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スペシャルインタビュー:東京海洋大学学術研究院教授博士(医学) 千足耕一 氏

インタビュー 特集

東京海洋大学学術研究院の千足教授は、これまで幅広い活動を展開し、自身の学問研究を続ける一方で、学生の論文指導等で縁の下の力持ち的役割をずっと担われてきた方である。またスポーツ分野を研究する人達にとって道標となる方であり、博士(医学)でもある千足教授は、多くの医療関係者に、医学的見地から指導して頂けるキーパーソンでもある。
千足教授に多くのことを教えて頂いた。

スポーツを通じて学び、その価値や可能性に気づく

東京海洋大学
学術研究院教授
博士(医学)
千足 耕一 氏

―はじめに、千足教授は東京海洋大学学術研究院の海洋政策文化学部門で、マリンスポーツ実習、スポーツⅠ・Ⅱ、プール実習(集中)、海洋性レクリエーション論、健康・スポーツ科学演習、海洋政策文化入門(オムニバス)、海洋政策文化セミナー、卒業論文、海洋スポーツ科学(大学院博士前期課程)、身体適応学特論(大学院博士後期課程)を担当されていらっしゃいます。幅広い分野を担当されていらっしゃいますが、これまでの経緯について教えてください。

私も専修大学教授・佐竹先生と同じ筑波大学体育専門学群出身で、佐竹先生は先輩です。筑波大学では海で泳ぐ授業があり、佐竹先輩は非常勤講師でいらっしゃっておりましたので、結構お目にかかる機会がありました。私の学生時代には、高齢社会のことも言われていましたが、〝これからは少子化なので大学がどんどん潰れていく時代だ〟としきりに言われておりました。僕は大学院では、アウトドアの活動をしておりまして、セーリングをしたり、スキーをしたり、海に潜る等を主としてやっておりました。

その頃のアウトドアスポーツというのは、観光事業に伴って発展していくことになる訳ですが、まだ学問的な研究をやっていらっしゃる人は、あまり居なかったこともあり、取り組んでみる価値があるかもしれないということで、この道に進みました。私たちが入学した頃まで、筑波大学は、スポーツの授業を4年間必修ということで熱心に行っていました。大学院を卒業して、筑波大学の体育センターで、体育専門学群以外に医学部とか工学部や人文学部等他の学部の一般学生、スポーツを教える職場に入りました。一応、文部技官という官職で、准研究員ということで研究しながら教えるスキルを身につけて研究の下支えみたいな、雑用も全部やりながら働くような職場でした。同じような年代の先生方がいっぱいいらっしゃって毎年2、3人ずつくらい入れ替わる期限付きの職場でした。そこで4年間位過ごして、十文字学園という女子大学に、助教授になるまでの約5年間勤務しました。

たまたま35才の時に先輩から〝鹿児島にある国立大学の鹿屋体育大学で海洋スポーツの教員を募集することになったから来る気はありますか〟と誘われて、日本で海洋スポーツを専門的にやっているというのは、鹿屋体育大学しかほとんどありませんでしたので、其の教員にさせてくれるというので喜んで行きました。其処には7年位勤務しました。その後は、東京海洋大学の非常勤講師を十文字学園時代から夏の集中授業でずっとお手伝いをしていた関係で僕の上司だった佐野教授からお声がけいただき、海洋政策文化学科に赴任した次第です。

―千足教授は、博士(医学)でもあられますが、医学論文の内容やその後の研究内容についてお聞かせください。

筑波大学に居た時にも勿論勉強しなければいけなかったんですが、十文字学園に居た時にやはり勉強をもっとしなければ、まだ勉強が足りないと思っていたところ、可愛がってくださっていた先生に〝勉強したいなら紹介してあげるよ〟ということで、東邦大学医学部の海老根東雄先生を紹介して頂きました。

外部の研究員というかたちで、小田原循環器病院のリハビリ室に行って、現場を見ながら勉強をして論文を書くことになりました。十文字時代は、週に1回土曜日は小田原に行って現場のリハビリ室の仕事をお手伝いしたり、勉強をしていました。そのリハビリ室では理学療法士の方と看護師の方達がリハを行っていました。基本的には血圧を測ったり、心拍数をモニタリングしたり、軽い運動をしてから異常が無いかを確かめたり、運動の前と運動の後でモニタリングをする等、行っていました。また急性期の治療が終わった後に、リハビリを続けている人のほうが様々な効果が長続きするのではないかとして、それについて長期間のカルテから調査を行う、基本的には定期的に採血したりといったデータがいろいろ残っていますので、時系列的でどのようになっているのかを調べていきました。

他には、どれくらいリハビリにちゃんといらっしゃっていたかを調べて、生命予後や再入院率など、いろいろありますが、キチンとやっている人と何らかの理由で、仕事が忙しくなったりして来られなくなったとか、元々運動が好きではないので止めてしまった人は、どういう風に差が出るのかということをデータで示すというのが主たる目的でした。僕の研究は、後ろにふりかえり遡る疫学的な研究でした。本来は前向き研究というか、前もって計画を立てて長い目で見ていくような研究をしたほうが説得力があると思います。今はもう心臓の手術した後に運動療法を行うのは当たり前ですが、未だ当時は、早く始めるということをやっていなかった時代に、その病院では始めていたということであり、きちんと積み重ねたデータがあったということです。つまり、今はどこでもやっていることですが、その取り組みが早かったということに意義があるということでした。早くに始めた仕事をキチッと振り返って纏めることが非常に大事だと、教えてくれた先生が小田原循環器病院の露木和夫先生です。

―東京海洋大学の理念などについても教えてください。

東京海洋大学の理念は、〝人類社会の持続的発展に資するため、海洋を巡る学問及び科学技術に関わる基礎的・応用的研究を行う〟ということであります。大学の人材養成とその目標については、我が国が海洋立国として発展し、国際貢献の一翼を担っていくためには、国内唯一の海洋系大学である東京海洋大学が、「海を知り、海を守り、海を利用する」ための教育研究の中心拠点となって、その使命を果たす必要があります。

このような基本的観点に立ち、本学は、研究者を含む高度専門職業人養成を核として、海洋に関する総合的教育研究を行い、

  1. 海洋に対する科学的認識を深化させ、自然環境の望ましい活用方策を提示し実践する能力
  2. 論理的思考能力、適切な判断力、社会に対する責任感をもって行動する能力
  3. 現代社会の大局化した諸課題について理解・認識し、対応出来る実践的指導力
  4. 豊かな人間性、幅広い教養、深い専門的知識・技術による課題探求、問題解決能力
  5. 国際交流の基盤となる幅広い視野・能力と文化的素養

それらを有する人材を育成するとしております。そして、私が所属する海洋生命科学部・海洋政策文化学科は、海洋をめぐる社会科学的、人文科学的諸問題に関して総合的に教育・研究を行っており、海洋の保全と人間生活の豊かさを両立させることが目標です。経済、法律、社会、国際関係、スポーツ、言語、文学、歴史、文化、倫理、教育など多方面からアプローチしております。

―今後の課題や目標なども教えてください。

僕の研究室に学びに来てくれる学生がおりますので、テーマを見つけて一緒に研究をしていくことで、後進を育てていきたいと考えております。今後はどちらかというと、社会人の方が博士課程に結構学びに来てくれますので、そういう方のお手伝いをしたいというか、育成というのはおこがましいんですが、論文作成のお手伝いをしていきたいと思っています。現在も柔整の若い方が博士課程にいらっしゃって、お父さんが柔整師で、息子さんもそうで、お父さんの接骨院で働きながら勉強に来ています。そういう人達のお手伝いが出来たらと思っています。

我々もそうですが、どうしても日常の業務等に追われることが多いと思うんです。しかし、それだけにとどまらないで、やはり広く世の中を見るとか先端的なことをやっている人に学ぶとか、上手な人に教えて頂く等、そういうことが大事であると思います。そうやって勉強している内に、もっともっと凄い人に出会ったり、滅多にない良い機会に出会ったりします。柔道整復の方、臨床現場にいる方が、博士課程に学びに来るということは、やはりこうなったらこうなるというのを身体では分かっていても、それをキチンとデータにするとか、説明出来る論拠を示していかなければ、残っていけないということを考えていらっしゃるからだと思います。勿論、上手い下手等はあると思いますし、こういう症例に対してはこういうやり方で治すなど、いろいろあると思います。自分だけでやっていると、結局伝承されないで終わってしまうようなこともあったりするのではないかと思います。従って、技術的なことを残そうと思った時にキチンと文書にして残し、データに残しておける等、そういったことをしていかないとダメなんだろうと思います。医学はそうやって進歩し続けています。

僕も勉強不足で分からない用語等があれば調べますし、やはり専門用語等については、理解して共通言語として用いる必要があります。柔道整復師の方達は、組織としての職能団体がありますが、医療職種としての柔道整復師を守っていかなければなりませんし、しかも法的な根拠もみていかななければなりません。そういったことで、いろいろやらなければならないことは沢山ありますが、自分達を高めていくことが非常に大切であり、それについては、自らが探し求めて学んで高めていく機会を持つことが大事です。そのことに気づいた人はそれで一歩踏み出すことが出来ます。どちらかというとスポーツ整復療法学会は、そんなに敷居が高くないので、小さな学会ですけど、目を向けてもらえるように、スポーツとの関わりの中でやっていけるようにと思っています。僕らはよそ者なので、柔整師の方が勉強して、そして学術に目をむけて、自分達の手技を残し高めていってくれると良いですね。僕は今、論文を受け取って他の方々に査読してもらうプロセスをやり始めて、研究誌の編集の仕事を担当しており、そういうお手伝いが出来ると良いと思っております。

―マリンスポーツは、相当多くの競技種目があるように思います。もっともっと多くの人がマリンスポーツを知って体験することが重要と思いますが、その魅力などについても聞かせてください。

マリンスポーツといってもいろいろなものがあって、大きく分けると海でやる競技、その中にも船を漕ぐやセーリング、ヨットも凄く種目があってオリンピックだけでも10種目位あります。また夫々の個別の種目には元選手だった人がコーチに来ています。練習場については、ヨットハーバーに通って練習している人もいますし、セールだけではなくボート競技だとかレーシングカヌー等は、例えば戸田のボート場に稽古のために住みついてやっている人もおりますが、海の近くに家を建てて住んでいる人もいます。勿論学生もいますが、社会人の方もおられます。他には企業がサポートして選手を抱えてやっているところもあります。ただマリンスポーツの競技団体を統括する団体はありません。つまり、最終的には日本スポーツ協会にまとまっていく訳ですが、水の競技種目だけまとめるというのは、特にありません。

笹川財団は、スポーツ振興や普及活動にお金を使われてきました。やはりトップアスリートの人達を支えるために笹川財団だけではなく、今ヤマハもやっておりますし、いろんな企業が協賛するなどアスリートの支援を始めております。 オリンピック会場については、やはり夫々に適した会場というのがありますので、いろいろ分かれると思います。海系では、ボート競技、カヌー、カヌーには激流を下るようなスラロームもあります。あとはセーリングです。水系でいうと水泳も勿論入るんですが、オープンウォータースイミングといって海で泳ぐようなものもあります。

―今年からオリンピック種目にサーフィンも入ったそうですね!

今度はサーフィンもオリンピック種目に入りました。波を見極めて良い波に乗るというのも能力の1つです。遠くにある波を見極める、その波がどういう風に崩れていくかというのを何回もやっていると分かりますから、自分がどういう風な演技が出来るのか、自分の技術力を最大限出すということです。サーフィンというのは、とにかく凄いんです。限られた時間の中に来る波の中で戦うみたいなところがありますので、そういう中で自分の力や技を出し切れたか如何かであり、それは確かに運もあるでしょう。ただし運も味方にしないと勝てない、そういうスポーツだと思います。〝同じ波は二度と来ない〟と言いますように、やはりいつも楽しいんだと思います。

サーフィンを上手になるには、バランスも必要です。テイクオフする時に漕いで乗らなければいけないので、その上手さとか、乗り終えた後には波に向かって沖に出ていかなければならない。流れをみて、上手に自分の波を捕まえにいくための場所につく、波に乗るために自分の息が上がっているとダメなので、最適な状況で乗れるように身体能力も求められると思います。日本には良い波が立つ場所が結構ありますので、日本人も活躍できる素地はいっぱいあります。本当に良い波が来るところがあるので、そういう海に行っている人が多いと思いますが、千葉や宮崎など素晴らしい場所がいっぱいあります。

―2018年10月20日に東京海洋大学品川キャンパスで開催された第20回日本スポーツ整復療法学会で、東京大学名誉教授で鹿屋体育大学前学長・福永哲夫先生による特別講演の司会進行を務められていらっしゃいました。その福永先生に本誌第145号でインタビューさせていただき、転倒予防に対しては〝すり足になってくるともう典型的な転倒のパターンです。やはり、太股の筋肉が大事です。転倒予防にはスクワットなどの股関節周りの筋肉を鍛える(貯筋運動)しかないと思います〟や、また貯筋運動を行うことで軽度の認知症が改善された事例について〝筋肉がついたということは、脳を使ったということなんです。筋肉を貯筋出来たということは脳も神経もよく働くようになった、その結果であるということです。杖をつかずに歩けるようになったということは、貯筋で筋肉も力もついて脳もしっかり動いているという証明です。脳を鍛えるには運動しかないという論文がありますが、間違いなく脳内の神経伝達物質がいっぱい増えるのです〟と仰られています。千足教授はこれらについてどのようにお考えでしょうか。

僕は医学には、あまり造詣が深くはありませんが、福永先生は本当に凄い研究をされてきた方なので、やはりデータをしっかり取られて、それに基づいてお話をされる先生ですので、重みが違います。「貯筋」という言葉も鹿屋大学で学長を務めていらした時に地域の方を集めて、そのテーマでの公開講座を開いておられました。軽度の認知症が改善されたという事例に関しては、そういう可能性が運動の効果としてあるのでしょう。所謂軽度の運動や筋トレが、良い影響を及ぼすという論文がかなり多く出されております。本を読んで脳トレを行うや、思考力を鍛えるなど、様々な鍛え方があると思いますが、運動によって影響を及ぼす効果は確実にあると思いますし、運動が大事だと分かって、運動に取り組む人がかなり増えてきていると思います。

しかしながら、どうしても日常の業務や雑事に追われて出来ないこともありますし、本当は歩かなければいけないところを、ついつい車に乗ったり、タクシーに乗ってしまうなど、そういうことは多分にあると思います。そういう忙しい毎日でも自分で運動する時間をキチッと作っていくことが大切です。やはり僕なども忙しくて出来ない時もありますが、トライアスロンを走りきろうと思ったら、例えば1日30分位は走ると良いということで目標を設定して、歩いたり、走ったり、トレーニングをしたりしています(笑)。

―一般人が運動をやるようになるためのきっかけづくりというのは何かありますか?

つまり、スポーツの価値に気づかないとダメだと思います。スポーツの良い側面ばかりではなく、スポーツには様々な側面があります。怪我をするという側面がありますし、人間関係が必ずしも素晴らしいものだけとは限らないということもあったりします。度々新聞やテレビでも取り上げられるスポーツ指導者の不適切な指導等、いろいろな問題もあったりしますので、そういう様々な側面に目を向ける必要もあるでしょう。環境を整えて良い指導者を育てていく、そういうことも少しずつやっていくべきだと思います。何にしてもそうですが、力をもつと権力を振りかざしたり、そういうことが出てきてしまう世の中ですから、人のふりを見て、自分の姿勢を正していくべきでしょう。

―体育会系的な風潮はやはりまだ根強くあるということでしょうか?

まだまだあると思いますし、少なくなっているとは思いますが、まだ軍隊式な方々というのはいらっしゃると思います。やはり根性論というのも未だ根強くあるように思います。ただ、そういった指導をして欲しい人ももしかしたら居るのかもしれません。勿論そういうことでイヤになった人もいらっしゃると思いますし、またコーチや指導者との相性もあります。

しかし今は、参加する人が選べる、イエス・ノーをハッキリ言える時代です。完全に払拭できているのかということはちょっと分かりません。密室の中でのことであったり、法律の話にもなります。ただ本当に強くなろうと思ったら、ある一定の厳しさがどうしても必要になってきます。そこはむやみに厳しいのではなく、頑張らせるための激励もしないといけませんし、〝いいよいいよそんなにやらなくても〟というような指導の仕方ではとどうしても立ち行かなくなる部分が出てきます。やはり、ある意味の厳しさというのは、殴るのではなく、厳しい姿勢や厳しい言葉掛けは、必要であると思います。

本人が強くなりたい、或いはいろいろ学びたい、深く自分を知っていくためには、どうしても自分の限界を少し超えるところまでのトレーニングをやらないと次へと段階がアップしていかないので、其処に至る時に押してあげる、〝貴方ならここら辺まではやれる〟というのをキチンと伝えてあげることが指導者の責任です。しかも指導者は伸びるためとか、当たり前のことを当たり前にやれるように、スポーツは〝相手を大事にしないといけない〟や〝相手に失礼のないようにふるまってやっていく〟のが、スポーツを理解したスポーツに対する真の考え方だろうというのを教えてあげないとなりません。自分が勝ちたいばかりが先に立ってしまうような、自分が勝ちさえすれば良いといった態度を育てていくと一体何のためにスポーツをしているのかが分からなくなります。間違っている時は間違っていると教えてあげなければダメだと思いますし、そういうことも指導者の責任です。つまり、厳しさというのは、ある程度必要だと思います。そういう意味で一定のモラル教育も必要です。

私は今アンチ・ドーピングの活動に関わっておりまして、アンチ・ドーピングの考え方というもの、薬物等に頼らない考え方をつくっていく、或いは、そういうことを知らずに、うっかり飲んでしまったということにならないための知識をしっかり獲得することで、分からないものには手を出さない等、そういう意識をキチンと根づかせていかなければいけません。本当に知らないで飲んだという選手がいたとすれば、それはコーチがアンチ・ドーピングの知識をしっかり教えていないからです。とにかく今のスポーツ選手は大変です。ドーピング検査はあるし、メディアの対応もしなければならないし、栄養学も、自分が速くなるや強くなるだけではなく、その周辺部分も今はちゃんと勉強をして知っていなければいけない時代です。スポーツを極めようという人達は、そういうところがどうしても求められています。

―千足教授は柔道整復師の今後の役割や日本スポーツ整復療法学会はどうあるべきとお考えでしょうか?

私は今、日本スポーツ整復療法学会の理事をやらせて頂いているのですが、臨床現場の先生達とお会い出来る機会は、あまり無いので、私たちも大変勉強になります。 柔道整復師の方達が現在行われているトレーナー活動は、スポーツをしている人を支えるという大きな役割があると思います。また、柔整にかかる人というのは、基本的に何所かが痛い、怪我をしたとか、そういう方々が整骨院に行く訳で、どちらかというと対症療法というか、患者さんは痛いから施術してもらって楽になって帰る、そういう役割であると思いますが、そういった怪我をしたり、痛めたりしないような身体の使い方、或いは、トレーニング方法について分かりやすく指導していってくれるような、例えば学校教育に入っていったり、身体の構造や使い方、それらを僕らは高校や大学へ行ってから学ぶ訳ですけれども、もっと若い頃に、小学校や中学校の時に学ぶことは、かなり大事であると考えております。歩き方や、姿勢や呼吸法について、身体に対する考え方等を学校で教えていってもらいたいと僕は思っています。自分達が身に付けた職能を社会に還元するといいますか、お役に立つようにしていくようなことが出来るといいでしょうね。しかし自分達がお仕事で生活を成り立たせる、其処が先ず第一で、その次に自分の出来ること、自分の得意なことを行って社会や地域に役に立っていくことはとても良いことで素晴らしいと思います。

―学会に入らない方がすごく多いとお聞きしておりますが、どのようにすれば学会入会者が増えるとお考えでしょうか。

やはり学会は会費も払わなければいけませんし、費用対効果を皆さん考えられるんだと思います。ただし学会を運営していくためには無料では成り立ちませんので、ある程度相応に会員が負担していかなければいけないのでしょう。大会に参加するとか、地方の勉強会、そういう所に行って、勉強になれば入っていただけるのかなと思っています。従って、〝ためになった〟とか〝面白い〟〝来て良かった〟と言っていただけるような勉強会或いは学術大会を行って、其処で繋がった人となにがしかの刺激をもらって活力になる、そういう会にならないといけないのだろうと思います。僕らはある程度、停滞気味だったり右肩下がりなところを引き継いできていますので、少しでも意義があると思ってくれる人が、キチッと来てくれるような、意義のある会を開くことが出来るように、先ずは其処をキチッとしていくことが大事です。学会は、誰のものでもないので私物化しないように、しっかり運営して、来てくれる方達が気持よく来ていただけるような学会にしなければいけないと思います。学会を主催する方も凄く大変なので、是非その方達にも報いるためにも良い学会にしたいと考えています。

―「2020東京オリンピック・パラリンピック」への期待について専修大学の佐竹教授は、〝スポーツを本当に楽しめる日本になってもらいたい。我々がそうすべきではないかと思います。・・・・スポーツを介して社会のコミュニティがより強固なものになっていくことが求められていると思います。そのキーワードとして、今回の「東京オリンピック・パラリンピック」という見方もあると思っています〟等おっしゃられています。千足教授は「2020東京オリンピック・パラリンピック」にどんなことを思われていらっしゃいますか?

スポーツにこれだけ目が向けられる機会というのは、他には恐らく無いと思います。やはり、日本でオリンピック・パラリンピックに目が向いて、素晴らしさとか価値に気がつく人が少しでも増えてくれるような機会になってくれるといいなという思いがあります。マラソンが札幌で行われることになったことについては、いろんな立場の方がいらっしゃるので、やはり其処にはいろんな利害関係があって結果的にそういう風になったんだと思います。僕が選手であれば、これまで対策してきたのに残念というか、それは無駄になるという気持ちがあると思いますが、そこはみんな一緒ですから、みんな同じ条件で東京開催に向けて準備してきたけれども、そこは1回チャラにして、札幌に間に合うように最大限出来ることをやるという、選手はそれしかないです。早く切り替えて、後ろのことはもう考えずに前を向くしかないと思います。やはり一般人の見かたとしてメダルの数も気にすることなどはあるのかもしれません。それはそれでメダルを獲ろうとやっている人もいますし、出場するだけで良いと思っている人もいます。そこは温度差があります。

―パラリンピックについてこれ程報道され、日本国民も注目するようになったと思いますが、パラリンピック終了後にこの関心が持続するためには?

今とてもパラリンピックに目が向いていて、〝この人達って凄いんだな〟と。こういった機会は、今まではそんなに無かったと思いますし、それ程注目されていなかったと思います。非常に目にするようになると、人の見る目やモノの考え方が少し変わるかもしれません。確かに社会のインフラが整うことが前提でしょう。しかし、〝この人達はこんなに出来るんだ〟と、その人達に対する敬意とか、これまであった偏見も含めて変わってくる可能性があります。

例えば、足を失ってしまった人が、それ以外の身体部分を凄く鍛えて、普通の人よりも更に早く物事が出来たり、そういった姿を見たり知ることで、人間の可能性に気づかせてくれると思いますし、そういうところが非常に大きい。障害によって逆に強くなった人から感動をもらったり、僕らにいろんなことを学ばせてくれると思います。従って、良い機会には絶対になると思いますし、メディアにもキチンと目を向けてもらいたい。結局、知らないことがいっぱいある訳ですが、前向きになれるようなパワーを持っているのがスポーツの良さの1つであると思います。やはり身体と頭脳と心は全て繋がっていますので、そういう意味でいうとスポーツ・運動というものは、少しでも前向きな考え方に繋がっていけるように思います。オリンピック・パラリンピックは人々のスポーツやアスリートに対する見方を変える、或いは考え方を変える機会になって欲しいと思います。

千足耕一(ちあしこういち)氏プロフィール

1966年4月、兵庫県神戸市生まれ。

学歴

1989年3月筑波大学体育専門学群卒業、1992 年3月筑波大学大学院修士課程体育研究科体育方法学専攻修了

学位

2003年7月博士(医学)東邦大学,第2369号、

職歴

1992年4月1日~1996年2月15日筑波大学体育 センター準研究員文部技官行政職、1996年2月16日~1996年3月31日筑波大学体育科学系助手文部教官 教育職、1996年4月1日~2001年3月31日十文字学園 女子短期大学専任講師、2001年4月1日~2001年7月31日十文字学園女子短期大学助教授、2001年8月1日 ~2006年3月31日鹿屋体育大学海洋スポーツセンター 講師、2006年4月1日~2008年8月31日鹿屋体育大学海洋スポーツセンター助教授(准教授)、2006年4月1日~2008年8月31日鹿屋体育大学海洋スポーツセンター 長、2008年9月1日~2016年1月31日東京海洋大学海 洋科学部准教授、2016年2月1日~現在に至る 東京海洋大学学術研究院教授

学会活動

日本野外教育学会会員(2012年より理事、 2015年より常任理事、編集委員長),日本海洋人間学会会員(常務理事:2012.4.1~2014.9.30 総務担当理事20 14.10.1~現在) 日本スポーツ整復療法学会(理事),日 本コーチング学会(会員),日本沿岸域学会(会員)Intern ational Maritime Health Association 会員

専門

スポーツ方法学,海洋スポーツ

研究論文

Educational Benefits of Waterside Nature Experiences and Ocean Education ,Trainer’s Vie ws of Indicators Comprising Ocean Literacy, 学校教育における水辺活動への取り組みに関する調査研究, 虚血性心疾患患者における長期運動習慣の臨床的意義

主な著書

水辺の野外教育(杏林書院),スキンダイビング・セーフティ-スノーケリングからフリーダイビングまで-(成山堂書店)

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