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介護における柔整の現状 
―介護保険における柔道整復師の役割―

2010/08/01

次に、二点目の機能訓練指導員として地域支援事業における介護予防事業へ参入する場合を論じてみる。現在、(社)日整の下部組織である地方社団の活動として地域支援事業における介護予防事業に参入している事例を目にする。昨今、「介護保険を柔道整復師が扱う。」といった魅惑的な表現があるが、現段階では非常に曖昧であり積極的には評価できない。柔道整復師が接骨院から離れ集団的機能訓練の場所へ赴き、積極的に自らの能力を啓蒙するための処方としては意義深く、その課程により知り得たネットワークにより本業の接骨院への患者数を増やす目的であれば十分な成果が期待できよう。しかし、その行為を冷静に分析すると「介護保険制度における柔道整復師の位置付け」ではなく、滞っている地域支援事業の実績作りを望む行政と介護保険給付に肖りたい柔道整復師の思惑が合致した打算的事業といえる。やはり柔道整復師という医療国家資格を持った専門家が携わる場合の明確なルール作りが必要であり、少なくとも柔道整復師の身分での介護予防事業を専業で行った場合の確立した身分と、生活が可能な報酬の条件は必須であろう。現段階では柔道整復師が地域支援事業における介護予防事業で生活の糧を得られるほど整備されていない。

機能訓練指導員として柔道整復師が活躍するためには環境を早急に整えなくてはならない。柔道整復師の知識と技能を行政に啓蒙し、地域包括支援センターの業務に看護師、保健師と共に介護予防事業の運動器機能回復訓練を柔道整復師が従事できるように働きかけ、柔道整復師の位置付けを明確にする必要がある。そのための一歩として柔道整復師と看護師・保健師あるいは柔道整復師と社会福祉士等ダブルライセンスを持った柔道整復師を柔道整復業界が支援する体制を構築する作業や柔整学校教育や柔道整復師への卒後研修、生涯学習のなかに介護福祉分野を学ぶ機会を設け、地域包括支援センターの役割等を理解することが必要である。それらの意識を基に日頃から柔道整復師が担当地区の地域包括支援センター職員と密接に連携し接骨院・整骨院が地域と密着した(外傷患者だけではなく)避難所的役割を担っている機関であることを共に認識し、地域包括支援センターと共に地域を支えるカウンターパートナーとしての役割を担っている意識作りを育む必要がある。

柔道整復師が実施する特定高齢者への機能訓練がもたらす費用抑制効果を強調し、介護保険分野への参入を日本全体の柔道整復師が協力し実直に推進することが、介護行政における柔道整復師の評価を高める第一歩となる。

長い歴史、伝統ある柔道整復とはいえ、時代の隆盛に影響される部分も多くなった。人類が未だ経験したことのない超高齢化社会を迎え我が国は今、政官民一体となりこの事態に対応すべく準備を進めている。地域医療の礎を支え、地域に愛され慕われてきた柔道整復師が、いま地域コミュニティーに新たに参入しようとしている一つの試みが介護保険分野参入である。柔道整復は過去、国家の大変革時、幾度となく廃止、禁止の憂き目にあっている。しかし、その度に国民の熱い支持のもと復活してきた歴史がある。国民に「柔道整復は必要である。」との意識があったからこそ今日まで続いていると言っても過言ではない。しかし、これは言い換えれば国民に不必要と判断された場合、現在の繁栄は簡単に崩れてしまう。国民の要不要に惑わされてはいけないが、国民のニーズをしっかりと掴み、実現することが柔道整復業界の将来にとっては重要なことである。

柔道整復師の本業、根幹は「ほねつぎ」、「接骨・整骨」であることは言うまでもない。介護分野はあくまで付加価値ではあるが、介護へ参入できる環境が整えられてからの取捨選択の一つとしての介護分野であれば、柔道整復師としての選択肢も増え、地域からの信頼がより高まるであろう。

我が国に柔道整復が誕生して90年。地域医療の礎を支え、いま更に国民の福祉の向上へ寄与できる可能性、期待が高まっている。「精力善用」「自他共栄」の理念のもと全国の柔道整復師が一丸となり国民の期待に応える必要がある。

 

プロフィール

酒井    重数


富山大学大学院柔道整復学講座客員研究員
医学博士

(社)富山県柔道整復師会   理事

「HP」
富山大学大学院医学薬学研究部 システム情動科学

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