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ビッグインタビュー:(公社)日本鍼灸師会 会長 仲野彌和氏

インタビュー 特集

近年 Acupuncture は、世界で高い評価を受け、世界各国で活用されていることは周知の事実である。一方、日本国内では、柔道整復師と同様に医療制度の中にしっかり組みこまれてこなかった。しかし今、その長い不遇の道のりに終止符が打たれようとしている。平成24年10月、社会保障審議会の中に「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会」が設置されて以来、多くの議論がかわされ、間もなく結果がだされようとしているのである。鍼灸業界にとっても快挙であるが、日本国民にとっても快挙であることは間違いない。一途な努力を続けてこられた日本鍼灸師会会長の仲野彌和氏に今の心境と今後の構想を忌憚なく話して頂いた。

我々鍼灸師はこれまで以上に国民の健康に寄与し、医療の発展にお役に立ちたいと思っています!!

(公社) 日本鍼灸師会 会長

(公社) 日本鍼灸師会 会長
仲野 彌和 氏

―あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会第10・11回では、「後期高齢者医療広域連合におけるあはき療養費の不正事例について」「あはき療養費の不正対策の強化について」「償還払い・代理受領・受領委任の比較」など、柔整療養費との比較を通して、受領委任払いの導入について検討がされておりますが、専門委員会のこれまでの経緯並びに鍼灸業界が目指されているところをお聞かせください。

これまで鍼灸関係は合理的な「制度化」がされていないことが一番問題だと思いますから、患者負担を軽減した「制度化」にしてほしいということです。

そのための指導監督を厳しくして頂いて結構です、と伝えております。
つまり、本当に必要な「患者さんファースト」の制度を作ってほしいという考え方に立っています。何故ならば受領委任は、間違いなく患者さんにとって受けやすい形になります。倫理観がないと言われないように今後はしっかりと自主規制を行って、教育内容を充実させてまいります。
問題が山積している中であっても、目標が達成できるよう最善の努力を尽くしていきます。

―柔整もそうですが、安価で安全な医療の活用は、医療経済の側面から社会保障費を削減できる可能性を持っているにもかかわらず、患者さんの利便性をはかる受領委任払いについて、不正を理由に認めないとされることに違和感を覚えますし、患者さん中心の医療とかけ離れていると思いますが、仲野会長のご意見をお聞かせください。

全くその通りです。この質問の文面そのままです。安心・安全な鍼灸医療をもっと活用することで医療費の削減につながると思います。

―鍼灸は世界的に認められており、特にアメリカ・ドイツ・イギリス・フランス等先進国で多くの患者さんに寄与されていらっしゃいます。また統合医療の最先端で疾病治療をはじめ、予防医学や緩和医療など多くの医療分野で利用されています。超高齢社会のモデルケースとしてのパラダイム構築を求めるとされていらっしゃいますが、具体的にはどのようなことをされるのでしょうか?

多くは東洋医学の概念は理解されているけれども、鍼灸のパラダイムについては分かっていませんでした。伝統医学を統括する厚労省直轄の部署を作ってください、という要望書を提出しております。担当部署が出来ないと統合医療の考え方や研究も全く前に進みません。
日本の医療体制の中で予防医学に対する国民の理解は十分ではないと思いますが、予防医学の分野について鍼灸師は「未病学」といって日頃から臨床に取り入れている訳ですから、ごく当たり前のことなのです。

患者さんの悪いところを治したり、悪くならないようにするというのが治療家の基本的なスタンスです。鍼灸医学は予防医学ですから、例えば生活習慣を見直して、身体のコンディショニングのための通院をして定期的に免疫力を上げておけば、病気になりにくく、いろいろなところでこんなに助かるんだという切り口で進める工夫をしているところです。医療の分野で財源がないのであれば、予防の分野に力を入れていこうということで進めているわけです。

このように素晴らしい医療を充実させるためにもモデルケースとしてのパラダイムの構築を考えています。何よりも国民が求めている訳ですから、この国民の思いに応えるよう真剣に取り組まなければなりません。

―鍼灸業界にも大きな団体組織が幾つもあり、仲野会長は会長挨拶で、〝業界団体が一つになって新しい風を吹かさなければならない時期に来ています。そのためには、超高齢社会に鍼灸を取り入れるための方法を真剣に考え、決意を持って取り組んで活動していかなければなりません〟と述べられております。業界団体が一つになれる可能性はあるのでしょうか?

鍼灸業界には、日本鍼灸師会の他に全日本鍼灸マッサージ師会、日本あん摩マッサージ指圧師会の公益社団法人があります。療養費のことについては3団体一緒になって協議などを進めて、まとめた返答をしていますし、連合会のような形で取り組まなければ、前には進みません。

抜本的改革のために団結し、英知を結集しなければならないという声を感じていますが、個々の団体の抱える問題もあります。しかし問題が整理されていけばいろんな可能性が高まるのではないでしょうか。

いまホールディング・カンパニーというのがありますが、同じような考え方をして連合体とするのが良いのか、協議会とするのが良いのか、それぞれの考えを持ち寄って意見交換を行うことも必要ではないかと思います。

―プライマリ・ケアとして鍼灸の先生方の役割は大きいと思います。病院との連携はうまくいっているのでしょうか?

実は保険のことに関しては業種を問わずさまざまなところで混乱があるものですから、医師との連携がかなり厳しくなっています。元々鍼灸師が保険を取り扱っているのを知っておられますから、近所の先生方に患者さんを紹介したり、していただいたりということはあります。

しかし、一般的には物凄く難しくなっていると思います。医師との信頼関係が崩れてきている中で、しっかりとした紹介状などを書くことが大事であることは言うまでもありません。〝患者さんが、こういう症状で来られていますので、よろしくお願いします〟と。或いは、その他の疾患の疑いがある場合、しかるべきところを探して医師を選んだり、別の医師から医師への紹介で、最初に患者さんを紹介していただいた先生に、現在の症状について書いて送ると必ず丁寧な返事をいただきます。しかしながら、病院との連携は上手くいっているはずなのに現場はどんどん崩れてきているように思います。これは、まだまだ越えなければならないさまざまな障壁があるということでしょう。

一方、「プライマリ・ケア」をどんな風に捉えるかですが、昔言われていた「プライマリ・ケア」は今述べたように病院との連携でした。しかし、これからは「地域包括ケアシステム」の時代です。実際には地域包括の分野になかなか参入できない理由についても真剣に考えて対処しなければなりません。

現在、鍼灸師は機能訓練指導員の資格を持っていませんが、30年には、もう一度介護保険制度の見直しがありますから、機能訓練指導員という職種の内容も見直され、鍼灸師への道も開かれるかもしれません。その実現のための実績を重ねているところです。

―地域包括ケアシステムの構築が急がれておりますが、鍼灸師会のトップとして仲野会長はどのように指導され、どのような取り組みをされていらっしゃいますか?

地域包括ケアシステムというのはネットワークの構築であり、鍼灸師が持つ知識と臨床で経験を積んだ技術を持って現場へ出て、〝ご高齢の方々はこんなことをしたほうが良いですよ〟といろいろアドバイスをすれば、誰もがみな鍼灸師が如何に大事かということを認めてくれると思いますが、多くはその運動をしていません。

皆さん、勘違いをしているのか、国が特別に〝あなたは地域包括ケアのメンバーですよ〟という話はしてくれませんから、私どもは、地域包括ケアシステムを説明する印刷物に「はり師・きゅう師」の名称を入れました。少し遅くなりましたが名称が入ったことで、〝鍼灸師はこのように患者を診るとともに、昔から養生法を伝えています。だからきっとお役に立てると思います〟と伝えて〝この会議に参加させてください〟と話せば良いのです。正面きって言えば、何所もノーとは言いません。

自治体によってさまざまな特色があり、鍼灸師ができる対応をしなければなりません。そのために地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターから委託され介護予防運動指導員の養成講座を行っており、受講者は1000名を超えています。そういった介護予防の勉強もして指導員を養成しています、と伝えることが大切です。

―2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けてどのような活動を展開されていらっしゃいますか?

いま日本でアスリートに帯同しているトレーナーの半分は鍼灸師でしょう。そして、2020年東京オリンピック・パラリンピック顧問団の中に委員として本会からも入っております。大事なことは、トレーナー業務をされている鍼灸師がたくさんいて2020年のオリンピック・パラリンピックにおいて、様々な支援をしたいという思いを持っているけれども、選手に帯同して、一緒に動くことが出来ない鍼灸師がたくさんいるということです。

そういう思いに応えられる要素は、一つは会場内でオリンピック・パラリンピックが行われた時に選手が連れてくるコーチをはじめ、スタッフの方達のサポートであれば出来るかもしれません。オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典ではあるけれども、日本のレガシー、所謂歴史的に長く培われたものや芸術的なものを含めて紹介する機会でもある訳です。

そういう意味でもオリンピックに来られた方たちに身体を介してトレーナーの役割とその効果について多くの人々に鍼灸を紹介するチャンスだろうと捉えております。従って選手村の中で良いブースや適切な場所がとれたら良い。また、レガシーとして紹介する場所を確保することが出来れば良いと思っています。

当会だけではなく、先ほど話した3団体と東洋療法学校協会の4つが一緒になって、鍼灸振興のために組織を作っております。大会の前年度に日本国内で行われる各地のキャンプでは、各地の鍼灸師会を活用してもらえるようになれば良いと思っております。

日本鍼灸師会は20年以上前から、全国各都道府県鍼灸師会で専門領域研修会「スポーツ傷害」を開催しており、昨年調査したところでは全国120か所の市民マラソン大会などへケアチームを派遣しているという活動実績がありますから、メディアを通して世の中にもっともっとアピールしていきたいと考えています。

―昨年の11月に日本で23年ぶりに『WFAS東京/つくば2016』が開催されましたが、その意義と成果について教えてください。

約1800人が参加されました。学会運営も円滑に出来ましたし、好評を博することが出来たと自負しております。また、思っていたよりも多くの国々で日本の鍼灸師が活躍していることが分かったことも大きな成果でした。

この世界大会の前に、東京でWHO「国際疾病分類ICD-10」の改定作業の会議が行われ、そこでICD-11の中に伝統医療の鍼灸が加わることが内定し、来年の総会で正式に決まることが発表されましたので、世界に向けて広く発信出来たと思います。

―当サイトは柔道整復師さんがお読みになるサイトです。仲野会長は三重県柔道整復師会の常務理事を務められていた方ですが、今の柔整業界についてどのように思われていらっしゃいますか?何かご提案があればお聞かせください。柔道整復業界には「鍼灸接骨院」というような名称の接骨院があますし、また大学や養成校では両者共立している場合もあり、鍼灸業界と柔道整復業界では関連している部分が多々ありますが、今一つ連携や協調がないように感じます。今後の両者の関係に関して何かお考えがありましたら、お聞かせください。

例えば、内科や外科は、同じ医科の中に含まれておりますが、そういう発想は柔道整復師会、鍼灸師会においては両者ともに誰も持っていないのではないでしょうか。つまり、医療人としての「核」を持っていないとずっと思ってきたように思います。ある意味では保険が使えるということは、医療人であることは間違いありませんし、ステータスでした。当然節操もありましたし、やはりそこは慎重に行ってきたと思います。鍼灸師は、柔道整復師のような保険の取り扱いはできないけれども、〝自分は医者が治せないものを治せる〟という自負もありました。常に裏方だったけれども、生き様はみんな格好が良いものでしたし、それなりに誇りがありました。

そういった中で未だ鍼灸界の中には医療人としての魂を持っている人がたくさんいたものですから、鍼灸業界を応援しようと思って仕事をしている訳です。
これまで関係団体の皆さんとは多くの機会で接してまいりました。人は接しなければ何も出てこないんです。意見が反対であればあるほど話し合って、何故そうなるのかということをお互いに突き詰めれば、意外に同じ土俵で戦えると思います。たとえば「療養費を考える会」というようなチームを作って、一緒になって取り組めば良いだろうと考えているところです。

看板については個人的なことですが、私の家は3代前から90年間も掲げている看板ですから、簡単には変えることは出来ませんが、看板規制をしっかりやらなければダメだろうと思っております。つまり鍼灸院、接骨院あるいは整骨院に対し、こういう名称でなければダメですよと決定されれば、看板を並立して掛けるしかないでしょう。そういう方法もあると思います。業態を正常化する意味でそういう取り決めを行う検討委員会をつくらなければいけないと思っていますが、このように様々山積した事柄に細かな対処をしなければいけないことがあり、考えていきたいと思っています。

柔道整復師は鍼灸師を使って保険請求を行っていますが、この場合、中できちんと分けないと柔道整復師だけの免許を持っている人、鍼灸師だけの免許を持っている人に迷惑がかかりますので、これは絶対厳しく規制しなければいけないでしょう。

次の業団を考えるということで厚労省医事課担当者にも立ち会っていただいて、日本柔道整復師会と日本鍼灸師会で話し合いを持つことも非常に大事であると思いますので、ぜひ実現させたいと思います。

最後になりますが、”不易流行”と言いますか、過去の良かった時のような形に戻すところは戻し、みんながフィードバックをしながら、新たに前向きに生きていくための仕事に誇りをもってしっかりやらなければいけません。
今、大変革の時を迎えていますから、いずれ歴史的な転換がなされると思います。心して先を見ながら進まなければと思っています。

仲野彌和(ひろかず)氏プロフィール

昭和21年三重県四日市市生まれ。
医学博士(三重大学)、鍼灸師/柔道整復師/米国政府公認カイロプラクティックドクター。
昭和44年、東京農業大学卒業。昭和46年、花田学園卒。柔道整復師免許取得。昭和47年、花田学園卒。鍼灸師免許取得。昭和51年、米国カリフォルニア州アキュパンクチャー(鍼)ライセンス取得。昭和52年、米国ロサンジェルスカイロプラクティック大学卒業。昭和57年、社団法人三重県鍼灸師会理事。平成1年、社団法人三重県柔道整復師会理事。同年、医学博士(三重大学医学部)。平成6年、財団法人全国療術研究財団評議員。平成14年、社団法人三重県鍼灸師会会長。平成15年、社団法人日本鍼灸師会常任理事広報局長。同年、鈴鹿医療科学大学評議員。平成16年、ユマニテク東洋医療専門学校校長。平成23年公益社団法人日本鍼灸師会会長就任、現在に至る。

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