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ロンドンオリンピック2012活動報告

2012/10/01
―柔道整復師として韓国柔道ナショナルチームに帯同して―

浜松大学 田澤 裕二

 

私は、2012年7月27日より8月13日まで開催されたロンドンオリンピック(第30回オリンピック競技大会)に、韓国ナショナルチームの柔道担当医科学委員として参加いたしました。さらに、オリンピック開催前の約3ヵ月間、韓国ナショナルトレーニングセンターで行われた直前合宿にも帯同いたしました。今回の一連の活動を通して、医科学委員としての柔道整復師の役割および今後の課題について総括したので報告いたします。

 

Ⅰ. 活動内容

#1) 韓国ナショナルトレーニングセンターにおける活動

2012年5月4日から7月22日まで、 韓国ナショナルトレーニングセンターにおいて、選手と寝食を 共にいたしました。

1日のスケジュールは、下記のごとくであります。

【 6:00~7:30 】 サーキットトレーニング
  その日の選手のコンディショニングを把握
【10:00~11:45】 ウエイトトレーニング
  負傷者別にトレーニング指導
【15:00~17:30】 柔道トレーニング
  柔道経験者の立場から、選手のバランス感覚や負傷者別の動きに対するアプローチなどを指導
【20:00~21:00】 ウエイトトレーニング
  バランス感覚を養うことを主に指導
【21:00以降】 治療
  各トレーニング中および空き時間と同様に、就寝前まで選手とコミュニケーションをとりながら施術

 

#2) ロンドンにおける活動

7月23日に韓国を出発、ロンドン到着直後より治療を開始し、直前合宿と同様に、現地でも選手のコンディショニング管理ならびに指導を継続いたしました。7月28日から8月3日までの競技期間中は、大会会場であるエクセル展覧会センターのトレーニング場にて、出場選手の治療およびコンディショニング調整を集中的に行いました。

私が担当した男子柔道の結果は、7階級において金メダル2個(-81kg級と-90kg級)および銅メダル1個(-66kg級)を獲得いたしました。

 

Ⅱ. 総括

韓国柔道ナショナルチームに正式に携わってから約3年が経ちますが、これまでの帯同は、各ワールドシリーズや世界選手権の開催1週間前からが常であったため、コミュニケーション不足は否めませんでした。しかし、今回のオリンピック帯同は、長期に亘り選手およびスタッフと共に密接に過ごしたこと、さらに、本年2月、韓国龍仁大學校において博士号(体育学)を取得したことも相乗し、選手、コーチならびに監督との信頼関係がより深く構築されたものと確信しております。このことは、柔道以外の競技指導者や選手からも数多くの症状に関する相談および治療の依頼を受けたことからも評価できると認識しております。

しかし、韓国柔道連盟はもとより、体育協会の上層部や首脳陣において、未だに柔道整復師という職種への理解度は低く(接骨師はチョッコルと呼称され韓国においても存在するが、日本での認知度とはかけ離れている)、私個人の技術、能力、働き、力量だけを判断し求めてきました。

また、日本のように専属のチームドクターは就任していないため、選手のコンディショニングなど全く把握しないまま試合会場に同行するので、トレーナーはあらゆる面で微妙な立場に立たされております。一方、ナショナルトレーニングセンター内には、常設の治療所(常勤の整形外科医はいない)があり、優秀な理学療法士(以下、PTと略す)が主に治療を行っております。

今回の一連の帯同による柔道整復師としての私の役割は、治療は当然のことながら、選手のトレーニング状況を観察しながら、個々のコンディショニング、負傷部位と状態、さらに、選手の柔道の癖や弱点を把握することにより、新たなケガおよび重症化への予防を行うことにありました。加えて、メンタル面のサポートも極めて大切でした。

今後は、より一層PTたちとコミュニケーションを持ち、“柔道”の障害予防に関する知見を共有させることを最優先に行うことが重要であると考えております。すなわち、彼らと共同で研究を行い、韓国内のスポーツ医学関連の学会などで発表していくことが必要であると思っております。

好ましいことに、今回のオリンピックに柔道担当として参加していたPTが、ナショナルトレーニングセンター内の治療所の責任者であったこと、さらに、本競技大会において、最多の治療を受け、私に全幅の信頼を寄せた選手が金メダルを獲得したことにより次期のコーチに任命されたことなどを考え併せますと、今回のオリンピック帯同で構築された信頼関係を継続し、これまで以上にコミュニケーションを活発化させ、柔道整復師としての医科学委員の活動を韓国柔道会および体育協会に周知させることが、今後の課題であり、金メダル量産への最短距離だと再認識しております。