ビッグインタビュー:岩手県文化スポーツ部 上席スポーツ医・科学専門員 髙橋一男氏
岩手県文化スポーツ部の上席スポーツ医・科学専門員である髙橋一男氏は、柔道整復師の国家資格を保有しながら、青年海外協力隊でフィリピンに赴任し、その後も整形外科に勤務。教育委員会、体育協会に要請され勤務、現在の仕事に就かれた方であり、スポーツ分野に並々ならぬ貢献をしてこられた人物である。この多くの経験と実績を積み重ねてこられた髙橋氏から学ぶことは非常に重要であり、そのご意見や考えを真摯に受けとめて前進する必要がある。柔道整復師に対する思いとスポーツにかける思いを話して頂いた。
多職種連携のためにも多くの医療職の方々との意見交換と後進の育成を早急に取り組んで頂きたい!!
岩手県 文化スポーツ部
スポーツ振興課 競技スポーツ担当
上席スポーツ医・科学専門員
髙橋 一男 氏
―先ずはじめに、(一社)スポーツ・コンプライアンス教育機構・武藤芳照代表理事とのご関係について教えていただけますか?
武藤先生は、スポーツドクターとしてオリンピック等でドーピング関連の仕事をされており、その関係で岩手県で講演を何度か実施されました。その頃から、顔見知りとなりました。また武藤先生は、転倒予防にも力を注がれておりまして、やはり岩手に何度となく転倒予防に関する仕事で足を運んでいただきました。私も、現在転倒予防学会の評議員を務めております。武藤先生繋がりで、多くの方々との付き合いや連携が強くなりました。幅広い人間関係だけではなく、視野を広げる事が出来ました。
―髙橋さんは柔道整復師の免許資格を保有しながら県職員として勤務されているとお聞きしました。今の仕事内容についてお聞かせください。
身体を動かすことが好きで、スポーツ関連の仕事に付きたいと考えていました。中学校の時に柔道を始めて、教えてくれた先生が「ほねつぎ」の先生でしたので、憧れ的なこともあったと思います。高校を卒業し、北上市内の斉藤整形外科に勤務しました。その後、斉藤整形外科より奨学金をお借りして東北柔道専門学校に入学し、柔道漬けの毎日で、全国に遠征して、多くの柔道整復師の先輩方にお世話になりました。
現在の仕事は、岩手県のスポーツの競技力向上とスポーツ医・科学に関する仕事を担当しております。いわゆる、スポーツを通じて県民のトータル的健康づくりが、私の役目です。岩手県の競技力向上を目指し、岩手県独自のアスレティックトレーナーの育成や、多くの有識者の方々からご助言と知恵を頂き、アイデアを練りそれを集約し還元しております。そして多くの方々に支えられながら業務に携わっており、他職種の専門の方々の意見を融合させ、より良い方向にベクトルを合わせる役目です。また、県内各地に出向き、特に将来を見据えて「子どもの身体づくり」に励んでおります。将来の岩手県を支えるべき、健康な子供たちを、元気で活発に動ける身体を作るということです。動くべきところが、当たり前に動ける身体、つまり自分の足で、好きなところに自由に動ける「アクティブ」な身体つくりに取り組んでいます。
―これまでの経緯について、もう少し詳しく教えていただけますか。
東北柔道専門学校を卒業し、斉藤整形外科に勤務しましたが、翌年休職し青年海外協力隊の柔道隊員としてフィリピンで2年間柔道の指導をしました。帰国し斉藤整形外科に復職。その後、いろんな資格取得にチャレンジし、それを活かしていくということで、紫波町教育委員会に勤務した後に紫波町体育協会に異動になり、今度は岩手国体に向けて岩手県教育委員会に勤務し、現在の職場となりました。ということで、あちこち転々とし、それぞれ異なった環境で働いてきました。
しかし私の原点は、やはり「斉藤整形外科」であり、院長の斉藤次彦先生に基礎を叩きこまれ、患者さんと接する時は常に五感をフルに活用するようにと徹底して教えられました。院長の「鞄持ち」のような形で、あらゆるところに出向きました。特にスポーツ現場に同行し、応急処置をはじめ、救急対応を学び、現在の仕事の基本を学ばせて頂きました。しかも斉藤整形外科では、看護師さんに看護の基礎と患者さん対応について教えて頂き、事務の方々には、医院の仕組みや保険請求の流れ等も学ばせてもらいました。また先輩柔道整復師の方々からは、整骨院での仕事や他医療機関・病院での実習等を行わせて頂きました。先輩方や地域の方々に声を掛けられ、いろんな会合や集まり、スポーツに誘って頂きました。
多くの方々、特に「他職種」の方々と接することが多かったため、いろんな情報や知識、幅広い観点から考えるようになりましたし、多くの助言も頂きました。その上、いろんな研修や資格も取得する事が出来ました。また幅広く多くの方々とネットワークも出来ました。特にスポーツ現場では、柔道に限らず他の競技種目にも数多くチャレンジをしたことで、様々な方々と付き合う事はもちろんですが、それぞれのスポーツの奥深さを知ることが出来ました。
―髙橋さんから見て、今の柔道整復業界はどのように映り、どのように受け止めていらっしゃいますか?
柔道整復師として「将来を見据えて」ということで話させてください。私自身、資格は有しているにも関わらず、臨床現場から遠ざかっておりまして大それたことは言えません。また、柔道整復師会のことも十分知らないで話すことは大変申し訳ありませんが、私の勝手なイメージで話させて頂きます。
寧ろ、一般の方々も同じように考えているのではないかと思います。その中で (公社)日本柔道整復師会や他団体の柔道整復師会の会員は、開業している方々のみの集まりなのかということです。また女性の会員はどれ位いらっしゃるのでしょうか。医療現場は、女性の方々の就業率が高いように思います。柔道整復師会団体での会員の割合はどうなんでしょうか。他には卒後システムや開業サポート体制はあるのでしょうか?そして、私も会員になれるのでしょうか?役員は全て「柔道整復師」でしょうか?他の職種の方々は入っているのでしょうか?中でも女性の対応策をいち早く考えないといけないのではないかと考えており、他職種との連携や交流や意見交換が必要になってくるかと思います。
そういうことに、一早く取り組むことで柔道整復師の地位が上がると思うのです。他の医療従事者やどこの団体よりも、柔道整復師会が率先して取り組むことで、柔道整復師が社会での地位確立や向上に繋がってくると思います。一方、他の職種の方々は「柔道整復師」をどのようにみているのかについて把握、認識しておく必要があるでしょうし、ざっくばらんな意見を頂いた方が良いのではないかと思っております。一方通行の考えではなく「キャッチボール」、即ち意見交換が出来ることが大切であると考えます(すみません)。多分十分にやっているかと思います。私が知らないだけかもしれません。
―確かに女性の活用は重要ですね!
実は患者さんも半分が女性の方々だと思います。女性の方々が整骨院・接骨院に訪れやすい環境も考えていかなければいけないでしょうし、相談しやすい雰囲気づくりも必要と思います。第3者の眼で外から柔整業界を見ていると、どうしても閉鎖的のような印象が強い感じがします。女性の観点から考えるということは現在のスポーツ界では、当たり前であり、今後に向けて非常に重要と言われています。例えば監督さんにしても、女性チームの監督を男性がやっておりますが、女性の方々の心理状況や気持ちを知る方法として、例えば女性のウェアを着用してみるなど、理解を深める努力を行っています。
私は今、岩手県全体のスポーツを担当していますけれども、将来なんとか女性の監督さんに男性選手を指導して頂き、全国屈指の指導者として活躍してもらいたいと考えています。そういう斬新で今までにないことをしていかないと発展していかないと思っています。早くこういう取り組みを始めないと、若い方が発展していく芽を全部摘んでいるように思います。
―スポーツの魅力についてお聞かせください。
スポーツには、「絶対」というのは無いんです。そうであれば、勝敗が最初から決まっているのならば、あえて試合なんかする必要はありません。競輪・競馬などする必要はありません。弱いんだけども、何故か勝ってしまったり、強いんだけれども何故か負けてしまったり、そういうのがスポーツなんです。つまり、絶対が無いからドラマがあるのです。
「日本一」は、たった1つしかない頂点を争っています。俗にいう、難関大学に入るよりも難しいといわれています。しかも世界一というのは何億分の1の確率です。絶対勝てるという確証が無いのがスポーツの魅力です。また、スポーツというのは人生そのもので、良いことばっかりもないですし、泣いたり笑ったり、負けて悔しかったり、出会いがあったり、苦労したり、親に感謝したり、いろんな方々が支えてくれたり、地域で応援されるなど全て入っていますから、スポーツは人生そのものです。多くの方々に夢や感動、希望も同時に与えてくれます。
―今のお仕事で特に心がけていらっしゃることは?
勿論、直接選手に対してもサポートしていますが、やはり選手を導いている指導者の意識改革が無いと発展していかないので、指導者に情報等をアプローチをして、指導技術のレベルを上げるようにしています。つまり、指導者の方々がレベルが上がらなければ、選手のレベルも上がらないことにつながります。指導者の先見の目や指導力を上げていくことが重要であると思います。
「運動・休養・栄養」という健康の3原則がありますが、スポーツも同じです。運動だけやっていてもダメですし、栄養だけ摂ってもダメです。やはり休まなければいけないという健康の3原則を理解してもらいながら、我々が第3者の眼で助言をしたり、アプローチをしています。簡単に言えば、緩衝材や接着剤の役割で、競技種目や競技レベルにより、適切な物を如何使ったら良いのか上手に使い分けています。私自身は、トレーナーというのは「カメレオン」だと思っています。トレーナーという仕事は、予防やコンディショニング、ケアや応急処置等のいろいろな業務と、もう1つ大事なのは「教育」です。〝このトレーニングは@@筋のトレーニングで、腰痛対策として行う必要がある。将来的な事も考えて取り組みましょう!〟として、スポーツ選手自らが勉強するように導いていく教育です。日頃から一生懸命努力している選手は、それ以上のことも教えてあげたいので、吸収力も早くやっぱり伸びるんです。
私は、いろんな競技に関わっておりますから、この監督さんとこの監督さんをコラボさせれば更により良い方向行くのではないかとして、私の発案で、ある雑誌関係の対談で、ネットを挟んで行う競技「卓球・バトミントン・バレー」の監督さん達に集まってもらってトークをして頂きました。同じような感じにみえる競技であっても、攻撃のポイントや心理面、トレーニングの仕方等、目から鱗のような感じで、より良い情報交換ができました。今度は、「サッカー・ハンドボール・野球(キャッチャー)」のキーパーの方々に集まってもらおうと考えています。キーパーというのは最後の砦で、自分の後ろはありませんし、全体を見渡しながら指示するポジションです。そのような方々の考えや役割などスポーツを知らない方々にもスポーツの魅力を教えてあげる。そうすることでファンが増えたり、トレーニングのヒントを得たり、監督さん同士が付き合うことによって、悩みを打ち明けられたりなど、意外とやっているようで、やっていない事を私は岩手でやっています。他にも男子新体操とボクシングの選手を一緒に合宿させ、同じ所で練習させました。そうすると、今までとは違った環境での練習ですし、お互いが気になってしようがない。自分達で宿舎の部屋割を決め、お互いにいろいろ考えて意見を出し合いながらやって、ボクシングの子ども達にパンチの仕方等を夜遅くまで教わったり、逆に新体操の方々は、倒立の仕方等を教えたりしていました。同じスポーツ選手として、意気投合しているようでした。その後、新聞を見ると〝あいつら頑張っているな、僕らも負けられないな〟というライバル意識が芽生えて相乗効果が出来ていくのです。従って、どのようなアプローチすればお互いに向上するのかというのが私らの仕事だと思っています。そのようなことが、スポーツがきっかけとなって社会にも還元できるのではないかと思っています。
しかも健康に関しても同様と考えており、いくら健康に良いと思っていても、実際に生活の中で浸透していかなければならないと思います。食生活改善推進員という女性の方々が地域に居らっしゃって、先日その方々に健康づくりに向けての運動に関して講演をしてきました。地域の食材を利用して、地域の健康づくりに役立てる食事について工夫を凝らしながら活動している方々です。〝参加者の皆さんで工夫して作った昼食を食べていってください〟ということで食事をしながら、いろんな意見交換をしました。そこで私は〝これ何時間かけて作りましたか?〟と聞くと、2時間位かけて作られたとのことでした。〝すみませんがそれでは一般家庭では、普及しません〟と。何故なら、身体によい食材と食べ物でも、そんなに時間を掛けて作る余裕のある方は少ないでしょう。スポーツ現場に長年携わっていて、一人暮らしで頑張っている選手などは、特に食事に関して、一番重要な部分でもあります。先ずは、食事が普及するポイントとして「安い!早い!美味しい!」であり、それにもう1つプラスアルファがあって〝洗いモノが少ない!〟ことが大事です。〝朝ごはんはこれを食べましょう!〟等々、専門の方々が指導していることは分かりますが、1時間もかけて食事を作るというのでは現実的ではないように感じます。例えば全部電子レンジでチンで出来るモノという訳ではありませんが、上手に利用しながら作れるモノが普及に繋がると思います。一方的な話ではなく、逆の立場になって考えてみることも必要だと思います。
―オリンピックへの高橋さんの思いと柔道整復師がオリンピックに参入することへのアドバイス等ありましたら・・・
オリンピックに関しては、岩手県の選手が出来るだけ多くの選手が出場し活躍して、出てもらいたいという気持ちです。それが今後の岩手のスポーツの発展の糧になります。遂に「勝負の時が来た!」という感じです。
柔道整復師の方達がオリンピックに参入する件に関しては、難しいと思われます。というのは、スポーツドクターでさえ出来ません。国体における実施要項の「救護所の設置要項」に、医師・歯科医師・看護師で構成されると明記されています。そこには、理学療法士、作業療法士、鍼灸師等も入っておりません。岩手国体の時から、アスレチックトレーナーがやっと明記されることになりました。規定がそうなっているので、オリンピックでも、その基準に沿って大会運営が行われます。選手サポートに関しては、柔道整復師の資格とダブルライセンスでサポートを行うと思われます。
今後に向けては、スポーツ大会等において柔道整復師が救護所での活動に関しては、活動に向けてのマニュアル作りやトレーニングが必要と思います。特定の柔道整復師だけが行う活動ではなく、柔道整復師の方々が当たり前に活動できるようにする必要があると思います。「AEDの使用方法」「緊急搬送の方法」「大会運営本部への報告」「医師や他の医療従事者との連携活動」等々、経験則での活動だけではなく、柔道整復師だからこそ出来る活動を確立し、社会にアピールしていく必要があると感じます。岩手県で私は独自のアスレチックトレーナーを養成してきました。その中のカリキュラムに「大会運営に係る救護活動」があります。現場での活動を明確化することで、社会からも認められる存在になりますし、医療関係者、特にドクターからも信頼を得ています。最低限の活動フィルターと共にトレーニングカリキュラムが重要です。長野オリンピックの時のJATACでも活動に向けてのトレーニングや最低限のフィルターを通したと思います。しかもオリンピックに参入するとすれば〝柔道整復師は何ができますか〟という事を明確にさせる必要があります。
―今後の柔整業界について、ご意見などあればお聞かせください。
私が考えるには「若い方々に興味を引く事業展開」を行う必要があると思います。高校生など若い方々に対して、柔道整復師の魅力をしっかり話し、伝えていくことです。そうすることで、若い世代の方々に柔道整復師になる夢を抱いて目標として頂き、その優秀な人材を発掘し、彼らが世界で活躍する場を切り拓くように道筋を作ることだと思います。そのため、柔道整復師の魅力をしっかり伝えなければいけないし、奨学金制度とか将来に向けての基礎づくりが重要です。他には柔道整復師の免許を取得した後に、開業するための奨学金を貸し付ける等、支援体制を整えることです。そういった道筋を予め設けてあげることが私は発展の兆しになるのではないかと思っています。
実は私、大学のドクターに声を掛けられ、「手当て」について講義を手伝ってほしいということで、いろいろ指導しました。ドクターを目指している学生は、柔道整復師のことを全く知りませんでした。整体院と同じように考えておりましたので、少しでも柔道整復師を紹介できたのではないかと思っています。先述の通り、私はトレーナーを育成していて、医療機関で勤務する理学療法士さんや作業療法士さん方に〝申し訳ないけど皆さんは処方された業務を行っています〟。そして柔道整復師さんに対しては〝皆さんはそれぞれの見立ての経験則が多く、周りの方々(医療関係者)とコミュニケーションが上手に取れてないですよ〟と。〝スポーツ現場では連携しながらチームとして行っているので、そういうことを理解しながらやっていかないと、今後スポーツ現場においてベストなサポートに繋がりません〟ということを言ったことがあります。あまりにも面と向かってストレートに言うと嫌がられますが、でもちゃんと素直に聞いてくれる方々もいます。
やはり柔道整復師の将来を見据えていくことが大事で、例えば、これもよく言っていることですが〝私が一生懸命いろんな事を行っても私だけで終わりにならないようにすることです。私の仕事を引き継ぎ発展させてくれる人材と、私らを支えてくれる若い人財を早く育てなければならないですよ〟と。例えば、よく「匠」といわれる巨匠の方達は、高度な技術を習得するまで10年間はかかるとよく仰います。でも10年かけて長い年月を経て修得できるテクニックが分かっているのであれば、5年で高度な技術をマスターできるプログラムを考え指導することで、更に高度な技術習得に向けて道筋が出来てきます。結果として「技術の向上」と共に「伝統技術の伝承」に繋がってきます。
また多くの方々と交流することで、より良い友人が、より良い知り合いを紹介してくれます。そうすることが将来に向けての発展の導火線になります。一番大切なことは、 チームの一員としての活動 であり、それぞれの役割を担う活動です。あと1つは、これまでの活動について 検証をお願いしたいですし、それに対しての研究成果や課題を出すことです。常に第三者の目を入れて、公平な立場の助言を頂くことが必要で、それを素直に受け止めて傾聴することが重要です。何も、マイナスの事だけではなく、プラスになることが多いと思います。
―岩手県の取組みで特徴的なことがあれば教えてください。
私は今スポーツを担当しているので、スポーツのことに関して言わせてもらうと、今は岩手県が大注目の的になっています。ここ数年、急激に岩手の選手が世界で活躍しています。大リーグで活躍している大谷翔平選手・菊地雄星選手をはじめ、スキージャンプワールドカップでは日本人初となる個人総合優勝を成し遂げた小林陵侑選手を筆頭に、みんな同じような世代の選手が、世界を股にかけて活躍しています。これまで岩手県の選手は、〝日本一になれたら良い〟という消極的な考えでしたが、思ったよりも簡単に日本一になれると気付いてからは、世界を目指すことになりました。周りの選手も〝自分達だって大丈夫だ!〟と、きっと〝ある壁を破ってしまった〟だけのことなのでしょう。岩手県出身の若いアスリートが今世界で活躍しているので、日本国内で話題沸騰するため、知り合いから〝なんで岩手県の選手がこんなに世界で活躍するようになったの?〟とよく聞かれますが、〝それはちょっと言えない秘密になっていて・・・〟等、冗談っぽく答えています。やはり、そこも上手に対応していかなければいけないことであります(笑)。
その他にも、いま学校では耳鼻科検診、内科検診等いろいろありますが、武藤先生らのご尽力により、3年前から運動機能検診が始まっています。身体の運動器すなわち各関節が正常に動くかどうかを検診します。本来動くべき関節の動きが、あまりよくない子どもがいます。例えば、手を前に出して手関節の底背屈がしっかり出来ない等、特に背屈がしっかりできないことで、転んで手をついて骨折に繋がるケースもあります。この検診は、全国各地域のドクターが直接学校に出向いて行っていると思います。それを受けて、私たちは学校で生徒同士が互いにチェックできるように「運動器機能チェック」というのを作ってやっております。私らが独自に作った「運動器機能チェック」は、中学生・高校生同士でチェックするため、将来、自分の子どもをチェック出来るようになります。ということで、岩手県は将来を担う子供たちの対応策も同時に考え、普及に繋げています。
もう1つ、現在、次世代加速器ILCの実験施設が岩手の北上山地に出来る計画が進められており、将来的に世界各国の研究者が訪れることになるでしょうし、それでなくても、東京オリンピック前の今年はラグビーワールドカップが釜石で開催されますので、多くの外国人が訪れます。それに対応するためにも英語や外国語を普通に話せるような環境づくりが求められるでしょう。将来に向けて「岩手県からの発信」ということで、岩手県だからこそ出来る事を考えております。特に、岩手県民の特性を活かして、岩手県民らしさを前面に出して考えていきたい。東日本大震災の影響で、沿岸地域の子どもたちの運動機能や活動能力の低下に対する対応を考えており、今は何ともないかもしれませんが、数年後にはその歪が現れるのではないかと危惧しており、重要課題だと思っています。スポーツを通じて「心と体」のバランスを考えて育成し、多くの方々との繋がりを作り、スポーツを「コミュニケーションツール」にしたいと考えております。
―最後に、後進の方々にメッセージをお願いします。
今後の柔道整復師へのメッセージとしては、養成現場・学校の教員は一生懸命頑張っていると思います。当然「国家試験」に向けての指導も行っており、それだけではなく、社会で活躍できる「人間教育」も併せて指導されていると思います。中でも〝若い人財をどのように活かすか?〟〝どう育成するか?〟が最も大事であり、所謂卒後対策が重要です。医師は、研修医制度がありますが、これまで柔道整復師は資格を取れば直ぐに「開業」できました。昨年の制度改革で今年から実施されたと聞いておりますが、開業に向けてのしっかりした「システム作り」が今後必要だと思っています。「秘伝のタレ」的なことではなく、何処の整骨院でも行える最低限の対応、「基本ライン」が必要です。他には日本人だけを相手にするのではなく、今後は日本で生活している外国人にも対応するために、そして柔道整復師の技術を「世界発信」をするためにも多言語での対応が重要です。それには、やはり若い方々をどう育て・導くかが重要です。繰り返しになりますが、つまり「魅力ある柔道整復師」になるための対策や若い優秀な人材をどのように発掘し、社会に宣伝・アピールするか?他職種の方々との「情報交換」と「情報発信」と共に、医療関係者との連携等、若い方々の「開業に向けての育成システム」を考えなければいけないのではないでしょうか。今や社会では、専門学校卒業では、社会は中々認めてくれない状況です。より高度な専門技術を身に付けていくことが大切であると思います。理学療法士や作業療法士の方々は、いち早くそれらを察知して取り組んでおられます。
その他に私が危惧していることとしては、若い人材の芽を摘んでいないだろうか?ということと、もっと柔道整復師をイメージアップする取り組みや紹介が必要ではないでしょうか?柔道整復師だからできる事、つまり柔道の動きや基本動作が直接治療や予防策になる等、柔道を通じて健康づくりや地域の健康に役立てるような取り組み、そういった面からのアピール力が足りないのではと感じています。今まで活動していた経験だけではなく、今後将来活動するための「システムプログラム」が必要であると考えています。
柔道整復師の先生方と会うと、〝将来が危うい〟〝患者さんが少ない〟〝保険請求が・・・〟などと眉間にシワを寄せて、マイナスな話題だけが多く聞かれます。職業柄、悪いところなどを直ぐに見抜く能力に長けており、それに対するアプローチの仕方について常に考えながら仕事をしている方々です。患者さんに対して、一生懸命エネルギーを費やしているのは解りますが、目先の話ではなく将来に向けて、後輩のためにもより良い打開策等考え行動して頂きたいと思います。皆さんは、患者さんの将来を見据えて対応するプロフェッショナルと思います。同時に柔道整復師の将来を見越してのアプローチに期待したいです。
現在、指導者や親、そして選手に情報を提供することが多いですが、上から目線で指導するのではなく、目線を同じ高さにして、自分自身で方向性を見極めことが出来るように、自ら考えて答えを出せるように、指導するように心掛けています。教えられたことや指導されたことだけではレベルアップは横ばいです。教えられた以上に工夫を凝らすことが大切であり、それは自分で考え行動していかなければなりません。そうすることが前向きな将来を築くことができますし、輝いて見えます。また、より積極的な行動にも繋がってきます。柔道整復師が世界で活躍する姿を待つのではなく、育て、作り上げ、後押し、そして支えることです。期待しております!
(最後に、私の勝手な考えを話したことで、気を悪くしている方々もいるかと思います。申し訳ありません)
髙橋一男氏プロフィール
昭和38年3月21日生まれ、56歳。
昭和56年、岩手県立北上農業高等学校農業科卒業。59年、東北柔道専門学校柔道整復師科、柔道指導員養成科卒業。斉藤整形外科物療室勤務。61年、青年海外協力隊・柔道隊員としてフィリピン柔道指導。(斉藤整形外科休職) 63年、斉藤整形外科物療室、復職。平成13年、紫波町教育委員会、社会体育実技指導員。財団法人紫波町体育協会、トレーナー。25年、岩手県教育委員会事務局、専任アスレティックトレーナー。26年、岩手県教育委員会事務局、上席スポーツ医・科学専門員。29年、岩手県文化スポーツ部スポーツ振興課競技スポーツ担当。上席スポーツ医・科学専門員。
資格:
柔道整復師、健康運動指導士、温泉利用指導者、ヘルスケアトレーナー、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー専任教員、転倒予防指導士。
柔道5段
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