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これだけは知っておいて!!

第65回   【「ほねつぎ」という名称に籠(こ)める思い】

2013/02/01

柔道整復師として最低限理解しておかなければならない事柄を掲載してきた「これだけは知っておいて!!」。今回は今一度原点に立ち返り、「ほねつぎ」という名称に籠(こ)める思いを明治国際医療大学教授の長尾淳彦氏に執筆いただいた。

 

「ほねつぎ」という名称に籠(こ)める思い

長尾  淳彦

我々、柔道整復師の昔からの呼び方で現在でも名称として許可されている「ほねつぎ」。

この名称に誇りと気概を持っている柔道整復師が全国にどれだけいるでしょう。

数十年前はどこの接骨院も「骨折」「脱臼」の患者さんは月に数名、多いところは毎日新患が来院されていた。「骨折・脱臼は接骨院」が当たり前でした。

私事、恥ずかしい話ですが、難しい症例の場合、急いで師匠のもとに電話をかけたり整復本を速読して整復法の再確認をして緊張感のある中、慎重に整復操作や固定を行ったことを思い出します。適切に骨折の整復を行い固定すると痛みは驚くほど軽減します。患者さんの表情の変化は脱臼ではさらに顕著です。患者さんの安堵の笑みを見たときが「ほねつぎ冥利」に尽きる時です。整復後の確認も近隣の医療機関で行い担当医の先生にはその後の適切なアドバイスをいただき、地域での患者さん第一のシステムはうまく稼働していました。全国どこでもこのような状況であったと思います。

さて、話は現在に戻しますが、この1カ月間に骨折や脱臼の整復をされた先生方は何名おいでになるのだろうか?

感覚的でいいので各都道府県全体の1カ月間の骨折・脱臼の数を推測していただきたい。

私の所属する社団法人京都府柔道整復師会の支給申請書統計(平成23年10月提出分)として400名弱の本会会員の支給申請書総数(協会けんぽ・組合健保・共済組合・国保・後期高齢分)は約48000件。言い換えれば京都府柔道整復師会会員が1カ月間に診る患者さんは48000名ということになります。

骨折部位数は178部位(うち後療37)、不全骨折部位数は18部位(うち後療2)、脱臼部位数は56部位、総計252部位であります。各々重複しないとして全体に占める割合は0.5%であります。1%にも満たないのです。骨折(後療を含む)の部位別数では上腕骨7、前腕骨29、手根・中手骨9、指骨25、鎖骨7、胸骨2、肋骨13、腰椎7、尾骨2、大腿骨6、下腿骨18、膝蓋骨6、足根・中足骨26、趾骨8、他13。脱臼の部位別数は顎関節2、肩関節14、肩鎖関節1、肘関節(肘内障を含む)27、指関節8、股関節1、足関節1、趾関節1、他1となります。

1接骨院の傷病(負傷)分類かと思うほど少ない数です。日本国内の骨折や脱臼の発生率が極端に減少したというわけでなく、骨折や脱臼の患者さんが接骨院へ行かなくなったのです。来なくなったのです。何故か?

ひとつは、接骨院では画像診断(X線、MRIなど)が出来ないので行っても医療機関に紹介されるので二度手間となること。

もうひとつは柔道整復師の「質の保証」が無くなりつつあるということが骨折・脱臼の患者さんが減少した大きな理由としてあげられます。

この「質の保証」は今後、柔道整復師に係る各種制度が継続されるには非常に重要なものです。

「協定」と「契約」柔道整復師に分かれ、「養成施設・柔道整復師の急増」の原因となった福岡裁判の平成10年から柔道整復師の「質の保証」は徐々に侵食されてきたと思います。

以前にも書かせていただきましたが昭和11年全国の柔道整復師会と都道府県との保険協定が結ばれた根柢にあるものは「柔道整復師はきっちり治す」「柔道整復師は不正をしない」という世間の評価があったからだということ。

打撲、捻挫、挫傷も我々柔道整復師の取扱う大切な傷病であり、きっちり治すことは当然のことですが「骨折や脱臼」の患者さんが今後、全体の1割2割を占めるようにするためには十数年間かけて「質の保証」が侵食されたように十数年間かけて「質の保証」を積み上げなくてはなりません。

昭和45年、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師等に関する法律から分離して「柔道整復師法」が単独(行)法になったのは、「その施術の対象がもっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など新鮮なる負傷に限られており、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師とは異なる独自の存在を有している」ことが理由であります。現在、我々柔道整復師は他と異なる独自の存在を示していますか?

「ほねつぎ」という名称が死語とならないように、鑑別法、整復法、固定法を柔道整復師が骨の髄まで沁み込ませ「骨折・脱臼は接骨院」を当たり前にする努力が必要です。

「骨折や脱臼」の取扱いが出来ることは柔道整復師が柔道整復師であるための最後の「砦」です。絶対に死守すべきものです。質の担保された非観血的徒手整復による保存療法を望む患者さんは多数おられます。柔道整復師自身がその「砦」を守らなければ誰も守ってはくれません。そのためにも「質の保証」は非常に重要です。 「ほねつぎ」これは日本伝統の「医療」であり日本の素晴らしい「文化」であります。

現在の柔道整復師が永劫的に継承していく責任があることを心しなければなりません。

これは日本柔道整復師会17000名だけでなく全国の就業柔道整復師55000名全員で行わなくてはならないことだと思います。