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ビッグインタビュー 【新・柔整考④】 業界内外の声をお聞きする!

新・柔整考 特集

たとえ、どんなに柔道整復師が良い施術を行っても、学問的な裏付けがなければ社会は認めてくれません。しっかりとした学問の裏付けがあってこそ認められます。 3年前に日本柔道整復接骨医学会の会長に就任された安田秀喜氏は超音波の第一人者であり、外科医としてもトップの方である。学会の在り方や意義について話して頂いた。

柔道整復接骨医学会は日本学術会議の第7部に入っており、柔道整復師は学問的にもしっかり認められているのです!!
~柔道整復師がこれまで以上に揺るぎない医療職になるために~

(一社)日本柔道整復接骨医学会会長・安田秀喜氏
(一社)日本柔道整復接骨医学会 会長 安田秀喜氏

―日本柔道整復接骨医学会の会長に就任され二期目に入られましたが、これまでどのようなことを行われましたか?

2020年7月に「日本柔道整復接骨医学会の会長に推挙されました」と言われました。元々私は外科医であって柔道整復師ではないので、「何を一番望まれますか」と皆さんに聞いたところ、「柔道整復師が超音波を使えるように出来ないでしょうか?」との声が多くありました。これまでは柔道整復師は超音波を使えなかったのです。2003年4月に、日本柔道整復接骨医学会が日本学術会議のメンバーとして、自然科学部門第7部「予防医学・身体機能回復医学の分野」に団体登録が認められたということは、それだけ学問的に認められているということであります。しかも学術会議の7部といえば、医学部、薬学部、および医療関係が団体登録されています。私は外科でしたから、学術会議の7部に入るのは如何に難しいかということを理解しています。帝京大学外科在任中に日本腹部救急医学会等の学会幹事時代に、学術会議の第7部に入ろうとしましたが、中々ハードルが高く苦労致しました。第7部はそういうところであるにも関わらず、日本柔道整復接骨医学会はすでに第7部に登録されていました。それぐらい学問的に認められているのです。

ただし、私が会長を依頼された当時は日本柔道整復接骨医学会には倫理委員会や利益相反委員会がありませんでした。私が会長就任した時に、直ちに倫理委員会と利益相反委員会を作りました。従って、必ず学会発表の時にはスライドに「利益相反なし」と記載すること、論文では最後に「利益相反なし」という文言を明記する事を義務づけました。もう1つ、「今後、超音波検査を使えることを前提として教育集会や学術集会を日本超音波医学会と一緒にやりませんか?」と書面で申し込みました。しかしながら日本超音波医学会からの正式な回答は、「我々は関与しませんから、どうぞ貴学会でやってください」というものでした。

実は、私がなぜ超音波のことを一生懸命やっているかというと、1975年にLevisらが急性虫垂炎の診断で切除された1,000例のうち正常な虫垂であった頻度が20.1%であったことを報告しました(Levis et al:Arch.Surg.110:677,1975)。この頻度を低くする手段として、超音波を活用すれば改善できるという原著論文「急性虫垂炎の超音波検査の臨床的検討―とくに、計量診断との対比検討を中心に―」(安田:日本臨床外科医学会雑誌44.1055,1982)を報告しました。つまり、超音波検査が虫垂炎の診断に非常に有用であるということを報告したのです。急性炎症で腫大した虫垂を超音波で観察することが可能で、短径が10ミリまでであれば手術しないで抗生物質で治癒できますが、10ミリ以上あるいは虫垂周囲に液体を認めた場合には手術が必要であると報告しました。 私の東京女子医科大学消化器病センター外科時代の専門分野は、閉塞性黄疸です。原因が肝炎なのか、膵臓癌、胆管癌、肝臓癌なのかという診断を超音波検査で行い、超音波ガイドで減黄術(胆管ドレナージ:PTCD)を行っていました。その後、帝京大学外科では腹痛、吐血、下血、胆管炎、腹膜炎などの腹部救急疾患が多く、手術方針決定に超音波検査が極めて有用でした。現在も、私は日本超音波医学会の指導医であり専門医です。

―先日、日本柔道整復師会の会長に就任された長尾会長は、柔道整復業界のガバナンスとコンプライアンスの徹底及びチェックシステムを構築していくと話されていますが、安田会長はこれに関してどのようにお考えでしょうか?

考えは一緒です。私は千葉県社会保険診療報酬支払基金に17年勤務し、永年勤続表彰を受けています。やはり、保険で超音波検査を取り扱うにあたり、現段階では柔道整復師全員が扱うようになってしまうのは、まだ無理があります。先述しましたように倫理委員会および利益相反委員会をキチッと理解し、柔整師の目標が正しく理解できる人材でなければ超音波観察装置は使用出来ないようにするのが良いと考えています。そのためにも当学会の認定制度を活用すべきです。超音波検査を保険で取扱いが出来るようになるのは、認定制度の上位組織として専門柔道整復師を作った方が良いのではないかと考えています。その専門柔道整復師が超音波観察装置を取り扱いながら、専科教員というようなスタイルで認定柔道整復師を育成し、専門知識や技術を向上する事が必要です。すなわち一般柔道整復師、認定柔道整復師、さらに専門柔道整復師と階層化することが重要です。専門柔道整復師が超音波観察装置を自由に使えるのは、倫理や道義等を全て理解した人でなければなりません。その人達が認定柔道整復師を一生懸命育てていくというのが良いのではないかということです。当学会が学術会議の7部に入っているということは物凄いことなのです。第7部は日本外科学会、日本内科学会、日本超音波医学会等々の医学系・医療系学会が入っていますが、其処で認定・専門制度を確立している訳です。

―いま、認定柔道整復師はどの位いらっしゃいますか?認定柔道整復師の資格を取得するにはどのような仕組みになっているのでしょうか?また認定柔道整復師の資格を取得するとどのようなメリットがあるのでしょうか?

現在の会員数は4,187名で、認定柔道整復師数は365名で、1割未満です。その位の人数が指導しやすいと思います。メリットは、先述しましたように超音波観察装置を自在に使えるということです。もう1つは、認定柔道整復師の上位に専門柔道整復師を制度化することを考えています。認定柔道整復師になるための取得の条件は、本医学会に入会後3年間在籍し、所定した単位を30単位以上取得しなければなりません。有効期限は、資格取得後5年間です。更新の条件は、更新時、認定期間(5年間)内に所定した単位を30単位以上取得した者となっています。詳しくは当学会のHPをご覧ください。

どの学会でも活発に活動する評議員がおり、評議員は大体1割程です。その評議員が認定柔道整復師になれば、超音波検査に加えて骨折や特殊な技術を教えることが可能です。超音波等を全部点数制にして、専門の柔道整復師制度を当学会で作らなければなりません。今後は、当学会がキチンと体系を作り、それをお互いがフィードバックするという仕組みを構築していきたいと考えております。

―八王子スポーツ整形外科の小林尚史先生にインタビューさせていただいたところ、〝結局整形外科医が出来ることは壊れたところを手術で治す、注射をするといったことに加え治療の組み立てや、セラピストが行っている治療を管理することで、それは重要なことと考えています〟と話され、また昨年の柔道整復接骨医学会の特別講演で小林先生は、〝90%くらいは、何も壊れていないけど痛くて病院に来ている人です。それをどうするかを考えたほうが世の中のためになる〟等、述べられていました。安田会長はリハビリ等についてどのようなお考えでしょうか?

やはり、リハビリも本当にリハビリが必要な人と心のリハビリが必要な人が居る訳です。小林先生が述べられていることは、実は心のリハビリのほうが多いということです。本当は、病院に来なくても良いのですが、医者に話を聞いてほしいとして患者さんは来院されます。その時に対応をキチンとやってあげなければなりません。しかし、整形外科の先生の中には、正しく理解して対応される医師もおられますが、もう受診する必要がないという医師もおられます。受診の必要がないと言われた人たちが接骨院に来て診て欲しいとなるのです。やはり、それは柔道整復師のもう一つの大事な仕事になります。

大きな病院の待合室で、〝今日は、あの人来ていないけど病気なのかしら?〟という話をよく聞きますよね(笑)。あれと同じで、本来はもう来る必要は無いけれども、主治医と会って話を聞いてもらうこと自体が治療になっているのです。また大きな病院で3時間待って診療は3分と言いますが、なぜ3時間も待っているのかというと、その先生とお話をしてホッとする、つまり心の治療を希望しているのです。従って本当のリハビリを行っている人というのはそんなに居ません。そういう事もあるので、私は整形外科の先生と一緒に仕事を行う事が一番良いのではないかと思っています。ただ整形外科の上層部の人は難しいのです。昔、おふれみたいなものが出ましたが、何故そんなものを出すのか理解に苦しみます。そういう考えのご老人が段々と減ってきますし、若い人が出てくれば、今のような話はもう過去の話になるのではないかと私は思っています。対立は解消すべきです。もっとうまく柔道整復師を教育指導されて利用してくださるのが良いと思います。

―また、やはり昨年の接骨医学会で帝京大学医学部の整形外科学講座教授の中川匠氏が、運動療法は痛み止めと同等の効果があると話されました。安田会長のご意見を聞かせてください。

まさに、その通りです。先述しましたけれども、心の病気なので、薬を使ってもよくならない。ストレスをなくすような施術や、運動療法を行えば殆ど良くなります。従って、本来は両方でやらなければいけませんが、整形外科の先生のなかには柔道整復師は自分たちの敵であると、患者さんを取ってしまうと感じている方もおられます。ちょっと行き過ぎではないかと思います。半数以上がそういう治療をすれば治るのです。当学会の会員がそれに気が付いて、学会に今どんどん投稿されています。

―ロボット手術についても教えてください。

ロボット手術の始まりは内視鏡下外科手術です。内視鏡下外科手術とは、経皮的に腹部や胸部に直径10㎜の小さな穴を数か所開けて、この穴から内視鏡(腹腔鏡、胸腔鏡など)を挿入し、腔内の様子をテレビ画面で観察しながら手術器具を操作する手術です。

具体的には、胆嚢摘出術は1882年にLangenbuchが開腹手術による胆嚢摘出術を世界で初めて行いましたが、1987年にMouretが腹腔鏡下胆嚢摘出術を世界で最初に施行しました。1990年帝京大学溝口病院外科の山川達郎教授が本邦で最初の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行いました。内視鏡下外科手術は、開腹手術と比較して手術創(傷口)が小さいこと、手術後の痛みが少ないこと、術後の回復が早いこと、入院期間が短いことなど優れた点が多い低侵襲手術ですが、デメリットもあります。腔内は三次元ですが、挿入された手術器具の操作は二次元映像のモニターを見ながら長時間立ちっぱなしで行うこと、術者の手の動きとモニターの動きが逆になることなど、術者にはかなりストレスになります。また、腹腔鏡の操作は手術助手が行いますが、手術時間が長時間になると手振れや疲労が手術助手のストレスになります。

この内視鏡下手術のデメリットを克服するために開発されたのが手術支援ロボットです。術者は航空機の操縦室(コクピット)のような操作ボックスに座り、三次元画像を見ながらロボットのアームを遠隔で操作する手術です。手術支援ロボットは、情報通信機器を用いることで術者が遠隔地にいる患者に対してリアルタイムに手術操作を行う事が可能となります(日本外科学会遠隔手術実施推進委員会編 遠隔手術ガイドライン、2022年6月22日公開)。このガイドラインでは、遠隔手術を、①遠隔手術指導(責任者:現地医師)、②遠隔手術支援(責任者:現地医師)、③完全遠隔手術(責任者:遠隔医師)の3種類に分類しています。  2001年9月に手術支援ロボットを用いた世界初の遠隔手術として、ニューヨーク(アメリカ)にいる術者がストラスブルグ(フランス)にいる68歳女性患者との間で、電話回線を使用した腹腔鏡下胆嚢摘出術がMarescauxによりOeration Lindberghとして行われ成功しました(Marescaux, Nature 413:379-380,2001)。

ちなみにMarescauxが行った臨床試験の2日後に9.11世界同時多発テロ事件が起こったので、臨床応用としての大陸間での遠隔手術は以降おこなわれていません(家入里志:生体医工学.49:673,2011)。しかしながら、遠隔支援ロボット手術実証実験として、東京―静岡、福岡―ソウル、福岡-バンコックなどが実施され、実用化を目指して研究が進んでいます。この技術が実用化されれば、Space surgeryとしては大変大きな意義があります。宇宙進出のベースキャンプを月面に構築し人類が月面で定住することになれば、緊急手術が必要な事態になったときに安心して遠隔手術を受けることができます。5G技術により高品質映像伝送技術の発達により遠隔手術がますます実用化されることが望まれます。現在、アメリカ、ロシア、日本、インド、中国も月面探査に興味を示し、月面にベースキャンプ構築することを目指しています。

―最後に今年の接骨医学会のご案内等お願いします。

今年の第32回日本柔道整復接骨医学会学術大会のメインテーマは、「臨床と学術の融合 ~Head,Neck & Trunk ver.~」で、12月2日・3日に名城大学天白キャンパスで開催予定です。中でも昭和大学の豊根知明氏が「首下がり、腰曲がり、そして難治性の痛み:そのメカニズムと治療」と題し、リアル・オンデマンドで特別講演を行います。また公益社団法人全国柔道整復学校協会と共同開催で「柔道整復師養成教育の到達目標と国家試験出題基準」と題したシンポジウム、これもリアル・オンデマンドで開催予定です。しかも今回は、参加する学生は全員無料です。柔道整復師の専門学校及び大学の生徒さんも無料にして、出来るだけこうした有意義な学会に参加して頂きたいというのが一番のトピックスです。

安田秀喜氏 プロフィール

学歴・職歴

  • 昭和49年金沢大学医学部卒業。同年、医師免許取得。
  • 昭和57年4月医学博士取得。
  • 昭和49年4月東京女子医科大学消化器外科医療練士入局。
  • 昭和56年8月帝京大学医学部第1外科助手。
  • 昭和57年10月帝京大学医学部第1外科講師。
  • 平成3年9月帝京大学医学部第1外科助教授。
  • 平成16年7月帝京大学医学部市原病院外科(現:帝京大学ちば総合医療センター)教授。
  • 平成20年4月帝京大学ちば総合医療センター外科化学療法センター長(兼任)。
  • 平成23年1月帝京大学ちば総合医療センター副院長(兼任)。
  • 平成25年4月帝京平成大学地域医療学部学部長・地域医療学部柔道整復学科学科長・教授。
  • 平成29年4月帝京平成大学健康医療スポーツ学部学部長・健康医療スポーツ学部柔道整復学科学科長・教授(地域医療学部から学部名変更)。
  • 令和4年4月帝京平成大学健康医療スポーツ学部柔道整復学科(千葉キャンパス)学科長・教授(現在に至る)。
  • 令和5年4月帝京大学医療技術学部柔道整復学科(宇都宮キャンパス)学科長・教授(現在に至る)。

所属学会

日本外科学会、日本肝胆膵外科学会、日本柔道整復接骨医学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会、日本超音波医学会、日本腹部救急医学会、日本臨床外科学会、日本膵臓学会、日本胆道学会

社会活動

平成17年6月、社会保険診療報酬支払基金:千葉県社会保険診療報酬請求審査委員会委員(令和4年5月まで)。平成22年11月、日本医師会認定産業医(第100164号:現在に至る)。平成23年4月、公益財団法人中山がん研究所理事(令和2年3月まで)。

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