(公社)埼玉県接骨師会・渡邊新会長にインタビュー!
昨年12月、(公社)埼玉県接骨師会の新会長に就任された渡邊寛氏に今の思いをお聞きすることが出来た。全国各県の社団が殆ど公益社団に認可、移行されたことに伴い、今後益々公益性が求められることになった。専門性の追及もさることながら如何に公益を担えるかが求められている。渡邊新会長に公益社団の在り方について話していただいた。
日本伝統医療の柔道整復術を守り育てると同時に機能訓練指導員としての活路を開いていきたい
公社)埼玉県接骨師会
会長 渡邊 寛 氏
―阿部前会長がお亡くなりになられ、まだ悲しみもいえぬ中、インタビューさせていただくことになり、とても恐縮しております。阿部会長を偲ばれる思い出もお聞かせいただければと思っております。何かエピソードなどお聞かせください。
昨年の11月29日に亡くなられました阿部前会長は非常に大きな人物で大木のように寛容な方でしたから誰もが敬愛し慕っておりました。
仕事に関しても、“責任は俺がとるから貴方達は自由に働きなさい”といつも穏やかな口調で怒ることもなく、実に威風堂々とした方でありました。また、おしゃれでスタイルを気にする方であった。相撲の現役時代腰を痛め決して姿勢はよくなかったが一昨年胃を全摘した時も痩せないと思っておりましたら、しっかりと多めにサラシを巻いて誰にも気づかれない様にしていたと後で家族の方に聞かされた実に洒落た人でありました。
柔道整復師としての誇りを持ち、患者さんの為、業界の為、骨身を削りながら一生懸命やってきたことは私も頭が下がる思いです。
―新会長に就任されて所信表明として新たな決意などお気持ちをお聞かせください。
このたび、会長逝去に伴い会長に就任いたしましたが、阿部一前会長並びに渕辺吉博元会長また諸先輩たちが、わが業界の確固たる盤石な基盤を築きあげていただいたお蔭もあり、役員・会員の協力、お力を頂き正直、不安もありましたが自然に受け入れられることができました。また、事務局員が優秀でしっかりしていますから会長をお引き受けできたのかと思います。
今の時代、ドラスティックなことを中々語れる時代ではないと思います。一番大事なのは、基本的な事でありますが、役員、会員の皆様がそれぞれの立場で全力を尽くすことだと思います。日整の役員は日整でやるべきことを、私たちは県としてそして支部の先生方は支部として何ができるのか各人が自分の目の前にあることをしっかりと行っていくことが大切です。誰かに期待していても目標が成就することは難しいと思います。
これからの公益活動にしても地域のことを一番に肌で感じている会員の目配りが可能です。地域住民に対しスポーツ大会の救護、小・中学校のスポーツクラブへの協力等出来る範囲内のことを実施していくこと。その集大成が大きな組織の力になると思います。
無理に力んでする必要はないのではないでしょうか。ひたすら誠実に、そして前向きに、人任せでなく夫々が自分の出来ることを精一杯尽くすことです。
私達柔道整復師は機能訓練指導員という資格があり、次への突破口を開くことへの道筋がついたように感じます。飛躍するようですが、人類が石油を発見してただ燃料としてだけではなく石油化学製品、薬品、エネルギー、光にもなれば熱にもなるといった様々な使い道が開発されました。そんな風に柔道整復師がこの機能訓練指導員をどのように活用していくかが大切だと考えています。介護の世界に正式に参入できる職種であり、今後要支援1・2は県から市町村に移ると思いますので、市町村における私達柔整師の活動する場が広がって来ると思います。このような状況にありますので、各市町村長・行政関係等との連携を今まで以上に柔道整復師をよく理解していただくような働きかけが重要になってきます。そのためには納得のいくような事業計画書、機能訓練計画書とその効果についてのデータを示し担当者に理解して頂くようお願いしていくことが、柔道整復師の技術を生かした地域貢献、それを通じて高齢者の方々に貢献できることを全面的に訴えて行けば良いのではないかと考えております。
―近年、災害が多発し、今後どうなるか分らないといった危機感や不安感を募らせている国民が大半かと思います。(公社)埼玉県接骨師会の災害協定や災害救護の取組みなど教えてください。
各支部において市と埼玉県接骨師会の支部が災害協定を締結しております。一括りに災害といいましても、災害発生直後と時間が経過したものでは違いがあります。発生直後は支部が中心になり主導的にしなければなりません。東日本大震災で被害に遭われ埼玉アリーナに避難された方々、原発被害で旧騎西高校に避難されてきた双葉町の方々等、時間的経過を経た方々の場合は、理事会等で、バックアップ体制を整えた上で県としての対応ができます。災害直後に関しては支部長を通じ、各支部が中心となり、時間的経過と共に主導が県に移って行く形です。阪神大震災の時もそうでしたが直下型で他の地域は被害を受けずに済んだように、仮に埼玉県で震災が起こっても15支部全域が壊滅状態ということは考え難いと思われます。正確な状況判断をしながら被害をあまり受けなかった支部が救援に行くことになると思われます。従って直後の救護体制と時間的経過を経た時の救援体制とを別に考えておく必要があります。
―そういった支援体制をシステム的に組まれているのでしょうか?
実際に未だ大きな災害に遭遇しておりませんので、完璧な体制が構築されているとは申し上げられません。ただ3年前の東日本大震災以降、福島県双葉町の方が1300人位旧騎西高校に避難され、その方々に対して当会の地元支部会員を中心に周辺支部会員の協力のもとローテーションを組み対応をさせていただきました。この取り組みは、1つのモデルケースになるような良いケースだと思います。発生直後と時間が経過した時の救護体制の違いを考えて、災害の中身をしっかりと分析しなければなりません。柔道整復師はレントゲンを使えませんが、外傷の部分においては判断等しっかりできると言えます。もう1つ、骨折であっても、又たとえ疑わしいものであっても応急処置を行う。骨折の場合、その時にきちんと整復・固定をしてあげた後でも十分対応できます。また重篤な患者さんの場合はその時点で病院を紹介することが可能であり、受傷直後の対応は良いものが出来ると思います。
―阪神淡路大震災の時に兵庫県の柔道整復師会の先生達が非常に高い評価をされました。もちろん災害は起こらない方が良いのですが東日本大震災の時もやはり皆さん活躍されました。医師の方達がライフラインを絶たれて、無力感を感じたということで、今は病気を治すとか命を救うことも大事であるが生活を支援していくことに重きを置かれるようになってきたことを知りました。
他県も同じだと思うのですが、私達柔道整復師はそういった住民への生活支援に対する意識は高いと思います。今お話をした旧騎西高校に避難された双葉町の方々に対して約3年近くサポートを続けておりますが、実のところこんなに長く続くとは思いませんでした。その地区の支部の会員と周辺の会員がよく頑張ってくれました。原発での関係で避難された方は外傷を受けたわけではありません。しかしながら、我々は国で認めた資格である機能訓練指導を行なえます。高齢の方の場合、腰が痛いとか足が衰えるということで治療も行いましたが、中でも好評だったのが機能訓練という運動器への機能訓練指導でした。とにかく支部の会員は現場を見ながら一生懸命施術と機能訓練の2つを並行して実施され大変素晴らしかったと思っています。
―統合医療の時代に入っていると思います。今後、統合医療学会で柔整の存在意義をしっかり示していく必要があると思いますが、渡邊会長はどのように思われていらっしゃいますか?
統合医療で特に大事なのはEBMで、やはり医療に基づく科学的な根拠というものをきちんと示さなければなりません。統合医療においては伝統医療も含めて多様な医療が混在していますが、EBMという観点から見ると他の部門に関しては分からないのでコメントできませんが、柔道整復業界に関して言えば、EBMに関して自信をもって立ち向かえます。骨折、脱臼、軟部組織損傷の後療法に対し、私達柔道整復師は自分で整復し最初から最後まで患者さんを診ています。最初から最後まで診ることは病院のドクターは不可能で全て分業になっています。また私達の場合は、治癒した後の生活内部をみることも可能です。私達柔道整復師の骨折や脱臼の後療法というのは医学的にも科学的にも根拠がありますし実際に良い成果を出しております。柔道整復師にとってEMBというのは最も立証しやすいと思います。他の代替医療の場合は、数千年続いていることや経過的なことが即ち実証であるといった事も聞きますし、伝統医療並びに代替医療では確かにそういう一面もありますが、我々の場合はきちんとした科学的根拠を示せることから、統合医療にはむしろ一番適していると言えるのではないかと思っております。もう1つ重要なことは、経済的な側面であります。安価な金額であること、しかも病院では、待つ時間は長く治療時間は短い。しかし接骨院の場合は待つ時間は短く治療時間は長い、全く逆です。電気治療をしている間、色々な会話をしながら施術をすることで患者さんの生活背景というものが見えます。そして経済的側面から見ても非常にメリットは大きいと思います。
―今は生活習慣病の方が増えているので、そんなにお金をかけないで、自らが病気を治す努力をしていく。内科的なものを診ることは出来ませんが、接骨院の先生達も家庭医或いはプライマリケアとしての役割を大きく担われているような気がします。柔道整復師を知らない国民の方ももちろんいるのですが、知っている方はそういう役割を求めて接骨院にいっているような気がしますが。
接骨院を信頼して下さる方も多くおられますし、昔は骨折等の症例が多かったのですが、今は非常に少なくなっています。今の若い柔道整復師の方は皆さん内科的疾患についても専門家ではありませんがとてもよく勉強しています。そのため患者さんのお話しを色々聞いていて〝ちょっと病院に行ったほうが良いですよ〟など、診断は出来ませんが疑わしい場合は受診の勧めが出来ます。この受診の勧めは非常に大事なことで、直接私達が治す訳ではありませんが、その患者さんが病院に行かれてその結果良かったという事も多々あります。私が思うには、柔道整復師或いはお医者さんでもそうですが、自分で分からないと思ったら決して自分で抱きかかえてはいけません。また専門医へ紹介することは決して恥ずかしい事ではないと思います。
―治療を最後まで一貫して診て治してしまえるので、そういうお考えがあって皆さん統合医療学会に入られないような気がしておりましたが。
統合医療に関しての認識は未だ薄いと思います。今の近代医療の場合はどちらかと言うと対症療法であり、伝統医療の場合はどちらかと言うと原因療法だと思います。柔道整復師の場合は、患者さんが歳をとるごとに体の変化が前もって分りますので予防医学的なお話しもできます。膝・腰が悪くなり、背骨も曲がってまいります。そういったことを40代、50代の人に予めお話しすることが可能です。足の治療をしていて、この方は外反母趾が強いなと思うと〝貴方は外反母趾になりやすいから靴に気を付けなさい〟とか、原因療法的な事が指導できます。また、我々の場合、外傷であれば痛みが強かったら最初に固定・整復したりと対症療法的なことも行って両方を兼ね備えています。ただまったくジャンルの違う疾患を扱うのはとんでもないことだと思います。柔道整復師法の業の中で対症療法と原因療法をきちんと区別して、自分の立ち位置をしっかり理解して物事を進めて行かないといけません。なんでもかんでもオールラウンドでやっていこうとするのは怖いことであると思います。
―地域包括化が進行して行く中で、昨年は包括化元年とも呼ばれているようです。(公社)埼玉県接骨師会では各市町村の自治体とどのように交渉し、地域包括化に参入していくご準備をされていらっしゃいますか?支部単位で地域包括化に参入されて行くのでしょうか?
いくつかの支部では既に取り組んでおりますが形が夫々異なります。最初にお話をしましたように、これから各市町村長や行政等の方とのコンタクトがとても大事になるというのは、地域包括化の取り組みが進行しているからです。埼玉県でみると新座市では市と接骨師会とで契約を交わし接骨院に来ていただいて、接骨院の昼休みの1時から2時半までの90分を使い、機能訓練指導を実施しています。我々柔道整復師も地域包括型ケアシステムの中に位置づけられていくようになると思いますし、それが今後とても重要になってきます。デイサービス予防通所介護事業所から要支援1・2が切り離され、市町村の管轄になるかもしれません。つまり我々の支部の会員と市町村との交渉、対応の仕方が非常に大切になってくると思います。今のうちに先生方で、昼の1時から90分間の機能訓練のメニュー等プランを作成して、どういった形で普及させるかを想定しシミュレーションしていった方が良いということを、昨日支部の役員の先生とお話をしたところです。90分間の機能訓練内容をビデオや小冊子にして、それを持っていって各自治体に説明し理解していただかなければなりません。ただ機能訓練をさせてくれと言うだけでは、行政の方々には具体的に目に見えてこないので結果は出せません。訓練指導の方法とその経過を追った測定のデータを提示し根拠を示すことで、しっかりと内容を理解してもらうことができます。また数値的なデータは一般の方々に分り易いので説得力があるのではないでしょうか。
―(公社)埼玉県接骨師会では保険者との信頼関係の構築についてどのような対策をされていらっしゃいますか?
本県では、健保連や国保連等と様々な事例に基づきお互いに意見交換をしながら理解を深め合おうという主旨で協議会を年に数回開催し、保険者との信頼を構築しております。
例えば前回の勉強会では〝埼玉県の会員は会で指導しているのに、個人契約者よりも長期施術の割合が高いのはどうしてですか?〟という質問が挙がりました。知らない人が見たらそう思いますよね。私達は実際の治療に即した請求の仕方で、長期ならば長期になった理由をきちんと書くように指導しています。この様な意見交換を通し、お互いの理解を深めていく事が信頼関係の構築に繋がると考えています。
―いま部位の制限等もされるようになりましたが、「まるめ」になる事について皆さんはどのようにお考えなのでしょうか?
これは個人的な見解ですが、平成21年11月に事業仕訳が行われマスコミが騒ぎました。それで我々の業界にも深いメスが入りました。翌年の6月に療養費の改定が行われ、その内容を見た時に、これは単年度のことではなく今後、相当大きく響くだろうと危惧致しました。案の定その方向性が加速されてきました。日整の療養費の取扱いをみると、今までは滑らかなスロープを降っていくような落ち込みの形でしたが、平成21年6月の改正により翌年の22年度からは、それが一気に急降下する形になってしまいました。いよいよ制度改正がこの先にあるということでしょう。次々と規制が行われたため療養費の取扱いは大きく落ちています。そういった中でこの先を見るとその延長線上に見えるのはやはり「まるめ」かもしれません。厚労省では、事業仕訳以降、度々の改正においてどこにどう手を付けると柔道整復師の療養費はこうなると分かっているはずです。これはもう10年位前から予測されておりましたが、いよいよ具体化されてきた感があります。
―皆さんはそうなったらそうなったで仕方がないという受け止め方なのでしょうか?
我々もしっかりとした施術とレセプトの申請をしなければいけませんが、やはり「まるめ」は食い止めたいです。厚労省も今の物価水準や国民生活水準と比べ、柔道整復師の年間の取扱い療養費が果たして適切かどうかを判断していただきたい。柔道整復師の年間の療養費は、今から数年前の日整の調査で、課税平均所得が360万円位でしたが、今はもっと落ちています。毎年50万円程落ちている状況にありますので、ある程度逆算してこれ以上療養費を削って良いものかどうか検討して頂きたいです。タクシー業界もそうですが、適正な運賃を支払うことによって安全性を確保され、その産業の持続性も維持される訳です。それをいたずらに抑圧する事が規制したという認識であるのであれば国民医療の裾野が崩れていく発端になるのではないかと危惧します。
―今、他団体であるJB日本接骨師会ではガイドラインの作成委員会が立ち上がり、また(公社)長野県柔道整復師会がそれについては先行して取り組まれておりますが、ガイドラインについてどのようにお考えでしょうか?
日整の47都道府県がグレーゾーンに個々に対応をすると、かなり温度差が生じると思われます。ある程度全国統一した一定の基準がなければならないでしょう。志は素晴らしいと思いますが、それは日整と他団体で整合性のとれた統一の基準を作る必要があると思っています。仮に埼玉県で作ったとしても他県では通らないのであれば、今より返戻も多くなってしまうでしょう。またガイドラインが出来たとしてもそれはバイブルではないと思います。やはり私達には柔道整復師法がありますから、それに準じた中でコンプライアンスを厳守していかなければなりません。職域を拡げることは勿論大事ですので、日整の動きに期待したいと思っております。
―最後に公益社団に認可され、益々(公社)埼玉県接骨師会の役割は重要になり、公的な事業に取り組んでいかれることになると思います。今後の抱負等お聞かせください。
我々柔道整復師というのは元々自分が住む町、自分が暮らす町から生まれた「ほねつぎ」です。やはり地元に根差した地域貢献や地域生活支援をしていく必要があります。公益というといかにも大きな事業のように思われますが、まず個人ができる公益的な活動を実践して、それを大きく育てるのが一番大事です。県としても様々な公益事業の一環として市民公開講座と称して著名人を呼んで高齢者のための健康講座や子供さんのための体操教室、他にも文化講演のようなことを毎年開催し一般公開しております。県としてはそれらの事業を地道に継続していくことになりますが、各支部におきましては草の根運動的なことをしっかり行うことが大切だと思います。支部の先生方が地域の様々な状況を一番把握しております。その中で自分達が出来ることは何かを追及し、また、好感を持って頂くことで地域住民から信頼され、日常生活でのケガやスポーツで負傷した時に接骨院に来ていただくことが大切です。地域住民のケガのホームドクターとなるような位置づけにしていただくためにも、日頃の触れ合いが欠かせません。公益事業というといかにも大きな事業に見えますけれども、個人における公益性のある社会的なボランティア活動、地域の救護活動が自分たちの職業をいつまでも守る大切な鍵になるのではないかと考えております。
渡邊寛氏プロフィール
【生年月日】:昭和24年8月22日 静岡県生まれ
【座右の銘】:一言萬世照
経歴
早稲田大学卒業・花田学園卒業
埼玉県草加市に開業 昭和58年5月
埼玉県接骨師会に入会 昭和58年5月
役員歴
- 理 事
- 平成10年4月~平成23年4月
- 副会長
- 平成23年5月~平成25年12月11日
- 会 長
- 平成25年12月12日~
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