチンを想定しています。つまり、個別接種と集団接種のベストミックスにより短期間で接種を完了します。診療所での接種体制は、練馬区医師会の協力により構築しています。

こういったことがいち早く出来るのも医師会との連携がしっかりしていることと職員が一丸となっていろいろ努力してくれている成果であると思います。

前川燿男(まえかわあきお)区長プロフィール

生年月日:昭和20年11月12日生
略歴:昭和39年鹿児島県立甲南高校卒業
昭和45年東京大学法学部卒業
昭和46年東京都入都
平成12年東京都福祉局長
平成14年東京都知事本局長
平成17年東京都退職
平成17年東京ガス株式会社執行役員
平成21年政策研究大学院大学客員教授
平成26年練馬区長(1期目)
平成30年練馬区長(2期目)
区長任期:平成30年4月20日から令和4年4月19日
趣味:ジョギング、登山、謡・仕舞、読書

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