ビッグインタビュー 【新・柔整考②】 業界内外の声をお聞きする!
昨年の第31回日本柔道整復接骨医学会学術大会で『肩関節障害と動作評価―Core Power Yoga CPYⓇ』と題し、特別講演をされた八王子スポーツ整形外科副院長の小林尚史氏に、整形外科や接骨院を受診される患者さんに対して、本来はどうあるべきかについてお聞きした。
整形外科医をはじめセラピストと称される理学療法士や柔道整復師が、患者さんに適切な治療を提供できることを願っています!
―小林先生は、肩関節鏡視下腱板修復術の第一人者と称されている方です。若いドクターには、どのような指導をされていらっしゃいますか?
手術とか外来の見学をしたいと言って来てくれる人は、偶に居ます。大部分は、肩関節医学会や繋がりのあるドクターの後輩であったり、先日来られた若いドクターは同級生の息子さんでした。当病院には常勤・非常勤で僕の診療と手術に直接かかわる肩を専門にする若いドクターは居ますが、直接かかわっているドクターは私以外、今はおりません。
―昨年の柔道整復接骨医学会の特別講演で小林先生は、〝90%くらいは、何も壊れていないけど痛くて病院に来ている人です。それをどうするかを考えたほうが世の中のためになる〟等、述べられていました。その辺についてもう少しお聞かせください。
こういうことを言うドクターは割合からすると少ないのかもしれません。ただ僕の周りには結構こういう先生が多いです。肩とか肘を専門でやっている先生って、リハビリが大事だということをよく分かっているので、比較的そういうことは理解されています。
僕が直接関わって治してあげられる人というのは、実は10%位しか居りません。結局、身体の動作を如何にコントロールするかということを行ってくれるのが、理学療法士、柔整などのセラピストと呼ばれる人達です。ごく一般の整形外科との一番の大きな違いは、患者さんの殆どがリハビリに回るということです。所謂紹介で来られる患者さんは、レントゲンやMRIで異常が無いから〝大丈夫ですよ〟と言って、治療は何もせずに、それで終わってしまっていることがよくあります。しかし僕らの病院は画像に問題が無いからといって、痛みが無い訳ではありませんし、身体が正しく動いている訳ではないので、それを解析するために、必ずリハビリで評価します。つまり当病院で受診した人の殆どの人をリハビリに出しますので、其処が一番大きな違いです。結局整形外科医が出来ることは壊れたところを手術で治す、注射をするといったことに加え治療の組み立てや、セラピストが行っている治療を管理することで、それは重要なことと考えています。
―受診された方の90%は何も壊れていないけど痛くて病院に来ている人なのであれば、患者さんの痛みを取り除くような指導をされるのが患者さんが求めていることなのだと思いますが…
治療がうまくいくかどうかは、資格はあまり関係ないんです。柔整でも理学療法士でも身体動作の重要性を理解して、修正していくことが出来るかどうかが重要だと思っています。リハビリの重要性をちゃんと分かっていないドクターもいます。ですから資格ではなくその人に任せられるか如何かという、そこが大事です。
―本橋恵美さんを師匠とされ、コアパワーヨガを始められてから、何がどのように変わられたのでしょうか?
医学教育では、学生の時に機能解剖を殆ど習わないんです。勿論、解剖学は習いますが、肉眼解剖で、肉眼や顕微鏡で見たらこうだといったことは習うけれども、それが身体に如何に働いて、お互いどのように関連するか、例えば投球する時にどういうふうに筋肉が使われるかといったことについては学習しないわけです。整形外科医は先述しましたように、画像で壊れている所を探して、其処を治すという仕事が一番だと思っている人が多い。例えば、肩とか肘が痛くなって、肩に壊れているところが画像で見つかった時に、それを治しましょうとするのが普通の一般の整形外科医の考え方です。その患者さんや選手の痛みが、どういう身体の動きの中のエラーから起きてきたものなのかというのを見極められるようになりました。
肩が痛くなった原因が股関節や腰の問題である場合があります。痛くなった箇所というのは、多くは被害者なんです。そうなった原因に至った場所がどこかを評価する方法を習ったということです。もう1つは、ヨガをつかった動作評価と修正のプログラムです。ヨガというのは、動作を良くするための運動であると同時に、動作評価の手段でもあるんです。また、それを自分で実行することによって身体は変わるんだということを、地道に続けたことで、やってみて初めて分かりました。
最初に本橋さんに会って、コアパワーヨガの実習で動いてみた時に身体が全くついていかず、動けなかった。その時に自分の身体は、このままだとヤバイなと思ったんです(笑)。という訳で、習ってそれを実際にやっていくと半年、1年位で自分の体の動きが全く変わってきました。実際に体験をしてみて、人間の身体っていくつになっても変えることが出来るということを学びました。年齢の高い人の多くは、〝年だから治らない〟と、よく言われますが、そんなことは絶対にありません。人間というのは、生きていれば必ず細胞は入れ替わるので、変わることは可能です。しかも、思った以上に早く結果が出たりします。もちろん、長い時間かけないと良くならないこともあります。
―コロナ禍であった時と5類に移行してからは、どんな風に変わられましたか?
治療に関しては、病院の仕事というのは、感染というリスク管理をしながら、病院に来た人を直接診て、対面で診ることには変わりがないので、あまり変わらなかったように思います。若干患者さんは減りましたが、巷でいう程、この病院は減っていません。コロナで外出できなくなったために、自宅で待機していることにより、身体を動かさなくなって様々な不都合が出たという人が逆に来院されたこともありました。また5類に移行したからといって、感染対策を特別に緩めている訳ではありません。院内でマスクをしたり、手洗いをしたり等の対策を行っていることには変わりません。コロナで変わったことと言えば、オンラインの診療、運動指導、会合が急速に普及したことでしょう。
―柔道整復師の評価が少なからず落ちているように思います。正しい在り方について、小林先生がこんな風にしていくのが良いとお考えになられていることがありましたら教えてください。
これは柔整も理学療法士も医者も全部一緒ですが、やはり自分が正しいと思うことをやるべきなんじゃないでしょうか。正しいことってどういうことかというと、病院とか柔整に来る人というのは、どこかが困って来られる訳です。その困って来られた方に対して、自分が正しいと思っている必要なことを提供するのです。逆に、間違っていることって何かと言えば、例えば収益のために何かをするというのは間違っていますし、正しくありません。今自分が持っている知識や、経験を駆使して自分が一人一人の患者さん、クライアントに対して最も適切だと思われる、要は正しいことをちゃんと正しく行ってあげられるかどうかだと思います。例えば、先に話しましたように収益のために何かするとか、自分の保身のために何かをする、そういうことがあると正しくありません。また、そういうことというのはいずれ分かってしまうことです。
更には、いま自分が持っているものの中で、目の前に居るクライアントさんの一番良い道筋を示してあげることが重要です。そのためには、自分の知識とか経験が不足だと思うのであれば、多くのことを吸収するために自分で勉強するなり、磨いていく。所謂専門家と称される誰かのところに教わりに行くとか、いろんな方法があると思います。習ったことを自分の中で消化して形成して自分なりのものとして提供できるようになることです。つまり、人に言われたままではなく、自分のものにするのです。もっと言えば、習った元の技術や手法と多少形が変わっても良いと思います。人それぞれ経験値も違いますし、理解度も違いますので、習ったことを同じように提供するというよりも、自分が一番正しいと思うやり方で提供できたら良いのではないでしょうか。
―今後の抱負や目標について
若い頃は外科医として、人の壊れた箇所の手術をキチっとやれるようなドクターになりたいと思っていました。今はヨガを習ったこともあり、人間の身体の壊れたところを治すというよりは、近年よく言われている疾患の予防も大事ですし、生活においてクオリティの高い生活が営めるように、良い人生を送れるように、病気の予防だけではなく、人間が人間らしく楽しく、そのためには身体がちゃんと動かないと駄目なので、そういう風に生活の質を上げられるような指導をしたいと考えています。
小林尚史氏 プロフィール
- 1962年(昭和37年)生
- 八王子スポーツ整形・副院長 肩・肘関節,スポーツ医学科
- Core Power Yoga CPYⓇコンディショニングトレーナー
- Athlete Pilates APTM コンディショニングトレーナー
学歴・職歴
- 1981年(昭和56年3月)石川県立金沢泉丘高校卒業
- 1987年(昭和62年3月)金沢大学医学部卒業
- 1987年(昭和62年4月)金沢大学整形外科入局
- 1987年(昭和62年5月)医籍登録
- 1997年(平成9年)学位取得
- 2001年(平成13年)KKR北陸病院整形外科
- 2020年(令和2年6月)八王子スポーツ整形外科・副院長
- 現在に至る
専門分野
肩関節,関節鏡視下手術,スポーツ医学
所属学会
日本整形外科学会,日本肩関節学会,日本関節鏡学会,日本整形外科スポーツ医学会,日本臨床スポーツ医学会
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